第15話 君とふたり、外にて
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「ごめん、結構みんな並んでたから……割り込みっていうか、よくないかなって。声、かけたかったけど……」
なんて、言い訳めいたことをやらかしてしまった。着いて早々なのに。
彼女は怒る様子もなく、至って普通の笑顔で、
「大丈夫だよ、こうして会えたんだし」
と、言ってくれた。言葉では大丈夫そうだけど、内心めちゃくちゃ怒ってたり、軽蔑してたりしてないのだろうか……不安だ。まぁ、人の気持ちなんて読んだところで正解は本人しか知りようがない。いや、そうとわかっていても、不安だ。
「えっと……何頼んだの」
自分がこれを言われたら、「見ればわかるだろ!」ってキレるかもしれない……いや、なんかネガティブまっしぐらだな。
「アイスカフェオレ? だよ、ベーシックなやつ!」
「へ、へー」
相槌を打つ以外の反応を返せない私に、小川さんは自慢げにアイスカフェオレを見せてくる。アイスカフェオレの真横に、特殊効果(両手をひらひらさせている)をつけるくらい、ご機嫌そうだ。
「相良さんのは? ミルクティー?」
「あ、うん」
なるほど、予想して先に言うという手があるのか。などと、感心している場合ではない。どう考えても私のせいで会話が弾んでいない。現状はもはや、飛んできたシャトルを打ち落とすバドミントン状態。もちろん、シャトルを飛ばすのは小川さんで、片っ端から打ち落としているのが私だ。
このまま、私は彼女と水族館に行って大丈夫なのか……?
【
相良さんのアイスミルクティーが空になったのを見計らって、私もアイスカフェオレを飲み干す。私たちが席に着いてから、店内はますます混み始めて、雑談をする人の声、店員さんの声、食器やグラスのぶつかる音。
いつも図書室に生息している彼女には、少し騒がしい空間だろうと気づいて、水族館集合にしたほうがよかったかなと反省する。神田ちゃんと遊ぶときはいつもカフェ集合だったから、そうしてみたけど……うーん、難しい。
「そろそろ行こっか」
と、相良さんに言うと、彼女は首を1度縦に振って、椅子から立ち上がった。
カフェを出て、改札を通ったら、私たちと入れ違いになるように電車がホームを離れ、次第に姿を小さくしていくところ。タイミング、なかなかに悪めかも……。
「この前、ありがとう」
隣で、相良さんが言った。この前、この前……文化祭の企画のことかな。
「ううん、当然のことだよ。頑張ろうね、太宰治の展示」
「太宰治……? あ、そっちじゃなくて……」
正解を求めて相良さんを見つめても、彼女は右下に視線を落としたまま。よみがえれ私の記憶! むむ……来週は新入生の部活見学と、体力測定……と、体育は持久走のテストがある……。って、来週じゃなくて今週のことを思い出さなきゃ。
「……今度さ」
聞こえた相良さんの声に重なるように、ホームに電車が入ってくる音がホームに響く。やがて徐々に速度を落とし、私たちの前で止まったとき、
「今度、本。貸すから」
と、前を向いたまま、彼女は言った。
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