#9 星空の誓い

「つっかれたー」

「ふふっ」

「幸せな疲れだー」

「そうだねー」

 ずっとニルといて、すっかり、太陽は沈んで。花畑に背をあずけて空を仰ぐと、黒い幕に星空が広がっている。

 あの点と点、星と星の間には距離があって、光が届くことにすら時間を要する。あの青白く輝いている点も実際は私たち人間なんかよりも、石ころでできたこの星なんかよりもずっとずっと大きくて、私たちからみた砂一粒なんかより、もっと小さい。さらに遠い星と遠い星をもっともっと遠くから眺めれば、銀河になる。それも一つ私たちなんかは絶対見えないし、あいてにされない。

 昔の人々は地球が世界の中心だと思えていた。それが本当ならよかったのに。

 私は心臓を鳴らしている。太陽もいつか終わる。宇宙すらも常に膨張していて、際限がある。原子と原子の間が離れていって、やがてバラバラになってしまうらしい。離れ離れに、とはいえ、私はそんな壮大なスケールに生きているわけでもなく。宇宙の終わりを待たずして、私は死ぬのだろう。ニルをたった一人、何もない電子空間に残して。

 この手に掴む、ニルの手だけが命の所在をはっきりとさせていた。

「……私たちは、ちっぽけかな」

「……世界は大きいね」

 星空を向いていたニルは、私のもう一方の手も捉えた。私が吸っていた夜の空気に、ニルの吐息が入りこむ。

「でも。あなたは私だけを見ていればいい」

 向き直る。

「私は……あなたに温度を届けられた、それだけはできたと思う」

 あなたの顔を見ていたら分かる、とニルは微笑む。

「……うん。この身体では表せないほどたくさん、たくさんもらった」

「だけど。とてつもなく大きくて意地悪で私たちを見向きもしない世界が、私たちに何ができるっていうの。遠く遠くの私たちからみて小さな星になにができるっていうの。星たちから温かさをもらった?」

 そうか。それは、断じてちがう。

 どの星も、ただ私たちと無関係に成立していて寂しさと不条理だけを押しつけてくるんだ。

「太陽ですら、それはできない、か……」

 夏の主張が激しすぎる太陽ですら、私の心を内側から温めることはできなかった。おかしな話。そして、嬉しい話。こんなに近くに、いつまでも隣に、私の一番星はいてくれるのだから。


「あなたからみた私のほうが、あなたに影響を与えすぎて怖いくらいじゃない」

「そっか……」太陽なんかよりずっと眩しくて、優しい。太陽以上に生きる先を照らす人、それが私にとってのニルだった。

「信じるしかないよ。あなたが好きな私を」

 

「そうやって、最後まで生きて。ついでに星と星より近しいあなたの周りの人も幸せにして、それができたら。いいえ、できなくても私は毎日、あなたに百点満点をあげられるよ」

「100点……」

「私独自の採点だから、あなたの人生に欠けなんてない花丸をつけたい!」

「……ニル」

 やっぱり、好きだと。もう何度実感させられたか分からない。


「ねえ、世界は好き?」

「好き」

 ニルがいるから、ニルの言葉があるから、この世界ですら愛おしい。

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