2 自己紹介
僕の班は三番だった。
数字が掲げられた机に移動すると、同じく三番だった子がぱらぱらと集まり始めていた。人懐っこそうな笑顔を見せてくる女の子に、僕も笑って手を挙げて挨拶を返す。
「これで全員か?」
一族の伝統的な髪型をした男の子が声をかける。五分にも満たない僅かな時間の間に全員が揃ったようだった。
改めて、自分と同じ場所に集まった面々をざっと見回す。
集まったのは僕を含めて六人。男子四人に女子が二人。大体の班は七〜八人だから、ちょっと意外。少人数ってことは精鋭揃いか、もしくは、異端の寄せ集めかもしれない。
――……後者かな?
メンバーを見ながら考える。容姿はみんな、かなりバラつきがあるけれど、大体のメンバーが一癖ありそうな雰囲気を放っていた。
まず、さっき音頭を取った伝統的な髪型をした男の子。背はこの中で二番目に高くて、平均身長より高いくらい。毛の色も瞳の色も月下人狼に多い色をしている。耳も立ち耳で普通だ。ケープを着てるからわかりにくいけれど、きっと体格も良いほうなんだろう。
彼はきっとものすごく真面目なんだろうな、って思う。少し三白眼っぽいのに加えて表情が硬いと言うか、少しも笑ってないし、きっちりとした眉と、何より今どき大人もあまりやっていない伝統的髪型をしているから。とても保守的で規則に厳しそうで融通が利かなそうな気がする。
次に隣に居る男の子。背は三番目に高くて、平均身長よりも少し下っぽい、少し細身の少年だ。瞳の色はやっぱり一般的な暗い金色だけれど、毛の色はどうやら二色らしく、耳と尻尾の先、それから両手が白い。特に耳は両方とも折れ耳なので、色の境目がすごく見やすいな、とぶしつけながらに思った。
性格は……なんていうか、気難しそうだ。無表情というか、いわゆるクールなタイプなのかもしれない。少し鋭い目付きで立っていて、ちょっと近寄りがたい感じがする。
それから、さっき笑いかけてきた女の子。背は四番目……つまり、僕より高い。170はありそうだ。確か女子の平均身長はそれくらいか、もう少し低かったハズだから、きっと女子の中では背が高い方なんだろう。
毛色は、赤、というよりもピンク色に近い色をした灰色だ。彼女はその髪を顎の下辺りできっちりと揃えられたオカッパにしている。吊り目気味の瞳は溌剌とした表情をたたえていて、この中で一番明るい。きっと元気で活発な子なのだろう。
その近くで座っているのは、さっき授業で発言していたグリフだ。
改めて見ると、とても大きい。座っているのに、体が大きいせいでかなり存在感がある。その割に威圧感を感じないのは、きっと彼が穏やかで人懐っこい笑みを浮かべているからだと思う。
立ち耳で毛の色はかなり深い黒色。結構量が多いのか、モサモサとした髪の毛をポニーテールにしている。瞳の色は、月下人狼には居ないはずの、深い緑色をしていた。
けれど、彼にはそれよりもかなり目立つ特徴がある。パッと見ただけでも大きな傷が左頬に、そして右耳は中腹で一部が抉られたように欠けていた。
戦闘民族である月下人狼には体に傷跡があるヒトなんてたくさんいるけど、まだ狩りにも出ていない子供には珍しい。
そういったものもあってか、彼が纏う雰囲気は、なんというか独特だ。穏やかで人懐っこそうで、でもどこか遠くを見ているような、どこか僕らとは異なるものが混じっている。そんな気がする。
それで、最後の、多分女の子。多分というのはなんていうか、彼女の見た目は他の誰よりも異なっていて、ちょっと見た目で判断するのが難しいからだ。
まず、すごく小柄。僕よりも小さいし、普段見かけるどんな子よりも小さい。言われなければ、まだ学校に上がる前だと思っても不思議じゃないくらいだ。
それから、髪の毛が尋常でないくらい長い。前髪も横髪も後ろ髪も区別がつかないくらい長くて、顔もそれ以外も覆ってしまっている。つまり、表情はほとんど見えないし、体型も見ることができない。わかるのは、毛に埋まりそうなほど華奢、ということだけ。
更に言えば、毛の色も特徴的だった。すれ違えばハッと振り返るほど、すごく明るい黄色で単色。確かに黄色い毛色自体は珍しくもなんとも無いのだけれど、大体が茶色や灰色との二色との組み合わせで、黄色単色で、しかもここまで明るいというのは、見たことも聞いたこともない。珍しさの塊だった。
ちなみに僕がこの子を女の子だと判断したのは、髪の毛から見える細い足が、女の子の骨格をしているように見えたからだ。もしかしたら、間違っているかも……?
「うん、そうみたいだね」
つらつらと取り留めもなく考えていると、背の高い方の女の子が応えた。思考から戻って、僕も頷く。
「ちょっと少ないみたいだけど、これ以上誰か来そうにないっぽい」
言いながら、ちらっと他の班の様子を見る。どの班も既にメンバーが集まってるらしく、ウロウロと自分の班を未だに探し回っているような子は居ない。それぞれ自己紹介などを行っているようだ。
一番小さい子がちょっとオロオロしている以外は、全員がこれで揃ったのだと納得した。
「それじゃあ、自己紹介しようぜ」
グリフがのんびりと言う。
「そうだな。誰から名乗る?」
最初の男の子が問う。ちょっと怯えてる金色の子を除いて誰からでも良いという雰囲気だ。
少しの間、僕らはお互いにちらりと視線を交わして無言の駆け引きを行う。誰が一番手をやるだろう?
けど、本当に一瞬のことだった。
それじゃあ、とグリフがあっさりと手を挙げたのだ。先程の授業のときといい、結構積極的な性格らしい。
「オレはグリフ。もしかしたらこの中にも聞いたことがあるやつも居るかもしれないけど、オレ、ただの月下人狼じゃないの。その証拠にほら、目が緑色だろ?」
と、自分の目を指差す。改めて見ても彼の瞳の色は深い緑色で、穏やかな光を湛えながら僕らを見ていた。
僕は記憶を手繰る。
「ええと……確か、人狼に宿る緑色の瞳は、魔力の属性が樹なんだっけ?」
「正解!」
にこっとグリフが更に表情を柔らかくした。元々人懐っこそうなのに、更に無邪気な笑顔だ。
「オレの母さん、覚樹人狼の血が混じってんだ」
「あ、確かに聞いたことがある。むかーし、世界樹の安寧のために現役の樹を守る一族である覚樹のヒトと番になったヒトが居るって。じゃあ、アンタがその末裔なんだ」
背が高い方の女の子が、得心がいったという顔になる。
誇らしげな声でグリフが笑った。
「そういうこと!」
「ふーん……じゃあ、月の力は使えないってことなのか?」
肝心なところはそこだ、と言わんばかりに垂れ耳の男の子が短く尋ねる。グリフはゆるく首を振った。
「オレは月と樹の両方使えるんだ」
それからちょっと誇らしげに胸を張った。
「それに、魔力使ったときは面白いものが見れるぜ。ちょっと目に注目してて」
と言うと、グリフは片手を持ち上げて少しだけ魔力を開放する。最初に葉っぱの形をした光が舞い、次に鎖の形をした影が空中に顕れて消えていった。
属性を持つ魔力は、そのまま放出すると属性に関係した何らかの形を取ることが多い。
鎖の形のほうは僕らも出せる、月の魔力だ。ということは葉っぱのほうが樹の魔力ということで……
「あ」
僕らは揃って声を上げた。確かに彼の瞳は面白い変化を遂げていたのだ。
最初の樹の魔力を使ったときは、瞳は緑色のまま、ぼんやりと光る程度だったのが、月の魔力を使ったとき、瞳は下の方が金色がかった色に変わった。グラデーションがかった瞳は、まるで早秋の紅葉のように美しい。
息を飲む僕らに、グリフは誇らしげで満足そうな顔になる。
「な? 面白いだろ?」
うん、と僕は素直に頷いた。
「瞳の色は魔力と関係してるって聞いてたけど、そんな風に変化するなんて初めて知ったよ。貴重な知見だ。ありがとう!」
おそらく目を輝かせていたであろう僕に、背の高い女の子がやれやれとため息をついた。
「どうりで。グリフ、アンタ結構モテるでしょ。ウワサ、聞いたことあるよ。お姉さんから女の子まで大人気のオオカミが居るってさ」
彼女は曖昧な言い方をしたけれど、なんとなく言葉の裏は伝わった。
確かに他のヒトが持っていない能力があるということは、時に畏怖の対象だったり、逆に憧れの対象だったりする。どちらにしろ興味を持たれるということだ。
どんな周囲に囲まれて、どういう対応をしているかは、「まあね」と平然と応じるグリフを見るとわかった。
「おかげさまでそれなりに」
ますます女の子が呆れ顔になる。
「謙遜しないんだ」
「ははは、だって事実だし」
けろりと言ってのけるグリフは、行動はともかく、まあおおらかで大物であることには違いなかった。
「まあ、今大切なのはどういうことができるか、だろ? これって自己紹介だし」
両手を頭の後ろで組みながらのんびりと彼は続ける。ちゃんと話の重要な点を忘れない辺り、ただモテ自慢をするだけの男、というわけではなさそうだ。何気なく話し合いの舵を取ったり、意外としっかりしている。
――そういうところもモテる要因なんだろうな
分析する僕をよそにグリフは続けた。
「実はさ、こんな見た目だけど、どっちかっていうと、樹の力はちょっと弱いんだ。できることって言えば、枝を伸ばしたりできる程度に樹を操るのと、樹の力由来の回復魔法が使えるってことくらい。その回復魔法も、あんまり大きな傷を一瞬で治すとかそういうのはできなくて、よくて応急処置くらいなんだ」
そういうのは姉ちゃんや兄ちゃんのほうが得意、と決まり悪そうに頬を掻く。
「あとはそうだな、体の頑丈さにはちょっと自信あり」
むん、と力こぶを作って見せる。
確かに彼は僕らの中で一番背が高く、体格もかなり良い。言うだけの自信があるんだろう。
「反対に足はけっこう遅い方だと思う。だから、後衛、特にしんがりだと嬉しいな」
最後に希望の位置をリクエストすると、オレからはそんなとこ、よろしく〜、とグリフは自己紹介を切り上げた。
本当に手慣れている。これまでもこういう場面をずっと繰り返していたのだろう、というのは想像に難くない。お手本としてこれ以上ないほどバッチリだった。
これなら後に続きやすいし、実際、場の空気もかなり和やかになった。
「俺はリュジスモン」
実際、間を置かずに、きっちりと伝統の髪型をした男の子が名乗った。
第一印象とおり、やはりかなり真面目な性格なんだろう。力んでいないけれど、グリフとはまるっきり正反対のきりっとした表情のままだ。笑顔は無い。
「これと言って特筆する能力は無い。多少力には自信があるが、きっとグリフの方が上だろう」
真面目なまま続ける。皮肉でも卑屈になっているわけではなく、淡々と事実だと考えて喋っているようだ。そして、「以上、よろしく」と終わらせてしまった。
グリフが先でつくづくよかった、と思った。多分、リュジスモンが最初に名乗っていたら、場の空気は固く、なんとなくよそよそしいままだったかもしれない。
同じことを考えたのか、リュジスモンの隣に居た垂れ耳の男の子が盛大に溜息をつく。これだからリューは……とぶつくさ言いながら、次に名乗りを挙げた。
「オレはユルルモン。この通り、背は高くないが、その代わり足には自信がある。得物は槍。希望は前衛」
かなりムスッとした表情で自己紹介した後、親指を立ててリュジスモンの方を指す。
「リュー……リュジスモンとは同郷で幼馴染。こいつ、この通り超がつくほどバカ真面目だが、実力は確かなのは保証する。配置の希望は言ってなかったが、向いてるのは中衛から後衛。得物はなし」
自慢げというよりは確かな自信と信頼関係があって推しているような、淡々とした言い方だった。
「……なんか、リュジスモン自身よりアンタのほうがリュジスモンに詳しくない?」
ん、と背の高い女の子が首を傾げた。グリフも隣でうんうんと頷いている。
ユルルモンは再び疲れたような溜息をついた。それから、こちらを向いたままリュジスモンの背中をばしばしと叩いた。心なしか目がじとっと据わっている。
「しょうがないだろ、こいつが何にも言わないんだから」
なんとも言い難い顔をしているリュジスモンに対して、ジト目のままユルルモンは更に続ける。背中はバシバシと叩いたままだ。
「一応、オレたちの出身地では実力トップ。次期リーダー候補だってさ」
「ユルル!」
余計なことを言うなとばかりにリュジスモンが声を上げたが、それより先に女の子とグリフが食いついた。
「へぇー! アンタそんなに実力があるんだ!」
「今期生に里長候補が居るって聞いたけど、もしかしてリュジスモン?」
「ち、違う違う! 俺じゃなくて……!」
そのまま質問攻めに遭うリュジスモンをほったらかしにして、ユルルモンは僕と小さな女の子を交互に見る。
「それで? アンタらは? どっちか前衛だったりする?」
ひゅっと小さな悲鳴を上げて女の子が竦むのがわかる。僕はその様子をちらりと横目で見た後、いや、と首を振った。
「僕はどっちかっていうと中衛かな。どちらかというと、動くよりも戦術を立てるのが好きなんだ。やるなら参謀がいいね」
にっこり笑って応えると、ユルルモンはふーんと興味なげに僕を一瞥して、女の子の方を向いた。
――あ、名前聞かないんだ……かなりマイペースとというかなんというか……
脱力して、この先が少し心配になる僕をよそに、ユルルモンは女の子の方に声をかける。
「アンタは? 前衛?」
そんなに強い言い方ではなかった、はずだけど、声をかけられた女の子は文字通り体を浮かすほど驚いた。見ていてちょっとかわいそうになるくらいだ。
「え、あ、あの、わた、わたしは……、……っ」
ぷるぷるしながらとても小さな声でどもってしまっている。
ユルルモンは視線を外さずにじっと続きを待っている。……もっとも、本当に視線が合っているかは傍目にはわからなかったけれど。
っていうか、声を聞く限りやっぱり女の子だったんだ、とか、助け舟を出すべきかな、とか、ぼんやりと考えている内に、すぱんっと小気味の良い音が辺りに響き渡った。質問責めから逃れたリュジスモンが、後ろからユルルモンの頭をひっぱたいたのだ。
「っにすんだリュー!」
ぽかんとする僕とコレットをよそに、ユルルモンが文句を上げる。が、リュジスモンは取り合わない。
「お前こそ何してんだ。その子、怯えてんだろ」
「なんもしてねぇよ! ただちょっと答え待ってただけだ!」
ぶーぶー怨嗟を上げるユルルモンを、はいはいと適当にあしらうと、リュジスモンは少し腰を落として女の子と向き合った。
あ、と思った。
ユルルモンはただ上から見下ろしているだけだったけれど、リュジスモンはより低い視線――彼女と同じくらいの高さに合わせようとしている。
なるほど。リーダーの素質かはわからないけれど、これがユルルモンとの違い、か。
とはいえ、ユルルモンも叩かれた頭を撫でつつ、横槍を入れようとはしない。ちょっと惜しいだけで、気遣い自体は意外とできるのかも、と、二人を観察していると、もじもじと下を向いていた女の子が、ようやく顔を上げる。
「あ、の……わ、わたし、は、こ、コレットっ、て、い、言います……」
恐ろしく震えて小さな声だ。
それでも僕らは一言も聞き漏らさず、彼女の言葉を待った。
名乗った後、コレットは自分を落ち着かせるように小さな両手を胸に当てると、はぁと一息つく。
「え、得物は、チャ、チャクラムでっ……前衛、き、希望、ですっ。っ、そのっ魔力量は、ひ、より、多い、と思い、ます……っ」
一生懸命そこまでなんとか言い切ると、びよんと弾けるように深々と頭を下げた。
「あ、あの、あのあの、よ、よよよ、よろしくおねがいっします! ごめんなさい!」
何故か謝りだした彼女をどうどうと宥めながら、リュジスモンがユルルモンへ視線だけ向ける。
「前衛、ってことはユルルと組むことになるな」
「そうだな」
彼女の様子にジト目を更に細くしたユルルモンは頷くと、一歩進んでコレットの前へと移動した。
「それじゃ、よろしくな、コレット」
やっぱり目線を合わせることはしないけれど、文句も何も言わず、ただ真っすぐにすっと左手を差し出す。
「あ、あ……」
コレットはおろおろしながら彼の手をしがみつくように両手で掴み、再び全身を使ってペコペコと頭を下げた。
「お、お願いしますっ、ゆ、ゆ、ゆるるるるもんさん!」
「……」
るが多い。
どうにも緊張しきっているらしく、一向に落ち着く様子が無い。
そんな彼女に、やはり少し苛ついているのか、ユルルモンはぶっきらぼうに言い放った。
「ユルルでいいよ。さんもいらない。これから一緒にやっていくんだし、仲間内で一人だけフルネームでさん付けされると面倒くさい」
言葉の中身よりも彼の雰囲気に気圧されたのか、コレットは更にあわあわとしながらこくこくと必死に頷く。
「は、はいっ、えと、ゆ、ゆゆゆゆゆゆ、ゆるゆるさん!」
結果、今度はゆが増えた。面食らったのか呆れたのか、ユルルモンはへの口のまま黙り込んでしまう。
見かねたリュジスモンがフォローするように割って入った。
「気負う必要はないぞ。俺もリューでいいし、こいつなんて『ゆ』でいい」
冗談めかすでもなく本当に至極真面目な、自己紹介のときと全く変わらない調子でのたまう。
即座にリュジスモンへのツッコミが飛んだ。
「いいわけあるか。お前こそちゃんと呼べ」
「なんでだよ」
「なんでじゃねぇよ。なんだ『ゆ』って。一文字じゃねぇか。他と区別がつかないだろうが」
「それで十分通じるだろ」
「通じねぇよ! ならお前だって『り』でいいだろ!」
「ダメだ」
「ハァ!?」
「『り』だとグリフと被る」
「被ってねぇよ!! 二文字目じゃねぇか!! 略すとしてもそこは『ぐ』だろ!!」
「……ぷっ」
思わず吹き出してしまった。
リュジスモンはきっと気を遣ってるんだろうけど、ユルルモンにはそんな雰囲気はない。きっと彼らは普段からこんな感じなんだろう。微笑ましくて笑ってしまう。
もっとも、気を遣われた方のコレットは、完全に面食らってしまってずっとぽかんとしてるんだけど……
「あたしもコレットにジゼルって呼んでほしいなぁ」
「ひゃああああ!!!」
いつの間にか来ていたもう一人の女の子――ジゼルが背後からコレットの肩にぽんと手を置く。不意を衝かれたコレットはちょっと哀れなくらいすごい声と共に飛び上がってしまった。
流石に言い合っていた二人も何事かとこちらを向く。
「あはは、ごめんごめん! 元気が良いねぇ」
一方、叫び声の元凶たる本人は、あんまり悪びれていないような軽い口調でけろりと笑っている。
それから、コレットに、というよりは僕らの方を向いて、改めて挨拶をしてくれた。
「挨拶が遅れたね。あたしはジゼル。得物は弓。だから、中衛向きだね。よろしく!」
こちらはこちらでとても明るい女の子だ。コレットとは正反対の感じがする。
――案外そういう正反対の性格のほうがお互いうまくやってけるのかもしれない。ジゼルならコレットを上手く引っ張って行ってくれそうな感じもするし
そんなことを考えつつ、僕はジゼルに声をかける。
「中衛……ってことは僕と同じ位置か。じゃあ、君が僕と組む可能性が高いってことか」
「? ああ! そうだねっ」
初めて僕の存在に気がついた、という感じでジゼルが言った。
――……あれ、もしかしてコレットしか見てなかった……? 確かに僕はコレットの次くらいの背丈だけど……
組んだとき大丈夫かな、と不安に思う僕をよそに、ジゼルは僕を品定めするように一瞥し、なるほど、と一人で納得している。
何がなるほどなんだろう。
「まあ、大丈夫そうだね。改めてよろしく」
少し、大分、結構引っかかる言い方なのだけれど、彼女の目を見ると特に悪気や意図など無さそうなので、一旦脇に置いておくことにした。
「よろしく」
握手を求めると、ジゼルはにっこり笑いながら手を握り返してきた。うん、やっぱり悪いヒトではなさそう。
これから上手くやっていけばいいし、知ってもらえればまあいいか。最悪、班替えっていう選択肢もあるし……
「なあ、それで結局、お前の名前はなんていうんだ?」
思考を遮るようにグリフが問いかけてくる。
僕はしばらくきょとんとしてから、ようやく自分が名乗っていないことに気がついた。
視線が一斉に僕に集まる。注目が集まると、さすがに少し恥ずかしい。
はは、と軽くごまかすように笑って、僕は改めて名乗った。
「僕はクロだよ。よろしくね、みんな」
黒の残響 牧瀬実那 @sorazono
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