第30話 欲張りと、手に入らないもの
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その連絡が来たのは、私が社会科室で授業が始まるのを待っているときだった。
内容は至ってシンプルに、「部活で今日は無理そう。ごめんなさい」の17文字。
部活。そうか。部活。それなら、仕方ないかな。「わかった」と、返信。すぐに「木曜か金曜はどかな?」と、返ってくる。彼女にしては珍しく、脱字がある。何か、のっぴきならない理由でもあったのかもしれない。返すのは、「木曜で」。
まぁ、なんにせよ。次が決まっているというなら、私が焦る必要はない。
スマホをスカートのポケットにしまうと、タイミングよく世界史の先生がいそいそと登壇した。10分の遅刻である。先生も遅刻するんだから、私たち生徒の遅刻も許してくれ、と思うのは
「すいませんね、会議が長引いちゃって。じゃ、出席とりますよー」
と、先生がぼそぼそ言っているけど、誰も真面目に聞いちゃいない。私はそれを
「はい、じゃ始めますね。世界史では、主に世界で起きた出来事を……」
話し始めた先生をよそに、ちらりと話し声の発生しているあたりを見ると、うちのクラスじゃない顔ぶれがちらほら混ざっている。どうりで騒がしいわけだ。
「……が、思い通りにいくほうが少ないわけですね。だいたい思い通りになりません。今もそうです。ですから、そういった人生の教訓のようなものを世界史で……」
ふと先生の話に意識を戻せば、何やらいいことを言っていた。まぁ、先生の姿も目の前にあるテレビに隠されて、半分しか見えないんだけど。
私はノートを開いた。新品のノート、その1ページ目の1行目に書く。
人生は、思い通りにならない、と。
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「しんどい……」
と、つぶやいたところで、目の前に積まれている仕事が片付くわけでもなく……。
5時間目の現代文と6時間目の英語を乗り越えて、私はまた部室で作業中。担任がいないことで、帰りのショートホームルームが秒で終わったのである! これは新発見、アンド新記録! 心なしか、みんな嬉しそうだったな……。
そんなわけで、私はひとり、部室でパソコンと向き合っている。レナちゃんとミキミキが来たら、近くのホームセンターへ買い出しに行く。それまで、私はこの段落をひとつひとつ、手作業で揃えなきゃいけない。
「終わる気がしない……」
本当は図書室で相良さんとお話してるはずだったのに……今日は5時間目以外、全部教室の全部座学だったせいで、まったく相良さんの姿を視界に入れられていない。昼休みは最初から最後まで部室にこもりっきりだし、5時間目は現代文のクラスにいなかったから、相良さんはたぶん世界史か地学のどっちかだと思う。
段落を揃えながら、ふと考える。これだけ早く放課後が来るなら、ちょっとくらい図書室に寄ってからでもよかったんじゃないかって。少しだけ、少しだけ相良さんとお話して、本を貸してもらって、そして部室で作業。うん、こっちのほうがリフレッシュできていいんじゃない? 作業の効率のためには休憩があるべきだよね!
そうと決まれば、さっそく図書室に! 相良さんは用がない限り、必ず毎日図書室にいることは確認済み。レナちゃんとミキミキが来る前に!
「おっすー。はかどってる?」
「マイマイ生きてる? 腕、大丈夫そぉ?」
ドアを開けると、そこにはレナちゃんとミキミキが。私は膝から崩れ落ちた。
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