「それじゃ、わたしに付いて来て。

前に、その人と一緒に、遊んだ所があるの。

あそこなら、誰にも邪魔されないよ。」

女の子はそう言うと、嬉しそうに男の手を引き、歩き始めた。


「ここだよ、入って。」

そう言って女の子が男を連れて来たのは、小さな廃工場だった。

女の子は嬉しそうに男の手を引きながら、廃工場の中に入った。

工場の中は、真っ暗だった。

女の子が入口の近くにあるスイッチを入れると、照明が点灯し、中を明るく照らした。

広くガランとしており、中央あたりに大きなベッドが1つ置いてあるだけだった。

ベッドには、花柄の可愛い毛布が、掛けられていた。


女の子は男の手を引き、そのベッドへ連れて行った。

「ここで遊んだんだ。」

「へー、そうなんだ。」

男はそう言うと、とても危ない目で、女の子を見た。

(ベッドまであるは、おあつらえ向きじゃないか。

もう、ここでヤルしかないな。)

男はそう思うと、女の子の方へ手を伸ばした。


それを見て、女の子が落ち着いて言った。

「おじちゃん、また、わたしを殺すつもり?」

そして、男を見ながら、ヘアゴムを外した。

女の子はユズナだった。

「お前は、あの時の。。。」

それを見て、男の顔が青くなった。


「おじちゃん。

あの時の事を謝ったら、許してあげる。」

ユズナは、ジッと男を見ながら言った。

「へへへ、何言ってる。

謝るも何も、ここには、俺とお前しか居ないんだ。

丁度良い、この前できなかったことを、タップリとさせてもらうぜ。」

そう言うと、男はユズナをベッドの上に突き倒した。

ユズナは怖がることも無く、体を起こすと男をジッと見た。

「それじゃ、いっぱい遊ぼうか。」

男は上着を脱ぎながら、ベッドに近づいた。


突然、男は口から大量に吐血した。

「ぐっ、ぐはっ。」

男の腹部に、白く尖った、太い槍のような物が刺さっていた。

そして、腹部から血が流れ出ていた。

「おじちゃん。

『お兄ちゃん』を怒らせたから、もう、助からないよ。」

ユズナはそう言うと、ゆっくりとベッドから降りた。

そして上を見上げた。

「なっ、なに・・・を。。。」

そう言って、男も天井を見上げると、鉄骨の梁の上に、白い生き物が見えた。

それが、男が最後に見た、ものだった。

男は、言葉を発する事も無く、そのまま絶命した。


男の腹部に刺さった白い物は、梁の上にいる生き物から長く伸びた尻尾のような物だった。

その生き物は、梁から床へ飛び降りると、ゆっくりと男の体に近づいた。

そして、男の体の中へ、溶けるように入り込み消えてしまった。


その生き物が、男の中に入り込むと、腹部からの出血は直ぐに止まった。

そして、少しすると腹部の穴は、跡形も無く綺麗に消えてしまった。

「お兄ちゃん。」

そう言うと、ユズナは男に抱き着いた。

「ユズナ、もう、大丈夫、だ。」

男もそう言って、ユズナを抱きしめた。

「お兄ちゃん、これで一緒だね。」

「ああ、そうだ。」

2人はキスをした。


ユズナは、今まで通り、小学校へ通った。

男に入り込んだ白い生き物は、男の記憶を吸い取ると、その男に成りすまして生活を始めた。

その事に周囲の者は、誰も気付かなかった。

男の名前はハク、25歳で市内の会社で働いている、パート従業員だった。

ハクは、ユズナの家の近くにあるアパートで、独り暮らしをしていたのだ。


日曜日の朝、ハクの部屋をユズナが訪ねた。

「お兄ちゃん、おはよう。」

「おはようユズナ。

じゃあ、出かけようか。」

「うん。」

ユズナは、ハクと とても嬉しそうに手を繋ぐと、遊園地へと遊びに出かけた。


(わたしの『お兄ちゃん』

本当のお兄ちゃんじゃないし、何処から来たか知らないけど。

でも、わたしの大切な『お兄ちゃん』)

ユズナとハクは、笑顔で見つめ合った。


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大切な『お兄ちゃん』 木津根小 @foxcat73082

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