出会いと自覚 [side 文彦]
[side 文彦]
俺の名前は『
……いや、そうじゃないな。
俺は『彦星』の生まれ変わりらしい。あの、七夕の伝説の彦星だ。
自分でも信じていないが、そういうことになっているようだ。……まぁ、仕事人間なところは似ているかもしれないが。
そんな俺は最近、1人の女性と出会ったんだ。
彼女の名前は『
彼女とは、会社の近くのコンビニ『セボン-セブン』で出会ったのだが……。
……実はあれ以来、毎日のように会っている。
昼休み、俺は『セボン』に行き、姫井さんが来ているかどうか確認する。
彼女はいつもそこにいて、楽しく話してくれる。彼女と話している時間は、とても楽しかった。
……だが同時に、不安もあった。
(……このままじゃ、いけない気がする)
なぜなら、俺たちは名前しか知らないからだ。
会社の同僚ならまだしも、それ以外の女性と仲良くなるというのは、あまり良くないことのような気がする。
(でも、どうすればいいんだ? 連絡先を交換しようって言うべきなのか……?)
そう考えているうちに、昼休みは終わってしまう。結局、何も言えずじまいだ。
「はぁ……」
仕事を終えた帰り道、俺はため息をついてとぼとぼ歩いていた。
(姫井さん……。やっぱり素敵な人だよなぁ……)
俺の周りの女性たちは、なんというか……少し苦手だ。彼女たちは、自分のことばかり話すから……。
その点、姫井さんは違った。ちゃんと相手のことも考えてくれる。だから会話していて楽しい。
それにしても……なぜだろう。なぜか、彼女が気になってしまう。もっといろんな話をしたいと思うんだ。
しかし、彼女に話しかけるのは勇気がいる。だって……いきなり連絡先を聞いたりしたら変に思われるんじゃないか? いや、確実にそう思うはずだ。
(そもそも、どうして俺はこんなにも悩んでいるんだろうか?)
これまで、俺は女性にモテたことがない。だから恋愛経験もない。
……恋愛経験ゼロの男にとって、こういうことはすごく難しい問題なのだ。
(……とりあえず、今日はもう帰ろう)
そして俺は家路についた。
次の日。
今日もまた、昼休みにコンビニへ行こうと思い、立ち上がろうとした時だった。
「よぉ、 星野」
同僚が声をかけてきた。
「……なんだよ?」
俺が聞くと、同僚がニヤリと笑った。
「お前、また例のコンビニに行くつもりか?」
「……っ!」
(気づかれてたのか!?)
……俺は焦った。まさか同僚にバレていたとは思わなかった。
「……だったらなんだっていうんだ?」
すると同僚は、さらに笑みを深めて言った。
「……お前、あのコンビニで働いてる女の子でも、好きになったか?」
「……は?」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。
「お前って、仕事ばっかりで女に興味ないと思ってたんだが……意外とやるじゃん」
「いや、ちょっと待ってくれ! 何の話をしているんだ?」
すると、同僚の表情が変わった。
「おいおい、とぼけるなって。お前、惚れた女でもできたんじゃねぇの?」
(……え? どういうことだ……?)
俺は混乱していた。
「いや、別にそういうわけじゃないんだけど……」
すると、同僚は呆れたように言った。
「はぁ……。お前ってホントに仕事バカだな。……ま、頑張れよ」
「……あ、ああ」
そして彼は去っていった。
「……」
俺はしばらく動けずにいた。
(俺が好きになったのは、コンビニの店員じゃなくて、姫井さんのほうだけど……)
そう思った瞬間、俺はハッとした。
(俺、姫井さんのこと好きなのか!?)
自覚した途端、顔に熱が集まってくるのを感じた。
(マジか……俺、姫井さんに恋してるのか……)
正直、信じられない気持ちでいっぱいだったが、それと同時に納得している自分もいるのであった―――。
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