第85話 世界の王?

 アルティア共和国大統領執務室。

 アルティア共和国第52代大統領であるボワットモワ大統領の元へ『大統領のマシーン』と呼ばれる優秀な側近チームが集まっていた。


 大統領のマシーンは、過去にパウンドへ応援演説を提案してボワットモワ大統領の再選へ大きく貢献したことから、より一層その評価を上げていた。


 その大統領のマシーンの1人にトレイル国務長官がいる。トレイル国務長官は、ボワットモワ大統領が政治家として駆け出しの頃から補佐を続けているため、特にボワットモワ大統領からの信頼は厚かった。


 トレイル国務長官は、ソーヴォイツ連邦所属の潜水艦に損害が発生した件、閣僚級会談で提示されたソーヴォイツ連邦の解決策を、ボワットモワ大統領へ報告した。


「ソーヴォイツ連邦は、とにかくパウンドが邪魔だと考えているようだな」


 報告を聞いたボワットモワ大統領がトレイル国務長官へ確認する。


「はい。ソーヴォイツ連邦は、パウンドが我が国の指揮下にあると考えて、相当の脅威と捉えています」


 ボワットモワ大統領とトレイル国務長官は、ソーヴォイツ連邦が如何なる手段を講じてでも強硬にパウンドを排除したいという考えを持っていると認識した。


「それでトレイルはソーヴォイツ連邦の提案を、どう考えている?」


「はい。合意の可能性はあると考えています。現状のパウンドは友好的ではありますが、進化した今では我が国の海軍を殲滅させる力を持っていることは紛れもない事実です。他国と連携してパウンドを排除することは悪くはない選択肢です」


 大統領のマシーンの中心人物であるトレイル国務長官もまた、ただ1匹の巨大生物が自国の軍隊よりも強大な力、世界の王になりうる力を持つことを恐れていた。


「しかしながら、パウンドは先の選挙戦で応援演説を依頼した相手。それを突如として抹殺するには、それ相応の理由が必要です。現状、ソーヴォイツ連邦の言いなりでパウンドを抹殺することは、国民から相当の反発があると考えられます」


「当然だな。応援演説を頼んだ相手をいきなり殺すなどあり得ないからな。ただパウンドが我が国にとっても危険な力を持つことは確かだ。ソーヴォイツ連邦の提案に乗りパウンドを排除するとしても、大義名分を得て世論の誘導を確実に行わないとな」


「はい。その通りです」


 ボワットモワ大統領もパウンドが自国にとって危険な力を持っていると認識していた。


「ソーヴォイツ連邦とコンタクトをとっているであろうトムベークの動きは、どうなっている?」


「今のところ表立った動きは見せていませんが、これからソーヴォイツ連邦と連携して、パウンド抹殺の方向へ国民を煽動することが予想されます。国民の意見がパウンド抹殺へ傾き、それに反して大統領がパウンドを保護した場合、大統領弾劾への動きも出てくるでしょう」


 ボワットモワ大統領とトレイル国務長官は、ソーヴォイツ連邦とトムベーク氏の連携を警戒していた。


「扇動によって国民がパウンドを支持するか否か。前回の選挙時はパウンド支持が辛うじて上回ったが、国民感情は水物だ。どう転ぶかは分からない」


「はい。予断を許せない状況です」


「ふむ。我が国の民意、敵性国家ソーヴォイツ連邦、反巨大生物派トムベーク、それに異色の巨大生物パウンド。それぞれがどういう動きを見せてくるか、難しいところだな」


 優れた判断力を持ち、国民からの支持も高いボワットモワ大統領だったが、異色の巨大生物であるパウンドへの対応に苦悩の色を隠せなかった。

 それを見て、長年連れ添っているトレイル国務長官が一言付け加えた。


「私見ですが、よろしいでしょうか」


「なんだ。私とトレイルの仲じゃないか、言ってくれ」


「私はいずれにしろ最終的な決定権を持つ者は、ボワットモワ大統領、あなただと思っております。アルティア共和国の大統領こそが世界の王であり、世界の未来を決定するものだと。未来を決定し、その責任を負う者は、一般国民やソーヴォイツ連邦などではなく、ましてや1匹の巨大生物でもない。世界の王たるアルティア共和国の大統領だと考えております」


「懐かしいセリフだ。トレイルは昔からそう言っていたな。未来への責任を負う者こそがアルティア共和国の大統領だと。国民、ソーヴォイツ連邦、パウンドが如何なる動きをしようが、この世界はアルティア共和国の大統領である私が選択した未来になると、トレイルはそう言いたいわけだな」


「おっしゃる通りです。そして私たち側近は、大統領の考えた未来が実現するよう全力でサポートをするのみです」


 ボワットモワ大統領とトレイル国務長官は、今後の対応方針について話を終えた。ボワットモワ大統領は、覚悟を決めた表情で呟いた。

 

「最後は、この私がパウンドを信頼するか否か、そういうことになるのだろう。異色の巨大生物パウンド、ヤツは今どこで何を考えているのか」


 その頃のパウンドは、世界の王を目指すどころか、ジャピア王国の近海で温泉に浸かりながら、人間の皆さんに怒られないといいなと考えていた。

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