第22話 伝説の木の下で学校一の美少女と修羅場る
鷹峰高校の校舎裏には伝説の木と呼ばれている桜の木がある。
曰く、この木の下で結ばれたカップルは絶対に別れない。
曰く、この木の下で告白したら絶対に失敗する。
曰く、この木の下には死体が埋まっている。
曰く、ある女生徒がプレイボーイのイケメン男子にフラれ刺し殺した。
曰く、四時四十四分にこの木に藁人形を打ちつけると嫌いな相手を呪う事が出来る。
曰く、曰く、曰く……。
色んな伝説のある曰くつきの桜なのだった。
丁度見頃の時期で、満開の花びらがはらはらと散っている。
それだけでも十分綺麗なのだが、根元には学校一の美少女である二年四組の藤崎伊織が立っていて、目の前の光景を幻想的なものに変えていた。
伊織の容姿だが、学校一の美少女を想像して頭に浮かんだ姿がそれである。
それくらい、伊織は誰もが学校一の美少女だと納得するような美貌の持ち主だった。
そんな彼女も琥珀に告白した女子の一人である。
一年生の頃、やはりラブレターで伝説の木の下に呼び出された。
『……来てくれたんだ。私ね――』
『ごめんなさい! 藤崎さんとは付き合えません!』
かなり遠くからお断りして、琥珀は走って逃げた。
だって相手は学校一の美少女である。まともに向き合ったら断れる自信がない。だから申し訳ないと思いつつ、遠くからお断りした。
伊織は納得しなかったが、学校一の美少女と美少年が一緒にいたら周りが黙っていないので、以降はお手紙で何度かやり取りをして諦めて貰った。
イケメンの呪いもそうだが、琥珀は自分の事を顔以外何一つ見るべき所のない男だと思っているので、学校一の美少女なんて荷が重かったのだ。
ちなみに伊織は天吹君見守り同盟の一人であり、セイレーンのコードネームを持つリーダー的存在でもあるらしい。道中真姫達に教えてもらった。
なんにせよ、琥珀は桜をバックに黄昏る学校一の美少女の姿に見惚れてしまい、嫉妬したモナカに思いきりお尻を抓られた。
「ひぎぃ!? 痛いよモナカちゃん!?」
「だって……。琥珀君があの女に見惚れるから」
モナカはムスッとむくれている。ここに来る前、相手が学校一の美少女だと知ったモナカは不安そうにしていた。それで琥珀は安心させようとして「モナカちゃん以外の女の子に見惚れたりなんかしないよ!」と約束したのである。
「ごめんなさい……」
琥珀は素直に謝った。
「……やっぱり琥珀君は、私みたいなイロモノよりもああいう正統派ヒロインの方がいいんですか?」
「そりゃそうだろう――ギャン!?」
口を挟んだアリエッティが裏拳で沈んだ。
「いや姐御、相手が悪いだけで姐御は十分可愛いっすよ――ぐはぁ!? な、なんで……」
真姫が以下略。
法子は相変わらず遠くからこちらを覗いている。
「私は琥珀君に聞いてるんです!」
もう! っと鼻息を荒げてモナカが向き直る。
「……どうなんですか」
正直に言って欲しい。でも、答えを聞くのが怖い。そんな顔をするモナカを見て、琥珀の胸は歯医者さんのドリルよりもキュンキュンした。
「モナカちゃんはイロモノなんかじゃないよ! 僕にとってはオンリーワンの正統派ヒロインだよ!」
真面目な顔で琥珀は言った。顔はイケメンでも中身は恋愛経験実質ゼロの陰キャ童貞である。だから恥ずかしい台詞だって平気で言えるのだ。
モナカは不貞腐れた顔のまま赤くなった。
「……そんなの嘘です。私だって、あの女の方が可愛い事は分かってますし。でも、気持ちは嬉しいです」
「嘘じゃないよ!」
琥珀は食い下がった。
これは非常に重要な問題である。
「いや、もうわかりましたから」
「モナカちゃんはわかってないよ! 確かに藤崎さんは綺麗だし可愛いけど、それってよく出来たフィギュアを見てるみたいな感じで、モナカちゃんに感じる可愛いとは全然違うもん! モナカちゃんに感じる可愛いは、なんかこう、キュンとして、ゾクゾクして、ウットリして、ムラムラする感じなんだよ! そんなのモナカちゃんだけなんだから!」
琥珀は必死に訴えた。そりゃ、最初はうっかりから始まった関係だ。でも、それだって本当にモナカにときめいたから告白を受けたのだ。まだ付き合って日は浅いが、毎日急降下するみたいにどんどんモナカを好きになっている。全く、恋に落ちるとはよく言ったものだ。
その気持ちを疑われるのは琥珀だって心外だ。イケメンだけど、琥珀は別にプレイボーイではない。色んな女の子に言い寄られてはいるけれど、気持ちは一途だ。それをモナカに否定されたら、ものすごく悲しい。
「わかりましたってば! それ以上言われたら……恥ずかしいです……」
真っ赤になってモナカが顔覆った。
わかって貰えたようで琥珀は満足した。
そして、照れるモナカを可愛いと思った。
「見ててモナカちゃん。藤崎さんには悪いけど、きちんとお断りしてくるから!」
本当に申し訳ないと思いつつ、琥珀は言った。だって今の自分には彼女がいるのでだ。告白なんかされても困る。一考の余地なくごめんなさいである。顔以外に良い所のない琥珀である。せめてそういう所で誠意を見せたい。
そういうわけで、琥珀は藤崎の姿を見ないように目を両手で覆って彼女の所まで歩いて行った。大体この辺かなという所で立ち止まる。
「藤崎さん! 僕――」
「告白イベに彼女連れで来て目の前でイチャつくとか、いい度胸してるね天吹君」
……ヒェッ。
冷ややかな声で言われて、琥珀は泣きそうになった。
「ご、ごめんなさい……」
「許さないよ。天吹君には言いたい事が山ほどあるんだから」
学校一の美少女が暗い笑みを浮かべる。
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