第108話 ニノ。

 シロとハクは早くも立派に自立した。僕らの棲家にはついて来ず、自分たちで棲家を作り、そこで勝手に生活している。

 シロとハクも僕らのようにヘッドバンキングで穴を掘ったのだろうか。少し見てみたかった。


 僕らがモフモフ島に行くと、シロとハクがモフモフたちと戯れていた。もしかしたら何かの勝負でもしているのかもしれないが、僕らにもよく分からない。


 シロとハクがモフモフたちと戯れている隣で、僕らはモニターに映るニュースを眺めた。一時期の緊迫感が嘘のように平和なニュースが流れている。


 ---------------のんびり平和だねぇ。


《そうですね。良いですね》


 ---------------このモフモフ島で、二度も大変な目にあったのにね。


 この場所で大艦隊に囲まれたりもしたが、今はのどかな海が広がっている。


《はい。でも第一の脳〈あるじ〉のおかげで助かりました》


 ---------------僕のおかげ? そうなのかなぁ。


《そうですよ。第一の脳〈あるじ〉が進化で来てくれたからですよ》


 ---------------そういえば勝手に来たって言っていたね。


《そうです。勝手に来たんです》


 そう言って、ニノが笑っている。

 最初のころは表情も少なく本気で『勝手に来た』と思っていたはずだが、最近は本気なのか冗談なのかよく分からないこともある。

 ニノの思考が複雑になってきている感じがする。より一層、人と話をしている気分になってくる。


 僕はニノとの出会いを思い出す。

 僕が真っ暗闇で絶望していたときに現れた第二の脳。イメージは銀髪の美少女で、名前は『ニノ』とした。

 それ以来、僕はニノに助けられてばかりいる。


 僕1人のときは身体を動かすことすら出来ないでいた。ニノが現れたことにより、何とか身体を動かせるようになっていった。

 思えば最初はぎこちなかった動きだが、今では当たり前にスムーズだ。


 モフモフ島で呑気にキャンプをしていたとき、人間に見つかった僕らはアルティア共和国の艦隊に、総攻撃をされてしまった。あの時、もしニノがいなければ、僕は艦隊を全滅させていたことだろう。そうなればこんな平和な生活はなかったに違いない。


 ニノは人間の言葉を覚えてくれた。おかげでアルティア共和国の大統領選挙では、応援演説で大統領の再選に貢献できた。

 アルティア共和国から依頼をされて、ジャピア王国へ暗黒巨大生物を退治しに行ったこともあった。そんな縁からアルティア共和国やジャピア王国は、世界に先駆けて僕らのトモダチになってくれた。おかげで命を狙われることもなくなり、大戦争にもならずに済んだ。


 色々なことがあったが、今ではすっかり平和になり、のんびりスローライフを楽しんでいる。僕はこの世界に来たときに目指した人類との共存という目標を達成した。


 人類と共存したい、人類と仲良くしたいという気持ちは、元々ニノの願いだったのかもしれないと、僕は思う。

 ニノの願いを叶えるために、たまたま選ばれたのが僕だった。それだけのことかもしれないが、この結果なら僕は役に立ったと思って良いのだろうか。


 巨大生物と人類が仲良く共存する世界。

 元々この世界の住人ではないである僕は、もう不要な存在なのかもしれない。不要な異物であるなら、このままこの世界にいるのは虚しいな。僕は目の前に広がる平和な世界を眺めながら、そんなことを思っていた。


《あれ? 急にどうしたんですか? 元気ないですね》


 ---------------いやね、ニノも立派に成長したし、人類とはトモダチだし、シロとハクもいる。


《楽しいですよね。それがどうかしたのですか?》


 僕は少し間をおいたあと、こう続ける。


 ---------------だから進化によって来た僕は、そろそろ役目を終えて不要かなと思ってさ。


 ニノに隠しごとをしても仕方がないので、思ったことをそのまま言った。するとニノは、僕を見ながら呆れたように言う。


《はぁ、第一の脳〈あるじ〉は賢いと思っていたのに、バカなんですか》


 ----------------えっ、何で?! ニノ、酷い。


《私が大好きなんですから、不要なわけありませんよ》


 えっ! 何?! 大好き?!

 ニノはいきなり何を言い出すのか。ニノの予想外の言葉に僕は驚き、そして僕の不安は吹き飛んだ


《それに他のみんなだって寂しがりますよ》


 僕の好きなこの平和な世界に、僕が存在する理由はまだあった。よく分からずに来た世界だけれど、今の僕はこの世界が大好きだ。


 ---------------嬉しいことを言ってくれるね。やっぱりニノは可愛いな。


 僕は思ったままを言う。ニノがいつもの返しをする。


《……でもこの姿は第一の脳〈あるじ〉の想像ですよ?》


 ニノはそう言って、真っ直ぐに僕を見たまま微笑んだ。



 ◇



 僕は転生したら体長100m超の巨大生物で人類の敵だった。

 正体不明の危険な巨大生物だと思われていた僕らだけれど、この世界に僕らを恐れて敵対してくる人類はもういない。

 いつまでもニノと一緒にのんびり平和に暮らしていこう。



『ピヤアアアン!』



 〜終わり〜







〜あとがき〜

おまけのエピローグが残り1話ありますが、実質、今回が最終話で完結となります。

処女作で何も考えずに書き始めて思いがけず長くなりましたが、たくさんの人にお読みいただき、感想や評価を貰ったりと励みになりました。WEB小説なのに長々と休載期間があったりしましたが、ここまでお読みいただき本当にありがとうございました。



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