第29話 はやる気持ち、見つからないもの
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1限が始まる。板書をノートに写して、先生の話を聞く。時間はあっという間にすぎるわけでも、じりじりと一向に進まないわけでもなく、しっかりと50分の質量をもっている。1限が終わる。2限が始まる。2限が終わる。3限が始まる。
3限が終わって、4限が始まって、終わった。思わず、ため息がひとつ。火曜日の午前中はオール教室のオール座学なだけあって、さすがに暇だな……。厳しい先生の授業はないし、基本的に黒板の内容を板書して、当てられたら答えればいいだけ。なんて楽な授業! と、思うけど、楽しくはないんだよな。
お昼を迎えた教室は、放課後に次いで騒がしい。主に隣のクラスからの来訪者……もとい侵略者が特にうるさい。この喧騒から一刻も早く逃れるべく、私は今日読んでいるラノベと小銭入れを持って、席を立った。
そのついで、極めてついでに、ちらりと前方へ目をやると、彼女の姿がない。
ふむ、そっか、なるほど、なんて心の中で、ひとり頷く。そういえば、いつもはどうしているんだろう。まぁ、知ったところで別にどうということもないけど。
購買に行こうと教室を出る直前、無意識のうちに私は振り返っていた。さて、今日は何を食べようかな。
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「なんか、段落がガタガタになるんだよねぇ」
私が部室のドアを開けた途端、レナちゃんがつぶやいていた。「おっす」「よっす」と、挨拶を交わして、古くて小さなパソコンとにらめっこしてるレナちゃんの肩越しに問題の場所を見る。うーん、たしかにガタガタだ。
「設定は大丈夫なんだよね?」
「そうなんだよねー。もしかしたらバージョンが違って、こっちだとうまく反映されないのかも。これ2013でしょ?」
「うん、2013。私のは2015だから大丈夫そう」
と、答えながら、部室の端に積まれたコピー用紙の枚数を確認する。去年の分の余りだけじゃ足りないから、明日か明後日に買いにいかなきゃ。そういえば、ホッチキスは残りどれくらいだっけ。そもそも、どこにしまったっけ……。
部室を見回す。1つの教室を登山同好会と半分こして使っているだけあって、とにかく物が壁に沿って積み上げられている。半分ことは言っても、がっしりとした
「ちょっと窓開けるね」
肯定とも否定ともとれない、レナちゃんの気の抜けた鳴き声を聞いてから窓を開けた。ジェルシールを貼っていたのかな、なんか透明なベタベタしたものが手につく……。昔ここにいた先輩たちが、ノリで貼ったに違いない。
段ボールをいくつか床に下ろして中を見ると、すぐにホッチキスは見つかった。カバーを外して、中の針は……うん、絶対足りなくなりそう。
「レナちゃん、買い出しいつ行く? 用紙もホッチキスもないや」
「あー、じゃ今日行っちゃうか。木金で3年が来るらしいから」
わかった、と言おうとして、私はふと気がつく。今日、放課後は相良さんと図書室で会う約束だ。でも、昨日部活を休んでしまったぶん、買い出しは行かないと。
「どうしよう……」
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