第52話 メイと巨大生物の行方?
空母打撃群が敗北した数時間後、アルティア共和国に衝撃のニュースが報じられた。
「我が国の艦隊が黒い瘴気を放つ巨大生物により、半数以上が撃沈されました。その後、その巨大生物は我が国の東海岸へ上陸、人間を襲い海岸線の街を破壊しながら首都へと向かい北上しています」
今まで積極的に人間を襲い、街を破壊する巨大生物はいなかった。
しかし、黒い瘴気を放つ巨大生物は他の巨大生物と大きく違っていた。
黒い瘴気を放つ巨大生物に対して軍隊の攻撃は無力だった。黒い瘴気を放つ巨大生物は、軍隊による攻撃を物ともせず街を蹂躙していく。この異質な巨大生物に対して人類には、なす術がないと思われた。
その様子をテレビのニュースで見ていたメイは悲しんだ。メイは巨大生物により街が破壊され、人々が次々に死んでいく様を、ただ見ていることに我慢が出来なかった。
「私、防衛隊へ行ってくる!」
メイはいても立っていられずに近所にある防衛隊支部へ行こうとした。
「メイ、待ちなさい!」
しかし当然、母親に止められる。
メイは母親の話を聞き、素直に引き下がる。
メイにも怖さはあり、家族のことが大好きだからだ。
その夜、メイはテレビで見たニュース映像を思い出し、眠ることが出来ないでいた。自分なら黒い瘴気を放つ巨大生物を止められるかもしれないと感じていた。
メイは父親、母親、弟、妹へ向けて手紙を書いた。早朝になり、メイは手紙を残して家を出た。
メイは防衛隊支部へ行き、ソフィア隊員へ話をする。
「私があの黒い竜さんとお話してみます」
「でも危なすぎるわよ」
ソフィア隊員は、メイを心配して申し出を断った。
しかし、メイの必死の訴えと、防衛隊に黒い瘴気を放つ巨大生物への対抗策が何もないことから、最終的に申し出を受け入れる。
メイの申し出を受けて、防衛隊内部で作戦を検討した。その結果、メイの要望通り、海岸線でメイと黒い瘴気を放つ巨大生物とを向かい合わせることに決定した。
「メイちゃん、ごめんね。私が巻き込んでしまったせいで」
ソフィア隊員は目を真っ赤にして、涙声になりながら言葉をかける。
「ソフィアさん、そんなに心配しなくて大丈夫だよ」
「メイちゃん、本当に1人でいいの?」
「うん。私、1人の方がお話を聞いてくれるような気がするんだ」
メイは防衛隊の期待と希望を背負い、海岸へと向かった。
どんよりとした空の下、砂浜にメイは1人立つ。黒い瘴気を放つ巨大生物の進路上に小さなメイが立ちはだかる。
メイは怖かった。それでも近づいてくる黒い瘴気を放つ巨大生物をジッと見据えた。
「海へ帰ろうよ」
メイは黒い瘴気を放つ巨大生物へ話しかける。
メイの目の前で黒い瘴気を放つ巨大生物は立ち止まる。
「人間嫌い?」
メイが優しく問いかける。
『ゴグルォォォォォォン!』
黒い瘴気を放つ巨大生物が小さなメイに反応した。
「私は黒い竜さんも他の大きな生き物たちもみんな好きだよ」
メイはすでに黒い瘴気を放つ巨大生物が怖くはなかった。話が通じている気がしたからだ。
黒い瘴気を放つ巨大生物は、メイを避けて街へ向かって歩み始める。人類への蹂躙を止めるつもりはないらしい。そう感じたメイは、再び優しく話しかける。
「もう暴れないで。海へ帰ろう。私も一緒に行ってあげようか」
黒い瘴気を放つ巨大生物は力が抜けたように倒れ込む。砂煙が舞いメイの姿が見えなくなる。
倒れた黒い瘴気を放つ巨大生物から黒い瘴気が消えていき、次第に白いモヤに包まれる。白いモヤに包まれた巨大生物は、再びゆっくりと動き出す。そして海中へと消えていき、二度とその姿を人類の前に見せることはなかった。
黒い瘴気を放つ巨大生物が去った後の砂浜。防衛隊による懸命の捜索にも関わらず、メイの姿を見つけることは出来なかった。
黒い瘴気を放つ巨大生物と共に消えた少女メイ。
巨大生物と話が出来る少女の奇跡として、防衛隊のレポートにのみ記された。
◇
【そんなことがあったんですね】
ファイン少尉の語りを聞いて、僕らはファイン少尉へ返事をした。
もしかしたら、その少女を取り込んで進化した結果、第二の脳であるニノになったのではないか。それなら転生当初、僕に明確なイメージがわき、そのイメージが定着したことも自然なことなのかもしれない。ファイン少尉が僕らを怖がらないことも、ニノが人間を好きなことも納得できる。そんなことを思ったのだが。
《他の巨大生物と話が出来るなんて信じられませんよ》
---------------えっ、そうなの? ニノも少しぐらい話が出来るとかないの?
《出来ませんよ。エビやヤドカリが何かを考えている気がしません》
そうなんだ。そういえば前にもそんなことを言っていたな。
---------------でも今の話を聞いて何か昔の記憶が蘇ってくるとかない?
《はい? 何を言っているんですか?》
--------------いや、今の話の少女が実はニノだったとか、そんなことはないのかなって。
《えっ、今、聞いた話の少女は私のことなんですか?》
---------------いや、知らんけど。
ニノは全くピンときていないようだ。真相はよくわからない。
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