第53話 丘から見る景色。

 南山島での暗黒8本首戦役、ファイン少尉からメイという少女の話を聞き、僕らは暗黒巨大生物による被害を少しでも減らそうと心に誓った。僕とニノがメイという少女の気持ちを引き継ぐ、そんな気持ちを持った。


 やる気に満ちた僕らは、ファイン少尉に暗黒巨大生物に備えて何か出来ることはないかと聞いてみた。

 ファイン少尉の返事は「パウンドさんは敵が現れた時に頑張って下さい」とのことで、平時に出来ることは特になかった。


 ---------------普段は大して役に立たないけれど、いざという時は頑張ろうね。


《はい!》


 そんなこんなで、普段は本土へ近づいてきた巨大生物を追い払う任務をこなすのみ。

 ほとんどの日は、のんびりと過ごしている。


 ---------------いやぁ、最近はどこにいてものんびりできるねぇ。


《本当ですねぇ》


 ジャピア王国での暗黒8本首を倒すという成果により、以前よりも信用されるようになってきた。アルティア共和国、ジャピア王国の陸地や艦船にうっかり近づいても怒られない。のんびり出来る自由な海が広がっている。幸せだ。



 ◇



 そんなある日。ファイン少尉から呼び出しがあったので、僕らはジャピア王国の南山島へと向かう。

 暗黒8本首との戦闘から半年が経ち、南山島も順調に復興しているようだった。避難していた住民も徐々に戻り、多くの人々に笑顔が見える。


 そんな中、僕らは復興の象徴として南山島に土地をもらった。暗黒8本首を倒した小高い丘だ。小高い丘を含めて周辺地域がジャピア王国国立自然公園に指定されていた。


 僕らが暗黒8本首を消し炭にした場所は、一般人の立ち入り禁止。僕らは8本首を倒した功績と、万が一暗黒8本首が復活した時の抑えという理由などから、事前に連絡しておけば好きな時に立ち入ることが許された。

 海から丘までの一本道は“パウンド大通り”という名前がついて、僕らはその大通りを歩いても良い。

 僕らが歩くと沿道に人々が集まってくる。


 ---------------今日もたくさん来ているね。


《嬉しいですね》


 いつも多くの人が集まるので、理由をファイン少尉に聞いてみたところ、どうやらヒーロー扱いをされているらしい。嬉しいけれど、やはり少し照れくさい。

 僕らの名前がつけられた大通りを歩き、小高い丘へ到着する。


 今日の予定はファイン少尉、ノックス中尉、ツムギ少尉、ナオト少尉とのミーティングだ。アルティア共和国とジャピア王国周辺の巨大生物の動向などについて話をする。僕らは聞いているだけだけど。

 そして、必要な話のあとは少々の雑談だ。会話が楽しい。


 ミーティングが終わりファイン少尉ら4人が去った後、暇な僕らだけがその場に残る。僕らは、のんびりと尻尾の椅子に腰掛けて周囲を見渡す。

 陽が沈み始めた夕暮れ。小高い丘から見える街並みは、僕が前世で住んでいたアパートの窓から見える景色と少し似ていた。


 ---------------懐かしいな。


 僕は無意識に呟いた。

 この世界にきて意味が分からず怖かったけど、ニノの存在に救われた。

 人間に攻撃されて殺されそうになったこともあったけど、今では人間と話をすることができ、海を自由に泳いで、上陸できる土地まで貰った。

 転生当初に比べたら十分なのだが、生命の危機がなくなり余裕ができたせいなのか、前世のことを思い出し一抹の寂しさを感じてしまう。

 そんな僕の気持ちをニノが敏感に気がついた。


《以前はこういう所に住んでいたんですよね?》


 ---------------うん。そうだけど。


《帰りたくなりましたか?》


 ニノに問われてドキッとする。


 ---------------うーん、全く帰りたくないと言ったら嘘になるかな。


《そうですか》


 ニノは夕暮れの街並みを眺めながら、寂しそうに答える。


 ---------------ニノはこの世界で同じ種族がいなくて寂しくはないの?


《えっ? 第一の脳〈あるじ〉がいるのに寂しくはないですよ》


 ニノはこちらを向いて少し驚いたように答える。ニノはすぐに穏やかな表情に戻り、真っ直ぐにこちらを見つめている。


 そんなニノを見て僕は思う。今の僕にはニノがいる。そしてニノには僕がいる。少しセンチメンタルになってしまったが、前世のことを色々と考えたところで仕方がない。今の生活は楽しいし、目の前にいるニノはとても可愛い。僕の理想である銀髪の美少女だ。


 ---------------まあいっか。ニノ、可愛いし。


《‥‥‥何度も言いますけど、この姿は第一の脳〈あるじ〉の想像ですよ? それから第一の脳〈あるじ〉もカッコいいですよ》


 ---------------えっ?! 僕の姿あったの?!


《はい。ありますよ。私の想像ですけど》


 ニノはそう言って、悪戯いたずらっぽい笑顔を見せた。







 第二部完






 〜あとがき〜

 これで第二部は完結して一区切りとなります。ここまでお読みいただきありがとうございました。この後は第2.5部として単発エピソードを公開する予定ですので、引き続きよろしくお願い致します。またフォローやお星様を貰えると執筆の励みになりますので、少しでも良かったと思える所がありましたら何卒よろしくお願い致します。


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