第24話 女達の話

 メシメシメシ。


 ちょっと離れた木陰から見守っていたモナカは、荒れ狂う嫉妬と不安で木の幹を握り潰しそうになっていた。


 仕方ない。だって相手は学校一の美少女だ。どっちを彼女にしたいと聞かれたら、男子は全員伊織を選ぶだろう。それくらい伊織は抜きんでた美貌の持ち主である。


 琥珀と伊織ははた目にもお似合いで、しかもなんかいい感じの雰囲気になっている。

 そりゃ嫉妬もするし不安にもなる。


 大体モナカは付き合ったばかりだ。たまたま出会ったイケメンがフリーだったので、駄目元でアタックしたら成功してしまった。それだって、女性誌に載っていた男を落とす小悪魔テクニックとやらをパクっただけに過ぎない。正直、なんでこんなイケメンが自分みたいな変な女と付き合ってくれたのか不思議である。


 しかも琥珀はモナカの性癖にドストライクの男の子だ。庇護欲をそそる可愛いわんこ系の美少年である。しかも一途で、即落ちヒロインもびっくりの速度でモナカに懐いている。


 それでモナカも本気になってしまった。だってイケメンだし、自分みたいな変な女をストレートに好き好き慕ってくれるのだ。これで好きにならない女はいない。


 そこで持ち上がったのが琥珀のイケメン問題である。妬みによるイジメならモナカは気にしない。鷹峰高校に転校する前は、世紀末みたいに荒れ果てた学校に通っていた。そこで地獄をもたらす者ヘルテイカーとか呼ばれてスケ番を張っていたのだ。


 別に好きでやっていたわけじゃない。

 ただの成り行きである。


 おかげで男っ気のない生活を過ごしていた。だから、親の都合で引っ越したのを幸いにと、普通の女子高生らしいキャッキャウフフの甘酸っぱい青春を目指す事にしたのである。地味子みたいな格好や琥珀にアタックしたのもそれが理由だ。


 そんなモナカだから、琥珀の言うような障害はどうにかなると思っていた。

 だが、付き合った後に女共が群がってくるというのは想定外だ。


 腕っぷしならいざ知らず、モナカには女としての自信がまるでない。だって令和の時代に喧嘩上等のスケ番である。そんな女、好きになる男なんかいないだろう。


 出て来る女は変人ばかりだが、みんな個性的で可愛い子ばかりだ。

 そしてしまいには学校一の美少女である。


 モナカとしては、大好きになってしまった可愛い彼氏を取られるんじゃないかと、気が気ではない。


 あぁ! 地獄の女帝と恐れられたこの私が、こんなにも心をかき乱されるなんて!?


 恥ずかしいやら悔しいやら、乙女心はぐちゃぐちゃである。


 仕方ない。

 モナカだって、変わってはいるが基本的には普通の女子高生なのである。


 ……やっぱり止めに行こう。

 あの女に取られて後悔するくらいなら、力づくで排除してやる。


 決心して歩き出すモナカの前に真姫が立ち塞がる。


「姐御! 頼んます! セイレーンに話をさせてやってください!」

「どきなさい」


 モナカの腹パンを受けても、真姫は道を譲らない。


「嫌っす。これだけは、姐御の命令でも聞けません! オレ達はただ、納得したいだけなんすよ! 天吹君に彼女が出来るのは仕方ないっす。でも、ちゃんと気持ちを伝えないまま終わっちゃうのは……悲しすぎるじゃないっすか!」


 真姫の気迫にモナカはたじろいだ。

 真剣な言葉とは裏腹に、真姫の顔はもっと殴ってくれとばかりに興奮していた。

 普通に怖い。


「グラップラーの言う通りだ。それにモナカ君。ここで割り込めば君は天吹君の気持ちを疑う事になるが、それでいいのかな? ――ギャン!?」


 なんとなくムカついたので殴ったが、アリエッティの言葉はモナカに響いた。


 ここで琥珀を信じられなければ、モナカは自分の中に芽生えた尊い気持ちを穢してしまうような気がした。


「お願いですわ地獄谷さん! セイレーンにも気持ちを伝えるチャンスを下さいな! お金ならいくらでもあげますから!」


 後ろからは、半泣きの法子までもが抱きついてくる。


「あぁもう! 鬱陶しい! わかりましたから、くっつかないで下さい!」


 それでモナカも覚悟を決めた。

 だからと言って不安が消えるわけではなかったが。


 ……琥珀君。信じてますよ。


 自分に言い聞かせるように祈るばかりだ。

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