第23話 無限ループ
「あたしはね、天吹君に怒ってるんだよ?」
「は、はひっ」
学校一の美少女は、怒った声も美少女だった。
そんな伊織に一ミリも笑っていない笑みを向けられて、琥珀の心臓は凍り付いた。
ラブレターは嬉しいけど、彼女がいるから付き合えません。
そんな台詞を言える空気ではまったくない。
「なんでかわかる?」
「……ぼ、僕が彼女を作ったからです……」
「違います」
「違うの!?」
驚く琥珀を見て、伊織が拗ねた様子で毛先を弄る。
「違わないけど……。それについて文句を言うのは違うから」
「じゃあ、なんで……」
「本当にわからない?」
じっとりと、責めるように見つめられ、琥珀は必死に考えた。
だがわからない。わかるのは、伊織が規格外の美少女だという事だけだ。こうして目の前に立っていると、美少女オーラに吹き飛ばされそうになる。モナカが弱気になるのも無理はない。でも、僕が好きなのはモナカちゃんだからね! 琥珀はお守りを握りしめるようにモナカの事を想った。頭に浮かんだのは大きな壁尻だったが。
「本当、そういう所だよ」
力なく首を横に振る琥珀を見て、伊織は呆れたように言う。
「あたしが怒ってるのは、天吹君があたし達にチャンスをくれなかったからだよ」
「チャンス?」
「そう。彼女になるチャンス。あたし達が告白しても、天吹君は真面目に取り合ってくれなかったよね? 僕と付き合うと不幸になるとか中二病みたいな事言ってさ」
グサ。やっぱり僕って中二病なの?
学校一の美少女にまでそんな事を言われてしまい、琥珀は泣きそうになった。
いや違う! 思い直してぶんぶんと首を振る。
「だ、だってそうでしょ! 僕と付き合ったら、藤崎さんだって他の女子に嫌われちゃうよ! イジメられて、ひどい目にあっちゃうんだよ! そういう事が前にもあったんだ! それは手紙で伝えたでしょ!」
伊織にも、モナカの時と同じように付き合えない理由を詳しく説明していた。
それで一度は諦めてくれたはずなのだ。
「うん。それであたしも日和っちゃった。周りの目もあったし、天吹君に彼女を作る気がないなら、もうちょっと様子を見ようって。好きになった男の子を苦しめたくなかったし。だから、同じ気持ちの女の子を誘って、天吹君を見守る会を作ったの」
「……それは、感謝してるよ。僕は全然知らなかったけど、見えない所で助けてくれたんだよね? だから、ありがとう、藤崎さん」
その時だけは、琥珀も真っすぐ伊織の目を見つめた。学校一の美少女の尊顔を直視するのは恐れ多いが、よそ見をしながらお礼を言うのは失礼にあたる。
その事を、すぐに琥珀は後悔したが。
だって学校一の美少女だ。学校で一番可愛い女の子である。そんな子を間近で見たら、したくなくてもドキドキしてしまう。
どうやらそれは伊織も同じだったらしい。今まで一度も目を合わせてくれなかった学校一の美少年に見つめられ、ポンッ! と可愛らしい音が鳴りそうな感じで赤面した。
その照れ顔がまた可愛くて、琥珀も照れてしまう。
すると伊織もキュンとして、余計に赤くなる。
学校一の美少女と美少年による、照れ照れキュンキュンの無限ループが完成した。
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