第7話 隣に並ぶ、同じだから
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彼女は意外と、肩幅が広い。隣を歩いて、私が気づいたこと。
もしかしたら、制服の肩パッドが大きいのかもしれないけど。
8組の教室を出て、2年生の教室が並ぶ2階を延々と歩いている。いや、延々と歩いているわけではないけど、そう錯覚するくらいには図書室まで遠い。
「不便だよね、2年生って」
と、小川さんが言う。前方から来た集団を、縦1列になって避けた。すぐに彼女は何事もなかったように再び私の隣に並んで、1階に続く階段を下りる。
「……結構、遠い」
ひとりごととも返答とも、とれるような言葉。それしかつぶやけない自分に、少し腹が立つ。彼女は微笑んで、ペースを乱すことなく図書室への歩みを進める。
「失礼しまーす」
何やら、人でごったがえしている図書室に着く。ドアを開けると、わいわいがやがや、とにかくすごいエネルギー。新品の制服がいやにまぶしく見えて、私は目を逸らした。1年前の私は、こんなに輝いてたかな? うん、目を輝かせてたわ。
この学校の図書室には、ライトノベルがたくさんあるから。
家から近くて偏差値的にもちょうどいい、という理由で入学した私を待っていたのは、棚よっつぶんのライトノベルの数々。ちょうど1年前、利用案内の説明のためにクラスで図書室に足を踏み入れた私を待っていたのは、楽園のような場所だった。
「すみません、8組の図書委員です」
感慨深くラノベの棚と、その手前のテーブルで雑談に興じる1年生を見ていると、既に小川さんが司書さんに本をもらっていた。いけね、仕事しなきゃ。
「これと、これですね。持てそうですか?」
「はい、大丈夫です。これ、持ってくれる? 私がこっち持つから」
司書さんから数十冊の本を受け取り、小川さんと半分ずつ持つ。本の表紙には、「クラス文庫 2年8組」の文字がマジックペンでくっきりと書かれている。
図書委員になって最初の仕事は、図書室にクラス文庫の本を取りに行くことだった。クラス文庫の本は、1年間クラスに置かれ、朝読書を忘れた人のために利用される本のことだ。みんな、自分で何かしら本を持ってくるから、クラス文庫の本を読んでいる人はあまり見ない。
それでも、一応役割は役割ってことで。
本で埋まった両手。文庫本だけとはいえ、ずっしりと重い。
落とさないように、行きよりもゆっくりと廊下を歩いてく。今になって、急にじゃんけんで勝てた嬉しさが、じわじわとこみあげてくる。
少し前を歩く背中に、言えない感謝の5文字をそっと念じた。
【
「普段、何読んでるの?」
なんて、遠い距離から相良さんの出方をうかがうような、ずるい質問をしてしまった。私は知ってるのに。相良さんが読むのはラノベとか、それに類する文庫本。
「あー……普通に。映画になったやつとか」
……映画になったやつ? と一瞬ハテナがよぎるが、すぐに合点した。ラノベ界の超有名作ね。4度のアニメ化に、2度の映画化もされた作品。
委員会決めも無事終わって、だいたいのことがほどほどに終わった昼休み。
私たち8組の女子は、教室の真ん中で円になってお昼ごはんを食べていた。もちろん、担任の先生も一緒に。男子はどうしているのかというと、学食に行ったり、部室に行ったりしているみたい。教室の隅にいる数人以外、姿が見えない。
円になるとき、こっそり相良さんの隣をキープした私は、優雅にお昼ごはんを楽しんでいる。ふふ、合法的に相良さんのお昼ごはんを見ることができるのです!
本日ふたつめとなる菓子パンを取り出した相良さんは、紙パックのコーヒー牛乳をちゅーちゅー吸う。その姿を横目に、私はお弁当箱から卵焼きを箸で摑み、口に運んだ。最後のひとくちは甘く、ほのかにダシの香りが鼻を抜ける。
そっと蓋を閉じ、箸を片付け、巾着袋にしまった。
タイミングを見計らったかのように、相良さんがそっと、
「放課後、図書室で話そう」
と、ひとこと。……えっ。これって。放課後デートの、お誘い?
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