第79話 変な音の正体は?

 哨戒機から報告により、パウンドへの警戒を強めていたソーヴォイツ連邦の潜水艦部隊。緊張感に包まれた中、潜水艦部隊は大緑洋たいりょくようから北極圏へ入ってきたパウンドを捕捉した。


 潜水艦部隊はパウンドを捕捉したあと、追尾を開始。パウンドの後方、近距離をキープしながら航行していた。

 パウンドが北極点を過ぎてしばらくした頃、前方から巨大セイウチが出現する。


「巨大セイウチが、パウンドへ全速で向かっていきます!」


 潜水艦の眼であるソナーマンが、巨大セイウチの急接近を報告する。


「ヤツら何をする気だ?!」


 潜水艦内に緊張感が走る。巨大セイウチは迫る勢いのまま、パウンドへ体当たりする。そのまま2匹の巨大生物は、潜水艦部隊の前で大暴れを始めた。


 パウンドの近距離をキープしていた潜水艦部隊は、危険な状況となった。しかし、その中から1隻の潜水艦が大暴れする2匹の巨大生物へ、さらに接近していく。


「サルマーン海軍大将は、艦体に損害が出ても良いから接近しろとのことだった。沈没さえさせなければ良い。危険ではあるが、さらに接近してパウンドの行動を記録する」


 艦長が決死の命令を出し、2匹の巨大生物の争いを、より危険な距離から記録する。2匹の巨大生物の大暴れにより、海底の岩石が周囲へ飛び散る。


 ドガッ、ガギンッ! ガガガガガガッ!


 飛び散っている岩石の1つが接近した潜水艦の前部を直撃した。巨大な岩石がぶつかった影響で、前方魚雷発射室が浸水。艦体に大きな被害が発生した。

 潜水艦内は怪我人、漏水箇所の修復など慌ただしい状況に陥る。

 被害の発生した潜水艦は岩石が飛び交う中を後進し、2匹の巨大生物から距離を取り海底に着底した。


 パウンドと巨大セイウチが大暴れしたことにより、ソーヴォイツ連邦所属の潜水艦に大きな損害が発生した。



 ◇



 しばらくしてパウンドと巨大セイウチは、ともに落ち着き動きが穏やかになる。

 被害が発生した潜水艦の艦長が、ソナーマンへ問いかける。


「やっと静かになってきたな。2匹の動きはどうなっている?」


 艦長の問いにソナーマンが答える。


「はい。巨大セイウチの方は海面へ浮上していきました。パウンドの方は先ほどから岩陰で横になったまま、動きがありません。眠っているのでしょうか」


「それだと良いのだがな。何か動きがあったらすぐに知らせろ」


「はい。了解であります」


 艦長はソナーマンに続いて、今度は副艦長へ確認する。


「岩石に接触した影響は?」


 慌ただしい艦内は既に落ち着きを取り戻していた。静かになった艦内で、副艦長は返答する。


「はい。前部の魚雷発射室が浸水し、魚雷の発射が不能。その他にも被害箇所が多く、この場から自力で浮上しての航行は、極めて難しい状況です」


 ソーヴォイツ連邦の潜水艦は、浮上が困難なほどの被害となっていた。


「あれだけの岩石だったからな。やはり浮上は無理か。死傷者の方はどうだ?」


「はい。艦長の指示により、魚雷発射室から全ての隊員が退避しておりましたので、死者は発生しておりません。軽症者が10名ほどいるのみです」


 艦長の適切な指示により、死者はなく軽症者のみで済んでいた。


「よし、それならば良い。我が艦はこれから友軍の救助を待つ。艦体に被害は出たが、これは諸君らの失態ではない。栄誉である。この結果にサルマーン海軍大将はお喜びになることだろう」


 艦長は奮闘した乗組員を激励する。


 大破したソーヴォイツ連邦所属の潜水艦は、パウンドが去った後、周囲にいた潜水艦部隊及び救助に来た洋上艦の連携により、速やかに引き上げられ、最寄りの港へ曳航されて行った。

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