第77話 進む抹殺計画?

 ソーヴォイツ連邦軍総司令部の一室にて。

 連邦軍総司令部には、祖国を愛する優秀な軍人が集っている。


 その中の1人にがっしりした体格の大男がいた。

 サルマーン海軍大将。『赤い猛牛』と呼ばれ、国内外から猛将として恐れられている軍人だ。


 そのサルマーン海軍大将へ、イバルコフ連邦軍総司令官が巨大生物パウンドの状況を確認する。


「パウンドの状況はどうなっている?」


 イバルコフ連邦軍総司令官の問いにサルマーン海軍大将がキビキビと答える。


「はっ。現在のパウンドは、我が国の領海付近を離れて北極圏を抜け、アルティア共和国の西海岸へ移動しております。目的を調査中ではありますが、毎日のように浅瀬で寝ていております」


 パウンドが浅瀬で寝ているという状況に疑問を抱き、イバルコフ連邦軍総司令官が問いただす。


「パウンドはわざわざ大緑洋たいりょくようまで行き、ただ寝ているだけなのか? なんて気味の悪いヤツだ」


「はい。定期的に深海へ潜っていますが、7割は浅瀬でゴロゴロと寝ています」


 その頃のパウンドは、アルティア共和国西海岸で綺麗な景色を堪能しながら、のんびりと過ごしていた。

 パウンドを敵と認識しているソーヴォイツ連邦の面々は、巨大生物が景色を堪能しながら、のんびりしているとは想像しない。


「不可解だな、何かの作戦を待っているのかもしれない。目的がはっきりしない以上、パウンドが北極圏へ戻った際には、確実に追尾したいところだ。艦隊の配備に抜かりはないか」


「はっ、潜水艦部隊を中心に北極圏にオンステージしており、パウンドが如何なるルートを通ったとしても見逃さないよう万全の警戒体制となっております」


 ソーヴォイツ連邦軍はパウンドの脅威に備えて北極圏に潜水艦を多数配備、特に巨大セイウチとの接触ポイント、パウンドが上陸した無人島周辺の警戒を強化していた。


「ところでサルマーン海軍大将は、兵器開発省を視察してきたか? 新兵器メカレッドソックスの出来についての意見を聞きたいのだが」


 イバルコフ連邦軍総司令官は、先日ついに完成したメカレッドソックスの性能を気にかけていた。自ら最前線に出る猛将サルマーン海軍大将の見解は、聞き逃せない。


「攻撃力、機動力、いずれも推定でアルティア共和国のメカパウンドを上回る性能、素晴らしい出来です。特にメインウェポン、あれは期待できます。さらに課題だった輸送についても超大型輸送機との連携で、運用に耐えうるものと確信しました。すでに兵器開発省と、今後の作戦運用についての調整をしております」


 猛将サルマーン海軍大将は、新兵器メカレッドソックスの出来栄えに満足していた。


「それは良かった。ゼールゲイン博士の開発で、さらにサルマーン海軍大将のお墨付きなら安心だ。上手く運用して欲しい」


「はい。新兵器メカレッドソックスで必ずやパウンドを仕留めて見せます」


「うむ。抹殺計画の全貌を理解しているサルマーン海軍大将のことだ。心配はしていないが、メカレッドソックス1機で倒そうとする必要はないからな。あの薄気味の悪い巨大生物を人類の敵に仕立てあげる。その後に核戦力を含めた全戦力で確実に殺すのだ」


「はい。そのための潜水艦配備と認識しております。発見した場合は出来る限り、パウンドへ接近して待機するよう、すでに命じてあります。潜水艦に多少の損害が出ても構わない、むしろ損害が出た方が作戦がより早く進むと考えております」


「流石だな。サルマーン海軍大将。無人島とはいえ、偉大なる我が国の領土へ無断で上陸した不愉快な巨大生物だ。姑息で不快なアルティア共和国の手先は、確実に抹殺してやる。大統領閣下もそうお考えのはずだ」


 イバルコフ連邦軍総司令官は、パウンドへ怨みを募らせ、より一層の殺意を抱いていた。



 ◇



 ソーヴォイツ連邦兵器開発省。

 その一角にある巨大格納庫に、完成したメカレッドソックスを満足そうに見上げる1人の男がいた。


「良い出来だ。ロマンがある」


 メカレッドソックスを見上げながら、そう呟いた男は、ゼールゲイン博士。メカレッドソックスを開発した人物だ。


 ゼールゲイン博士は、ソーヴォイツ連邦を代表する博士で、過去にパワードスーツを開発し、それを着用した落下傘部隊が大きな戦果を上げていた。そのため落下傘部隊の侵攻を受けた他国から『死神落下傘のゼールゲイン博士』と畏怖され、アルティア共和国のレーン博士と並ぶ天才だと評されている。


 完成したメカレッドソックスは、AIによる攻防自在の自律制御システムを搭載した4本脚の対巨大生物用決戦兵器だ。

 メカパウンドを上回る全長80mの巨体ながら、大型スラスターを多数装備、脅威の機動性を確保していた。

 メインウェポンは2門のレーザー冷却砲。複数のレーザー光を照射し、ドップラー効果により分子を絶対零度近くまで冷却する新兵器を装備していた。

 2門のレーザー冷却砲は、発射時に複数のレーザー光がキラキラと輝くことから、ダイヤモンドダスト砲と呼称されていた。一部からは、ダサいし長くて言い難いと言われるダイヤモンドダスト砲という名称。しかし、その命名はゼールゲイン博士本人で、かなり気に入っていると噂されている。


 ソーヴォイツ連邦では、北極圏への艦隊配備、新兵器メカレッドソックスの開発が完了。さらに各国へ反巨大生物運動を展開するなど、パウンド抹殺計画は着々と進行していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る