第12話 君の姿、私の気持ち
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別に何か忘れたわけでも、感傷に浸りたいわけでもないのに、私は教室に戻ってきていた。図書室とか職員室は「行く」なのに、教室に対しては「行く」という言葉より「戻る」って言葉が合う。不思議。
バッグを教室の入り口に投げ出し、校庭が見える窓際の机に行儀悪くあぐらをかいて座った。制服の下に体操着を着ていると、スカートでもあぐらをかけるから楽だ。
委員会は、普通に始まって普通に終わった。
去年と同じように、委員長を決めるのに最初誰も立候補しなくて、「それなら」って言葉で3年生のうち1人が手を挙げて。結局委員長やりたいんだったら、最初から手を挙げろよって、今までの私は思ってた。
副委員長には、隣のクラスの誰かがなった。私の隣の席にいた子だった。たしか、去年も図書委員をやってたような、やってなかったような。
委員長決めで無駄にした時間を取り戻すかのように、副委員長はあっさり決まって、書記とかカウンターの担当曜日決めとか、そういうのもつつがなく終わった。
私は副委員長に立候補しなかったし、彼女と彼女は何も言わなかった。
副委員長をやりたくなかったと言えば、嘘になる。でも、相良日夏が副委員長をやりたい理由なんてものは、私の中のどこにもなかった。
「かっこよく、なりてぇ……」
つまりは、焦っていたのだ。図書委員で文芸部の彼女を見て。
私がクソ野郎だったらよかったと思うときがある。仕事ができて、誰とも話ができて、人の前に立って話せて、そんな人と仕事をするとき。どこかのラノベの目が腐った魚のごとく
私はそれに、罪悪感を覚えてしまう。同じ8組の図書委員なのに、彼女はしっかり仕事をこなして、私はただ突っ立ってるだけ。それが許せなかった。
隣のクラスで、女子たちの笑い声が聞こえた。誕生日を祝っているのだろう。さっき見たとき、黒板に「お誕生日おめでとう」って書いてあったし。
「まじヤバくない? 最高なんだけど!」
誕生日を迎えた人(?)の声に合わせ、クラッカーが鳴らされる。壁を隔ててもなお騒がしい音に、私は帰宅を決意した。バッグを回収し、早歩きで下駄箱に向かう私にも、いつか誰かがクラッカーで祝ってくれる日が来るのだろうか。
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目を離した一瞬のうちに、相良さんは図書室から姿を消していた。隣にいた私ですら気づかないんだから、もう超能力かもしれない。
「
と、文芸部のレナちゃん。ほとんどの文芸部員が図書委員と兼任しているおかげで、連絡や情報のやり取りがスムーズなのはいいところ。特に明日は1年生の部活見学が始まる日に加えて、3年生の模試の日だから私たち2年生は忙しい。
まぁ、文芸部の2年生は5人いるし、たぶん私がちょっとだけ部室からいなくなったとしても影響はない、と思う。
「了解、開けておくね」
「助かるわ。2年と佐々木先輩は来るらしいから、閉めるのは大丈夫」
「はーい」
私は一応、副部長ということになっている。それも去年までの話だけど、まだ1年生が入ってこない以上は、しっかり役目をまっとうしなきゃいけない。
バッグから取り出した本をカウンターに置き、ひとりで返却の手続きをする。バーコードをピッとして、カウンターの横の棚に置く。ここには返されたばかりの本が並んでいて、ジャンルや筆者ごとに並んでいる普通の棚とは違った景色。
そのなかの1冊に、私は手を伸ばした。
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