第67話 第1部ダイジェスト版?(後編)

 僕は人間と共存するために、どうすれば良いかを考えた。

 ニノが初めて僕の前に現れた時『こんにちは』と言ってきた。僕はそこで思いついた。コミュニケーションの基本といえば挨拶だ。


 僕らも人間に挨拶をしてみよう。僕らの弱点が頭部だと分かっていたぐらいなので、僕らの観察をしていたはずだ。

 僕らは練習して、3種類の挨拶を習得した。


『ゴガオオオン!』(こんにちは)

『ピヤァァァン!』(ありがとう)

『グルグガガアアン!』(やめなさい)


 そう簡単に伝わるとは思えないので、複雑すぎず3種類もあれば十分だろう。僕らは3種類の挨拶を引っさげて、たくさんの人間が住む大陸へと向かう。

 僕らは大陸間近の浅瀬から、人間に向けて挨拶をする。


『ゴオオオオン!』(こんにちは)


 何度も通って挨拶をするのだが、やはり簡単には通じない。僕らをいつも観察している軍人のお姉さんがいて期待したのだけれど、ダメだった。


 僕らの挨拶に対して、人間は巨大ミサイルで応戦してきた。

 巨大ミサイルは凄い威力で、巨体の僕らでも吹き飛ばされた。


 そんな強力な巨大ミサイル攻撃を受けたので、僕は『いつか人間に倒されるかもね』とニノに話をした。

 ニノの答えは。


《それは大丈夫ですよ。私たちは進化しますから》


 初めて知った。僕らは進化するようだ。ビックリした。

 ニノによる衝撃の発言は、まだ続く。


《前回は人類に困っていたら、第一の脳〈あるじ〉が来ました》


 僕は前回の進化によって、この世界に来たようだ。なぜ僕が選ばれたのかと思ったら。


《勝手に来ました》


 ニノにとっては、僕が勝手に来たことになっていた。なかなかショックだ。



 ◇



 挨拶しても人間には簡単に通じないとガッカリしていた僕らだったが、気を取り直して再び人間に挨拶をしに行くことにした。


 いつもの海岸へ着くと、そこには黒くてゴツゴツとした巨大な卵が漂着していた。

 僕らの同族の卵かと思ったが、ニノは違うと言っている。何の卵なのだろうか。


 僕らは巨大な卵を眺めていると、巨大な卵の下部が割れて、中から小さな頭部と手脚が出現した。

 巨大な卵の正体は、黒い瘴気を放つ巨大ヤドカリ。暗黒ヤドカリだった。



 ◇



 黒い瘴気を放つ巨大ヤドカリを見たアルティア共和国の防衛軍は、動揺した。その場にいたファイン少尉がノックス中尉へ話しかける。


「ノックス中尉にも黒い瘴気が見えますか? あの目に見える程の黒い瘴気……もしかしたら、オメガ級かもしれません」


「オメガ級だって?! まさか過去に一度だけ現れたという災厄か」


 オメガ級:影響度は不明

 通常の巨大生物とは一線を画す。人類を含め他の生物を殺戮する。



 ◇



 卵から孵った暗黒ヤドカリは、人間の街へ向かって進撃を開始した。

 暗黒ヤドカリへ対して人間の攻撃が始まったが、効果はない。


 ニノは暗黒ヤドカリを倒した方が良いと言っていいる。僕らは人間の街を守るため、暗黒ヤドカリと戦うことにした。


 僕らは満を持して暗黒ヤドカリと対峙する。まずは暗黒ヤドカリに対して宣戦布告となる挨拶を繰り出した。


『ゴガオォォォン!』


 それを合図に僕らと暗黒ヤドカリとの戦闘が始まった。


 暗黒ヤドカリが蹴飛ばした巨大な岩が、近くにいた軍人のお姉さんへと向かっていく。僕らは身を呈して、巨大な岩から軍人のお姉さんを庇う。

 前世での僕は巨大な岩に押し潰されたが、今の僕は巨大生物。人間にとっては巨大な岩でも僕らにとっては小石のようなもの。ヘッチャラだ。


 僕らは暗黒ヤドカリのパワフルな攻撃を受けて、すぐに気づいた。暗黒ヤドカリは、とても強い!

 僕らで暗黒ヤドカリに勝てるのだろうか。


 --------------ところでニノ、最初に『倒さないと』って言ってたけど、僕らなら倒せるんだよね?


《勝ち負けは分かりません》


 ニノはいい子だ。『自分が倒されるかもしれないが人間を守る』そんな覚悟を持っていた。

 僕らと暗黒ヤドカリとの戦いは一進一退。体力を消耗するだけで、ジリ貧だ。

 そこで僕らは、練習していた新技を出すことにした。一歩足スタイルのヘッドバッド。僕らは全力で新技を出したのだが、それでも暗黒ヤドカリの殻に小さなヒビを入れるのが精一杯。致命傷を与えることはできなかった。


 僕らの体力が切れかけた頃、人間からのサポートがきた。

 先日、僕らの巨体が吹き飛ばされた巨大ミサイルだ! 巨大ミサイルが暗黒ヤドカリへ命中する。

 しかし暗黒ヤドカリは、頭部と手脚を引っ込めて巨大ミサイルのダメージを最小限に抑えていた。


 巨大ミサイルでも無傷なのかと思ったが、そうではなかった。


《あれを見て下さい》


 ニノが小さな変化を見つけた。

 僕らが一歩足スタイルのヘッドバッドでつけた小さなヒビが、巨大ミサイルの衝撃で、大きなヒビになっていた。

 僕らは最後の力を振り絞り、ヘッドバンキングの要領でヒビを目掛けて、頭部のツノを叩き込む。


 ---------------いっけえええええ!!!


《やあああああああああ!!!》


 ミシッ! ミシッ! バリッバリバリッッ!!


 頑丈だった暗黒ヤドカリの殻へ小さな穴が空く。その穴に尻尾の先をセットする。

 これでトドメだ!


 ---------------最大火力!!


《いっきまーーーす!!》


 ボゥッ! ゴア! ボボボボボッッ!!!


 尻尾の炎を全力で噴射する。頑丈だった暗黒ヤドカリが、内部から焼けていく。真っ黒焦げになった暗黒ヤドカリから、発していた黒い瘴気が消えていく。人間のサポートを受けた僕らは、難敵を撃破した。


 僕らは暗黒ヤドカリを倒して疲れたので、棲家へ帰ろうと浅瀬へ入ったその時だった。


『ピヤアアアン!』


 僕らの鳴き声を真似た音声が、僕らの背後から聞こえてきた。

 僕らが後ろを振り返ると、お姉さんをはじめ軍人の皆さんが手を振っている。軍人のお姉さんがスピーカーを使って、僕らの鳴き声を真似た音声を大音量で流している。


『ピヤアアアン!』


 これは「ありがとう」ということなのか?! 軍人のお姉さんたちから、目一杯の好意が伝わってくる。


 これは嬉しいサプライズ。それに対して僕らも喜んで返事をする。


『ピヤアアアン!』(ありがとう)


 僕らは初めて人間とコミュニケーションを取ることが出来た。まだまだ先は長いかもしれないけれど、今日の出来事は、とても大きな一歩になるだろう。


 僕らは人間を警戒せず、海面から顔を出し、綺麗な夕陽を見ながら泳いで帰る。心地が良い。

 ニノも自然体で、とても優しい表情だ。

 そんなニノの横顔を見て、僕はまた口走る。


 ----------------ニノ、可愛いな。


《‥‥‥この姿は第一の脳〈あるじ〉の想像ですよ?》


 ニノは、こちらを向き笑顔で答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る