獣人の里にて俳句詠む

 尾をすけば初毛がわりが絡みけり


(季語=初毛がわり【はつけがわり】:春

春に獣人の里に行くと、母が子の尾をすいていた。そして、櫛を見てなにかを喜んでいる。友人に聞くと、この頃は毛が生え変わる季節であり、特に子供の初めての毛の生えかわりは幼年期の終わりの証として、縁起が良いという。そんな親子の様子を詠んだ一句)


 龍月酒あおる娘や薄涙


(季語=龍月酒【りゅうげつしゅ】:秋

ある秋の事だ。友人の女獣人と酒を飲む機会があった。その娘は中々に強い酒である龍月酒をあおりながら、やけに私に絡んでくる。いわゆる絡み酒だ。しまった、彼女の種族の発情期を失念していたかとも思ったが、今は違ったはず。何故、私などに絡んでくるのか。もしかしたら……

だけど、私は彼女を友人としか見れない。それに、世界を渡り歩く根無し草などに惚れても、彼女が不幸になるだけだ。私は酒を飲んで意を決し、告白してきた彼女を……ふった。

気の強い彼女は、気にしていない様子で酒をあおったが、その目尻に涙が。

…………だが、謝りはしないよ。謝ったら、彼女が我慢する想いを、踏みにじることになる。だが、彼女の涙。それは、忘れない。そんな想いを込めた一句)


 魂を送り川往く冬蛍


(季語=冬蛍【ふゆぼたる】:冬

ある冬の事だ。凍みかけた川に、私の意識では夏の生き物である蛍が飛んでいた。友人に聞くと、この生き物は冬蛍という冬に活動する蛍だという。なんでも、この蛍が冬の澄んだ空気の中に浮かぶさまは、獣人の魂を黄泉の国へ誘う聖なる光と崇められているらしい。フワフワと浮かぶ黄色い灯火。彼らは幾人の魂を誘ったのだろうか。

そんな、冬の幻想的な光景を詠んだ一句)

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