第3部

第70話 ある計画が始動した?

 僕らが存在する世界には、いくつもの国家がある。その中でアルティア共和国は、覇権国家と言えるほどの国力を持つ。

 そのアルティア共和国には若干劣るものの、唯一単独で対抗できる国家が存在する。

 ソーヴォイツ連邦。北ラーシア大陸の大半を占める広大な国土と地下資源を有する超大国である。



 ◇



 ソーヴォイツ連邦では、エメリスキー大統領という長期政権を担い、国内外から『氷の皇帝』と畏怖される大統領に権力が集中していた。

 そのエメリスキー大統領が大統領府の一室で、重厚感のある椅子に座り鋭い眼光を放っている。

 エメリスキー大統領の元には、ソーヴォイツ連邦の誇る連邦軍総司令部の面々が集結していた。ソーヴォイツ連邦の議会及び軍部は、巨大生物パウンドを危険な存在として認知しているためだ。


 ソーヴォイツ連邦軍の総大将であるイバルコフ連邦軍総司令官が、エメリスキー大統領へ報告を始める。

 イバルコフ連邦軍総司令官は、自国への愛が強すぎ他国に対して強行な姿勢を取るため『北の最終兵器』と呼ばれて恐れられている人物だ。


「大統領閣下、アルティア共和国並びにパウンドと呼称される巨大生物について、ご報告致します。はじめにパウンドに対するアルティア共和国の対応についてですが、アルティア共和国はパウンドの出現当初こそ攻撃を仕掛けておりましたが、黒い巨大ヤドカリの出現を境に対応が一変、パウンドへ攻撃を仕掛けることが一切なくなりました。それどころか黒い巨大ヤドカリ戦では、パウンドを援護したと記録されています。これは以前、お伝えした通りです」


 さらにイバルコフ連邦軍総司令官の報告は続く。


「さらにパウンドはアルティア共和国大統領選挙において、現職のボワットモワ大統領の応援をしていたという映像も記録されております」


 パウンドによるボワットモワ大統領への応援演説は、ソーヴォイツ連邦でも注目されていた。

 イバルコフ連邦軍総司令官の報告を聞き、エメリスキー大統領が口を開く。


「ああ、私も何度も映像を見返したが、信じられない光景だったな。まあタイミングよく雄叫びをあげて、尻尾を振っているだけだから、猿でも出来るとは思うがな」


 パウンドのボワットモワ大統領への応援演説は、氷の皇帝と畏怖されるエメリスキー大統領にすらインパクトを与えていた。しかし、冷徹なエメリスキー大統領は、パウンドを猿回しの猿と評価した。


「アルティア共和国が、どういう手段を用いたのかは不明ではありますが、上手くパウンドを手懐けています。パウンドは他の巨大生物より知能が高く、人間の言葉を理解できる程の知能を有している可能性が多分にあります。一定以上の知能レベルであるため、アルティア共和国は何らかの手段を用いてパウンドを手懐けることを可能にしたと、我が国の研究者は結論づけています」


 アルティア共和国が得ている情報を入手することが出来ないソーヴォイツ連邦は、パウンドの動向を注視、独自に情報を収集していた。


「高度な知能を持つ巨大生物が、アルティア共和国に協力している、と言うわけだな」


 エメリスキー大統領が確認する。イバルコフ連邦軍総司令官の報告が続く。


「はい。仮にアルティア共和国にパウンドを兵器として利用された場合、我が国の主力艦隊は壊滅を免れることが出来ないでしょう。従ってパウンドがアルティア共和国の手先であるという現状は、我が国にとって脅威以外の何者でもありません」


「そこまでは以前からの推測でもあったな。それで今回は、その対応策ということになるが、どうなのだ?」


「はい。パウンドは一度ジャピア王国で黒い8本首に殺されかけた後、姿形を変えて強力になって戻ってきました。これ以上、パウンドの力が増大して制御が難しくなることは、アルティア共和国にとっても脅威、いや、全人類にとっての脅威と言っていいはずです」


「ほう、それで?」


 エメリスキー大統領は興味深げに、続きを促す。


「ある口実を作り、それをキッカケにアルティア共和国と共闘して、パウンドを抹殺する計画を立案します。アルティア共和国内にもトムベーク氏を中心とした反巨大生物派がおりますので、そこから親巨大生物派のボワットモワ大統領へ圧力をかける準備を進めております。巨大生物は人類の敵、巨大生物を支援するボワットモワ大統領も人類の敵として弾劾。人類が一丸となって敵である巨大生物を排除しなければならない、という運動を世界規模で展開する計画です」


 パウンドを脅威として認知したソーヴォイツ連邦軍総司令部は、パウンドをはじめとした巨大生物を人類の敵として見立てる計画を立案した。


「うむ、巨大生物パウンドを叩くことを目的とした世界規模の反巨大生物運動か。仮に反巨大生物運動が成功して、さらにアルティア共和国と共闘することになったとしてだ。分かっているとは思うが、あの巨大生物は相当強いぞ。倒す手段はあるのか」


 エメリスキー大統領は、パウンドの戦力を高く評価していた。


「はい。アルティア共和国及び我が国の保有する核戦力、アルティア共和国が所持するメカパウンド、我が国で開発中の四本脚型巨大兵器であるメカレッドソックス、これら全ての戦力を投入すれば必ずやパウンドを葬ることが出来るでしょう。反巨大生物の機運があれば、人類の持つ兵器を集中するという我が国の提案、この提案を世界は支持するはずです」


 エメリスキー大統領は手元の『最高機密 パウンド抹殺計画』という資料を確認したのち決断する。


「よし、良い出来だ。パウンド抹殺計画、抜かりなく進めろ」


「了解であります。エメリスキー大統領閣下」


 エメリスキー大統領はニヤリと笑い、最後に一言、付け加えた。


「旨いウォッカでも飲ませて我が同志にさせることができれば、こんなことをせずとも良いのだがな。パウンドも殺されるぐらいなら、その方が良いだろうに」


「ウォッカ好きの巨大生物ですか。それは気が合いそうですね。それにしても大統領閣下がご冗談を言うとは」


 氷の皇帝エメリスキー大統領率いる超大国ソーヴォイツ連邦において、パウンド抹殺計画が始動した。

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