第96話 人類の敵でした。
アルティア共和国の大統領執務室に、演説を終えたボワットモワ大統領が戻ってきた。側には大統領のマシーンと言われるトレイル国務長官が控えている。
そのトレイル国務長官が、ボワットモワ大統領へ話しかける。
「巨大生物パウンドがトモダチですか。大統領らしいお言葉でした」
「トレイルも私がパウンドを攻撃するとは、考えてはいなかっただろう?」
「はい。大統領ご自身が弾劾されることになっても、パウンドの味方をすると確信しておりました」
ボワットモワ大統領は、自身を応援してくれた者を裏切るような政治家ではなかった。それゆえ国民からの信頼も厚く、カリスマ性を発揮していた。
「私の演説を聞いて、我が国の国民はどう思ったのだろうな」
ボワットモワ大統領は、自身の考えは間違っていないと思いつつも、やはり国民の声は気になっていた。
ボワットモワ大統領の問いに、トレイル国務長官が返答する。
「演説後の街の様子がニュースになっております。テレビのニュース映像ご覧下さい」
ニュース映像には『ボワットモワ! パウンド! トモダチ!』と歓声を上げる人々が映し出されていた。多くの人々がプラカードや国旗を持ち、大通りをパレードしている。
ボワットモワ大統領の演説は、潜在的にパウンドへ友好的な感情を持つアルティア共和国の国民心理へヒットし、反巨大生物運動は一気に衰えた。その後すぐに『巨大生物パウンドとトモダチのアルティア共和国は最高!』という流れになり、国民は熱狂した。
国民の熱狂を作った背景には、カリスマ性を持つボワットモワ大統領の言葉の力に加えて、トレイル国務長官を始めたとした大統領マシーンの動きがあった。
◇
僕らは、感激してモニターを見ながら突っ立っていた。僕らは、ボワットモワ大統領の言葉がとても嬉しかった。
『巨大生物パウンドは、我が国にとって大切なトモダチである!』
なんと、超大国アルティア共和国の大統領が、僕らことをトモダチと言ってくれるとは。
---------------ただの巨大生物ではなくトモダチだって。嬉しいね。
《はい。ビックリしましたけど、凄く嬉しいですね!》
ニノもボワットモワ大統領の演説を聞いて、ニコニコしている。
しかし、まだ全てが終わったわけではない。アルティア共和国とソーヴォイツ連邦の艦隊は、睨み合ったまま膠着している。
ソーヴォイツ連邦艦隊が引かなければ、戦争が始まることに変わりはない。
程なくその緊張感の解かれるときが、やってきた。ついにソーヴォイツ連邦のエメリスキー大統領が声明を発表した。
『巨大生物パウンド、我々は貴君のことを誤解していたかもしれない。貴君からの謝罪を受け入れよう。そして我が国からのミサイル攻撃について謝罪し、速やかに艦隊を引き上げる」
おお! あのソーヴォイツ連邦も艦隊を引き上げてくれると言っている。どうなることかと思ったけれど、これで何とか戦争を回避できそうだ。
エメリスキー大統領の話が続く。
『我が国は、これから始まることになるであろう国連査察団の調査において、貴君のことを知りたいと考えている。我々が貴君のことを知った結果、我が同志パウンド! そう呼べる日が来ることを期待している。そして最後になるが、アルティア共和国ボワットモワ大統領、ジャピア王国ジンシロウ党首、貴君らの戦争回避への言動に感謝する』
ソーヴォイツ連邦のエメリスキー大統領も、僕らが敵ではないと思ってくれた。ソーヴォイツ連邦が、より安心できるよう存分に僕らの生活を見て頂こう。
大統領の判断により、アルティア共和国とソーヴォイツ連邦ともに艦隊を引き上げ、戦争にはならずに済んだ。
僕らも抹殺対象から外れて、逃げ回らなくても良くなった。これでのんびり安心してスローライフができるだろう。
僕らは『グルグガガアアン!』『キュルルルゥゥゥン!』と言っただけだけれども、僕らを信頼してくれる人たちに助けられ、最高の結果に繋がった。
ファイン少尉がモニター越しに、世界のニュースを教えてくれる。
世界中の人々が戦争回避に歓喜している。巨大生物パウンドはトモダチだと熱狂している。
---------------やったね。世界中の人が喜んでるよ。
《はい。みんなトモダチで、私もとっても嬉しいです》
ニノはそう言って、幸せそうな満面の笑みを僕に見せた。
この世界に来たときは、人類の敵だった僕らだけれど、もう僕らは人類の敵ではない。僕らは人類のトモダチだ。
第3部完
〜あとがき〜
これで第3部は完結となります。ここまでお読みいただきありがとうございました。幕間を1話だけ挟み、最終となる第4部へ続きます。引き続きよろしくお願い致します。
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