天の川が繋ぐ2人の心

夜桜くらは

2人の出会い

 あなたは、七夕の伝説を知っているだろうか。それは、織姫と彦星が一年に一度だけ会える日だと言われている。



 私こと『姫井沙織ひめい さおり』は、その『織姫』の生まれ変わりらしい。


 ……でも、そんなことは私にとってどうでもよかった。そもそも織姫は伝説の人物で、実際にいたかどうかなんてわからないしね……。


 それに私は、恋愛に夢中で仕事を放り出すなんて、考えられないと思っている。

 第一、私にそんな相手はいないし……。『姫井』なんて苗字も、可愛げのない私には似合わない。


 まぁ……それはさておき、私はいつものように仕事をしていたんだ。



 そんなある日のことだ。仕事をする、私の後ろのデスクから、同僚たちのひそひそ話が聞こえてきた。


「……姫井さんってホント、仕事人間よね」


「そうねぇ……」


「なんかこう……冷めてるっていうか?」


「あーわかる! 恋人とか興味なさそうだもん!」


(……はいはいそうですよ。私は恋よりも仕事を選ぶ女ですとも。だから何? 別にいいじゃん)


 私が心の中で反論していると、突然、部長の声が響いた。


「おいお前ら!! 無駄口叩いてないで手を動かしやがれ!!」


 するとみんな、「すみませんっ!!」と言って作業に戻った。


(……ふぅ、やっと静かになったわ。まったくもう……)



 それからしばらくして、昼休みになった。

 私は、お弁当を買いに近くのコンビニ『セボン-セブン』へ行った。


 今日はどのおにぎりにしようかな、なんて考えながら棚の方へ向かうと、そこには先客がいた。

 スーツ姿の男性で、歳は私と同じくらいに見える。彼はぼんやりと棚のおにぎりを見つめていた。


(この人も、何か悩んでたりするのかしら?)


 なぜか気になって仕方がなかった私は、思い切って声をかけてみた。


「あの……どうかされましたか?」


「え!?」


 男性は驚いた様子だったけど、すぐに微笑みを浮かべた。……とてもぎこちない微笑みだったが。


「いえ……ただちょっと、どれを買おうか迷っていただけです」


「そうなんですね。ちなみに何をお買いになる予定だったんですか?」


「鮭おにぎりです。これ好きなんですよね〜」


「わかります! 美味しいですよね!」


 それから私たちは、お互いに好きな具について語り合った。



 しばらくして、私はハッとした。


(……ちょっと待って!私ったら、何でこんなことをしてるのよ! 初対面なのに、こんなに話し込んじゃうなんて……)


 私が慌てていると、彼が言った。


「……あ、俺はそろそろ戻らないと……。それでは失礼します」


 そして去っていこうとする彼を見て、私は思わず呼び止めてしまった。


「あっ、あの!」


「はい?」


 不思議そうにしている彼に、私は聞いた。


「お名前は……?」


「俺ですか? 俺は『星野文彦ほしの ふみひこ』です。あなたは……?」


「私は、姫井沙織といいます。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。姫井さん……」


 こうして私たちの間に、不思議な縁が生まれたのであった―――。

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