第89話 イレギュラー?

 パウンドがバムダ諸島へ現れたことにより、アルティア共和国とソーヴォイツ連邦は、ギリギリの最終交渉を行っていた。

 開戦か、戦争回避か。パウンド抹殺か、パウンド許容か。アルティア共和国とソーヴォイツ連邦はともに、超大国としてのプライドを保ちつつ、自国への利益が大きくなるよう最善策を考えていた。

 ギリギリの交渉は続き、最後は両国を代表する大統領の判断に委ねられる。


 パウンドの一件は、大注目のニュースとして、全世界へ広がっていた。ソーヴォイツ連邦の広めた反巨大生物運動の影響は大きく、多くの人々は巨大生物は人類の敵なのかを考えながら、その行く末に注目していた。



 ◇



 バムダ諸島からほど遠い北の海域をソーヴォイツ連邦の戦略級大型潜水艦が航行していた。

 その戦略級大型潜水艦へ乗艦するイバルコフ連邦軍総司令官は苛立っていた。イバルコフ連邦軍総司令官にとっての巨大生物は、存在する価値が全くない不気味で不快なだけの抹殺すべき敵である。


「なぜ大青洋たいせいよう艦隊は、パウンドを攻撃しないのだ。すでにパウンド抹殺計画は始動しておるのだ。初陣でパウンドを圧倒したメカレッドソックスは何をしている。早く攻撃すればいいものを! アルティア共和国のトムベークともやっと話をつけたというのに!」


 エメリスキー大統領からの最終攻撃命令を待っているので、大青洋艦隊がパウンドを攻撃しないのは当然だ。しかし、イバルコフ連邦軍総司令官の過剰なまでの自国愛が、得体の知れないパウンドへの恐怖心を増幅させ、先制攻撃を仕掛けたい衝動に駆られていた。

 その思いが限界に達する。自国の大青洋艦隊に攻撃の動きが見られないことに対して、イバルコフ連邦軍総司令官は、痺れを切らした。


「本艦に搭載している核ミサイルを発射する。目標はバムダ諸島に上陸しているパウンドだ。あの忌々しいパウンドさえ消してしまえば、後はどうとでも出来るのだ。私の考えは大統領閣下と共にある。この判断は間違いではない!」


 潜水艦の乗組員は動揺したが、連邦軍総司令官からの直接の命令のため、その命令に従い核ミサイルを発射した。


「目標はバムダ諸島のパウンド。長距離弾道ミサイル発射します!」


 北の海からバムダ諸島のパウンドへ向けて、怨念の塊である核ミサイルが発射された。


 核ミサイル発射直後、ソーヴォイツ連邦は自軍にイレギュラーが起きたことを把握し、その対処に動く。

 アルティア共和国もまた北の海域から弾道ミサイルが発射されたことを確認、そのミサイルを捕捉した。



 ◇



 超大国の狭間で、僕らは動揺しまくっていた。どうすべきか分からず、モフモフ島に立ち尽くしている。何とか上手く収める手段はないものか。


《ど、どうしましょう?》


 ニノが狼狽えているが、僕も動揺している。当たり前だが死にたくはないし、僕らのせいで戦争になって欲しくもない。


 僕らはモフモフ島にある小さな山に登り、周りの様子を確認する。

 モフモフ島の周囲は、いつの間にか大艦隊に囲まれている。アルティア共和国の艦隊だろう。はるか遠方にも大艦隊の姿が小さく見える。ソーヴォイツ連邦の艦隊だろう。


 いつ戦争が始まっても不思議ではない緊迫感だ。

 そんな中、モフモフ島へ設置されたモニターへノックス中尉が映し出され、僕らに向かって叫んでいる。


「弾道ミサイルが向かってきている! 核かもしれない!!!」


 なんだって?! 核ミサイル?!

 モフモフ島にいる僕らへ向かって?!

 いきなり核ミサイル発射とかあり得なくない?!


 そんなことを思うが、今、考えても仕方ない。

 核ミサイル……僕らの身体なら耐えられるのだろうか。それとも普通に消滅してしまうのか?!


 周囲を見ると、アルティア共和国の艦船が一斉にモフモフ島から遠ざかろうとしている。核ミサイルを避けるためだろう。

 僕らも急いで退避しないと。


 ---------------海へ急ごう!


《はい!》


 僕らは急いで海へと走る。モフモフたちもついてくる。しかし、海へ入る間もなく核ミサイルは迫ってきそうだ。

 遠方に見えるソーヴォイツ連邦の艦隊が、核ミサイルの迎撃を開始している。北極圏で見た4本脚の機械メカが放っていたキラキラした冷却レーザー光線が輝いている。

 ソーヴォイツ連邦の艦隊が核ミサイルを迎撃するとは、ソーヴォイツ連邦が発射した核ミサイルではないのだろうか。

 モフモフ島の周囲にいるアルティア共和国の艦隊からも迎撃ミサイルを発射している。どこの誰でも良いから核ミサイルを撃ち落として欲しい。そう思ったが、ダメだった。

 核ミサイルは迎撃されずに僕らに向かって、一直線に飛んできた。核ミサイルの一部は、冷却レーザー光線によって少し凍ってキラキラと輝いている。

 僕らがどうしようもないと思ったその時、向かってくる核ミサイルにメカパウンド3番機が反応した。

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