第107話 僕?

 シロとハク。まだまだ小さいけれど、とても強い。強いけれど、食事以外で他の生物を襲うことはない。

 僕らの真似をしているのかもしれないし、本能的なものかもしれないが、穏やかな性格なのは良いことだ。

 これならシロとハクが他の巨大生物と問題を起こすことはなさそうだ。


 ただ人間との関係には問題がある。もっとも問題の原因は人間側にあるのだけれど。

 人間はシロとハクを好きすぎる。生まれた時からすくすくと元気に育っていく姿をたくさんの人々が映像で見た。その映像を人々の間で、シロとハクの人気が爆発している。


 一時期、モフモフ島の周辺には毎日のようにマスコミが殺到し、各国から一般人を集めた観光ツアーまで押し寄せた。

 その後、あまりに危険ということで、モフモフ島の周辺はマスコミや一般人の立ち入りが規制されることになる。現在はアルティア共和国の軍隊しか近づけないようになっている。


 ---------------僕らが群れになって危険視されるかと思ったら、逆に大人気だね。


《はい。人気は私たちではなく、シロとハクですけど》


 --------------そうだね、僕ら見た目は怖いからね。


 怖い見た目の僕らと比べてシロとハクは、とても可愛い。この可愛いという感想は親バカではない。

 僕らを小型化、そしてデフォルメしたように丸みを帯びた形状。白くて清潔感があり、大きな黒目がクリクリと輝いている。


 その上、いつのまにか挨拶シリーズをマスターしている。僕らの真似をして何となくで使っている。

 自然に愛想を振く姿は、魔性の巨大生物だ。


 ---------------僕らは死ぬ思いで人類とトモダチになったけど、早くもシロとハクは僕らを超えたね。


《そうですね。シロとハクが人間に攻撃されるとは思えませんね》


 すでに人類は、シロとハクに尊みを感じている。僕らのように未知の脅威と恐れられ、人類から目の仇にされることはないだろう。



 ◇



 ノックス中尉とファイン少尉がモフモフ島の様子を確認しにやってきた。ノックス中尉とファイン少尉を見つけて、シロとハクが寄ってくる。


 まずは僕らがノックス中尉とファイン少尉に挨拶する。


『ゴガオオオン!』(こんにちは)


 真似をするようにシロとハクも挨拶をする。


『『コカォォン!』』


「おぅ、こんにちは! シロ! ハク! 大きくなったな」

「こんにちは。皆さん元気そうですね」


 ノックス中尉とファイン少尉も挨拶を返してくれる。


 シロとハクは人間の言葉が分からない。当然、ツノモールスも使えない。シロとハクは、ノックス中尉とファイン少尉が何を言っているのか分からないにも関わらず、2人の人間を見て嬉しそうに挨拶している。


 せっかくノックス中尉とファイン少尉が来てくれたので、ついでに挨拶の練習をする。今度は遺憾の意のおさらいだ。僕らは防衛軍から模擬弾を撃ってもらう。模擬弾が僕らに命中する。


『グルグガガアアン!』(やめなさい)

『『クルクカァァァン!』』


 模擬弾は痛くないので遊んでいるだけみたいに感じるが、雰囲気ぐらいはシロとハクに伝わっているはず。出来るだけ間違えずに挨拶の使い分けをして欲しい。


 防衛軍はシロとハクの生誕祝いにマヨネーズを贈ってくれた。巨大イカ焼きの味付けにする。やはり美味い。

 美味い食事を貰ったからには。


『ピヤァァァン!』(ありがとう)

『『ピヤァァァン!』』


 シロハクもしっかりとお礼を言っている。


 シロとハクは巨大生物とは思えないほど、人間とのコミュケーションがとれている。人間との距離感も程よく、とても良い雰囲気だ。

 この様子を見て、シロとハクを兵器として利用するなどと想像されることは、間違ってもないだろう。


 僕はシロとハクを見ていると、巨大生物と人類との関係は、このぐらいが普通であり適切かもしれないと思ってしまう。


 人類との距離が近すぎる別世界から来た巨大生物が異端なのだから。


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