第93話 それぞれの解釈?
バムダ諸島周辺はパウンドの謎の行動により、異様な空気に包まれていた。
バムダ諸島を取り囲むアルティア共和国の主力となる第1空母打撃群。さらに第1空母打撃群の後方には、巨大生物防衛軍の艦隊が控えていた。その中の一隻の軍艦にファイン少尉とノックス中尉が乗艦していた。
「あの新しい鳴き声は、どう見ても『ごめんなさい』ですね」
ファイン少尉はパウンドの言動を『ごめんなさい』だと確信した。
「やはりファイン少尉もそう思うか。頭を下げているので、俺でも分かった。今までの3種類に比べるとかなり分かりやすいな」
ノックス中尉も同様の感想だった。
「はい。故意ではないにしろ、ソーヴォイツ連邦の潜水艦を沈めたことを反省しているのでしょう」
ファイン少尉は、パウンドとの付き合いから、パウンドが色々と反省していると推測した。
「そうだな、俺も同意見だ。
「はい。急ぎましょう」
過去の実績からパウンドの理解者として評価されている2人の意見。これは大きな意味を持ち、巨大生物防衛軍からの進言として、パウンドは『ソーヴォイツ連邦の潜水艦を沈めてごめんなさい』と言っているという解釈が、ボワットモワ大統領の元へ伝えられた。
◇
巨大生物防衛軍兵器開発部では、メカパウンドを開発したレーン博士がバムダ諸島からの中継映像を見守っていた。
「それにしても核ミサイルには、愛もロマンもないな。それに比べて我々の開発したメカパウンドは、愛のある良い働きをした。ホルダー君もそう思うだろう?」
レーン博士が同じく中継映像を見守っていたホルダーへ話しかける。レーン博士は、配属時からはっきりと意見を言う新人ホルダーを気に入り、側に置くことが多かった。
「そうですね。メカパウンド3番機は、立派な仕事をしました。まあ12番機まで完成しましたし、1機ぐらい減ってもどうってことないですよね」
「まあ確かにそうなんだが、ホルダー君は時々愛のないことを言うようだな」
「はい、恐縮です」
「まあ良い。その後のパウンドが行った一連の行動は謝罪だな。『こんなことになってごめんね』と言ったところか」
「あの『キュルルルゥゥゥン』という初めて聞く鳴き声は、『ごめんなさい』ということですか」
「私はそう見る。まず間違いないだろう」
「なるほど。そうしますと、バムダ諸島の周辺は緊迫した空気ですし、ボワットモア大統領へホットラインした方が良いのではないでしょうか。新装備を搭載してパワーアップしたメカパウンド軍団で、謝っている相手を殺すのもアレですし」
「そうだな。ホルダー君も愛とロマンがわかってきているようで何よりだ。私は戦争もパウンドへの攻撃も望まない。私の見解を一言だけ大統領へ伝えておくとしようか。最後は責任あるアルティア共和国の大統領の判断に委ねよう」
大統領へのホットライン持つレーン博士が、ボワットモワ大統領へ進言した。
◇
国連本部にもバムダ諸島からの中継映像を見守る者がいた。ジャピア王国『巨大生物を応援する党』、通称『巨応党』の代表であるジンシロウ党首だ。
巨応党のジンシロウ党首は、ジャピア王国の大臣として国連本部にいた。先の解散総選挙後、ジンシロウ党首は野党ながら、ちゃっかりと大臣のポストを手に入れていた。
「パウンド君が艦隊へ向けて発した『グルグガガアアン』という雄叫びは、遺憾の意を表している、そういうことだったな」
ジンシロウ党首は、側近の事務次官へ確認する。
「はい。当初はアルティア共和国のみの解釈でしたが、現在では世界的にもそう認識されております」
パウンドの挨拶シリーズは、広く世界に知られていた。
「ふむ、核攻撃に対して反撃もせず、遺憾の意を伝えるのみか。そして、今回パウンド君が発した新しい鳴き声『キュルルルゥゥゥン』、それに併せて東西南北へ向けて頭を下げる動き。あれは全世界へ向けて、お騒がせしたことへの謝罪といったところか」
ジンシロウ党首はパウンドの行動を、世界への謝罪と非戦のアピールだと判断した。ジンシロウ党首は、パウンドの姿を見て平和国家であるジャピア王国の代表としての血が騒ぎ、この状況で黙っていることは出来なかった。
ジンシロウ党首もまた、この問題を解決すべく動きだす。
その頃、バムダ諸島の周辺では、アルティア共和国、ソーヴォイツ連邦、パウンドの3者とも次の行動に移れず、膠着状態が続いていた。パウンドを中心に緊迫感に包まれたまま時間だけが過ぎている。
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