感傷と相談 [side 沙織]

[side 沙織]


 カササギさんのバーに行ってからというもの、私は元気を取り戻しつつあった。


(よし!今日も頑張ろう!)


 私は背筋を伸ばしてから、仕事を始めた。すると、私の仕事ぶりを見た上司が褒めてくれた。


「今日のお前、なんかやる気あるな。なんか良いことでもあったのか?」


「えっ……!そう見えますか!?」


「あぁ。普段よりテキパキ働いているように見えるぞ」


(やった……!褒められた!)


 私は内心嬉しく思いつつ、仕事に励んだ。



 そして、昼休み。私は『セボン』へ昼ご飯を買いに向かった。最近は別のコンビニに行っていたから、久しぶりだ。


 店に入り、おにぎりの棚へ行こうとした時、ふと星野さんのことを思い出してしまった。


(あ……ここ……)


 星野さんと初めて会ったのは、この場所だった。私は思わず立ち止まってしまう。

 ……でも、彼はもうここへ来ることは二度とないのだろう。そう思うと悲しくなってしまい、私は慌ててその場から離れた。


(ダメだ……。こんなんじゃ……!)


 私は自分に言い聞かせるように呟くと、お弁当を手に取って会計し、店を後にした。



 ……午後の仕事は、正直に言うとあまり捗らなかった。集中力が続かなかったのだ。


(……星野さんに、会いたいなぁ)


 私は無意識のうちにそう思ってしまっていた。『セボン』に行ってから、私は彼のことが頭から離れなくなっていたのだ。


(……いけない!今は仕事に集中しないと!)


 そうして私は、仕事に集中することにした。



***

 仕事を終えた私は、帰り支度をして会社を出た。


(今日は早く帰ろうかな……。明日は休日だから、ゆっくり休めるし……。)


 そう思ったが、寂しさが消えることはなかった。


(今頃、何しているんだろう?……私のことを想ってくれてるかな?)


 彼に会いたいという想いがどんどん膨らんでいき、胸が苦しくなった。


(……ダメだ。誰かに話を聞いてもらいたいなぁ)


 そんなことを考えながら歩いているうちに、いつの間にか『Bar 天の川』の前に立っていた。


(カササギさんなら、聞いてくれるかな……)


 そう思い、ドアを開けると彼が出迎えてくれた。


「こんばんは。お待ちしていました」


「こんばんは……。お邪魔します……」


 カウンター席に座ると、彼は話しかけてきた。


「今日は、どうされましたか?」


「実は……」


 私は彼に悩みを打ち明けた。すると、カササギさんは優しく微笑んだ。


「そうですか……。寂しい思いをされているんですね……」


「はい……。前に、1人でも頑張れると言ったんですが……。やっぱり星野さんが傍にいないのが、すごく寂しいんです……」


 うつむきがちに話すと、カササギさんは穏やかな声で言った。


「そうですか……。その、星野さんという方は、貴女にとって大切な方なんですね……」


「はい……。とても大切です……」


 私がそう答えると、カササギさんは何か考えるような素振りを見せてから口を開いた。


「……星野さんとは、どのような出会い方をされたんですか?」


「えっと……。会社の近くのコンビニで、偶然出会って……」


 それから、私はカササギさんにこれまでの出来事を話し始めた。彼との日々を思い返してみると、懐かしさを感じた。


(本当に楽しかったな……。でも、やっぱり星野さんがいないと、物足りないというか……。寂しい気持ちになってしまうのよね……)


 しみじみと思いながら、私は話を締め括った。



「……というわけなんです」


 カササギさんは黙って聞いていたが、しばらくして口を開いた。


「……なるほど。……姫井さんにとって、星野さんは運命の人なんですね」


「えぇ。……きっと、そうなんだと思います」


 私が答えると、彼は微笑んだ。そんな彼を見て、ふと思った。


(……私と星野さんが、前世でも恋人同士だったこと……。カササギさんは信じてくれるかな……?)


 迷ったが、言ってみることにした。

 すると、彼は私の言葉をそのまま信じてくれたのだ。


「本当に信じてくださるんですか?」


「もちろんです。姫井さんは、嘘をつくような人には見えませんから」



 そんな風に言ってもらえたことが嬉しくて、私はその後も、カササギさんにいろいろな話をしたのだった───。

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