感傷と相談 [side 文彦]

[side 文彦]


 俺はカササギさんのバーに行ってから、再び元気を取り戻せていた。


(相談してみるものだな……。おかげで気持ちが軽くなった!)


 俺は感謝しつつ、いつものように仕事をこなした。



 午後は外回りに出掛けたが、仕事が捗り過ぎて予定よりもかなり早く終わったため、早めに帰宅することにした。


(今日は早目に帰れそうだ。姫井さんに連絡してみようかな……)


 そう思って彼女の連絡先をタップすると、メッセージが届いていた。


『星野さん、こんばんは。姫井です。お元気ですか?』


 彼女の優しい声が聞こえてくるようで、思わず微笑んでしまった。俺は返信メッセージを入力し、送信した。


『姫井さん、こんばんは。元気ですよ。姫井さんは、お変わりありませんか?』


 すると、すぐに返事がきた。


『それは良かったです。私も元気ですよ!ただ、少しだけ寂しいですけどね』


 彼女からの返事を読んで、思わず笑ってしまった。俺も同じ気持ちだったためだ。


『そうですか……。自分も寂しいです……。でも、姫井さんは頑張っていると思うので、自分も負けずに頑張ります!』


『ありがとうございます。でも、無理だけはしないでくださいね』


『はい。わかっています』


 そう送って、やりとりは終わりを迎えた。

 ……だが、俺の心に残った寂しさは消えなかった。


(……やっぱり、メッセージじゃなくて直接話がしたいな)


 そう思った俺は、彼女に電話をかけることにした。……しかし、彼女は電話に出ることはなかった。


(……仕方ないか)


 諦めてため息をつくと、不意に誰かから声をかけられた。



「お兄さん、またため息ついてるのかい?幸せが逃げるよ~?」


 振り向くと、そこにいたのはカササギさんだった。


「あっ……カササギさん!すみません、気づきませんでした」


「いやいや、いいんだよ。それより、何かあったの?」


 彼女は心配そうに声をかけてきてくれた。俺は事情を話すと、彼女は苦笑いしながら答えた。


「そっか……。そういうことか……。まぁ……、しょうがないね」


「はい……」


「まぁまぁ!そんなに落ち込まないで!……そうだ、今から時間はあるかい?あたしが話を聞いてあげよう!」


「えっ!?いいんですか!?」


「いいよ!遠慮せずにおいで!」


「それでは……お願いします」


 そして、俺はカササギさんに連れられて店へと向かっていった。



***

 店内に入ると、彼女はカウンター席へ案内してくれた。


「何か注文はある?特に無ければ、あたしが勝手に作っちゃうけど?」


「あ、ではそれでお願いします」


「了解!」


 そう言って、カササギさんはカクテルを作り始めた。

 ぼんやりそれを眺めていると、彼女が話しかけてきた。


「……それで、最近はどうだい?姫井さんとは、あまり話せていないみたいだけど……」


 俺は最近のことを思い出してみたが、やはり彼女と会っていないせいか元気が出ない気がしていた。

 メッセージのやりとりはしているものの、それだけでは物足りなさを感じてしまうのだ。


「そうですね……。やっぱり、会いたいなぁと思ってしまいます……」


 そう呟くと、カササギさんは小さく笑って言った。


「そっか……。やっぱり、好きな人と会いたいものなんだねぇ」


「そうですね……」


 俺たちはしばらく黙り込んでしまったが、やがてカササギさんが口を開いた。



「……そういえば、星野さん。どこから転勤して来たんだい?」


「えっと……琴音市の方からです」


「琴音市……!?」


 すると、カササギさんは目を見開いて驚いた様子を見せた。

 一体何事かと思っていると、彼女は慌てて謝ってきた。


「あっ、ごめんごめん!しょ……知人がそこでお店をやってるからさ。ついびっくりしちゃったんだ」


「そうですか……」


 俺は納得したが、今度は逆に質問された。


「まぁ、あたしのことはいいからさ。今度は姫井さんのことを教えてよ!どうやって出会ったかとか……聞きたいなぁ〜」


 そう言われ、俺は今までのことを話すことにした。すると、彼女は目を輝かせながら聞いてくれた。



 俺はその様子を見て、嬉しくなりつつ話を進めていったのだった───。

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