第50話 メイという少女?

 アルティア共和国の東海岸。

 波しぶきの舞う岩場の影に1人の少女がいた。

 少女の目の前には、エビ型の巨大生物が浅瀬から半身を出している。

 エビ型の巨大生物は、防衛隊の監視をかいくぐり浅瀬まで来たようだ。


 少女は、目の前にいる巨大生物を恐れていない。

 それどころかエビ型の巨大生物へ話しかける。


「この先は危ないよ」


 言葉を理解しているとは思えないが、エビ型の巨大生物は暴れたり、少女を襲ったりすることもなく大人しくしている。

 少女は続けてエビ型の巨大生物へ話しかける。


「海へ帰った方が絶対にいいよ。兵隊さんに見つかったら殺されちゃうよ。早く、早く!」


 少女は身振り手振りを加えて、巨大生物に海に帰るように促し続ける。

 すると、エビ型の巨大生物は少女の気迫に押されるように海へと向かい動き出す。

 それを見て少女は喜ぶ。


「やったぁ、帰ってくれた! 良かったぁ」


 少女はエビ型の巨大生物が海中へ潜っていく姿を眺めながら、嬉しそうに笑顔を見せる。


「よしっ、暗くなる前に私も家に帰ろっと」


 少女は元気に走り出し、岩場を後にした。



 ◇



「メイ、また海に行っていたの? 巨大生物が出るから危ないって言ったでしょう!」


 岩場から家に帰ってきた少女の名はメイという。美しい金色の長い髪をした小柄な少女だ。

 メイは砂浜に1人で行ったことを母親に怒られる。しかし、メイは母親の忠告を気にせず元気に答える。


「大きいけど怖くはないよ。だってお話しできるもん」


「またそんなことを言って」


 母親はメイの言っていることが信じられない。嘘をついているとも思ってはいないのだが、子供の言うことだと聞き流していた。


 翌日もメイは岩場へ行く。

 エビ型の巨大生物がひっそりと岩場の陰にある浅瀬に佇んでいた。


「また来てる! 危ないって言っているのに!」


 そう言いながらもメイは少し嬉しそうにする。

 そして、エビ型の巨大生物は暴れることもなく大人しくしている。

 メイは再び海へ帰るように促すが、エビ型の巨大生物はなかなか海へ帰らない。

 そこでメイはキツく注意する。


「もう帰りなさい!」


 怒ったメイを見て、エビ型の巨大生物は海へと戻って行った。



 ◇



 そんなある日、学校が長引いたメイは岩場へ行く時間が遅くなる。

 その間にエビ型の巨大生物は岩場から離れて、姿の目立つ砂浜へと歩き出していた。


『ブシュゥ、ブシュゥ』


 エビ型の巨大生物は音を発しながら、夕暮れの砂浜を突き進む。

 砂浜を歩くエビ型の巨大生物を学校帰りのメイが見つける。

 メイは慌ててエビ型の巨大生物へ近づき、そして叫んだ。


「危ないから海へ戻って!」


 しかし、既にエビ型の巨大生物は防衛隊に見つかっていた。

 住民の安全確保を優先して、攻撃が始まっていないことが幸いだった。


 メイの叫びを聞き、エビ型の巨大生物は海へと帰っていく。

 その様子を見ていた1人の防衛隊員が呟く。


「あの少女は巨大生物と話をすることが出来るのかしら……」



 ◇



 メイは危険区域からの保護という名目で、防衛隊に連れて行かれた。

 メイは防衛軍施設内の一室で質問を受けていた。


「お名前はメイちゃんね。メイちゃんは巨大生物とお話が出来るの?」


 防衛隊の優しそうな女性隊員ソフィアがメイへ尋ねる。


「えっと、私が話かけるだけで返事はありません」


 メイは優しそうな女性に安心して落ち着いて回答する。


「ふふ、そうよね。巨大生物は喋れないわよね。でもメイちゃんの言うことは聞いてくれるのかな?」


「はい。危ないから海へ帰ってって言うと帰ってくれます」


 メイの返事を聞いて、ソフィア隊員は少し驚いたような表情を見せながら話を続ける。


「それは今日のエビ型の巨大生物だけかしら?」


「大きなエビさんとカニさん、あとヤドカリさんも帰ってくれました」


 メイは今までに話をした巨大生物を正直に答えた。


「メイちゃんは凄いわね。そうしたらメイちゃんにお願いがあるんだけど」


「えっ、私にですか?!」


「防衛隊としては人間を守らなければないけど、巨大生物と出来るだけ争いたくないの。メイちゃんに危ないことはさせないから、少し協力してくれないかしら?」


「はい。私も人間と巨大生物は争って欲しくないです。協力したいです!」


 メイは日頃から巨大生物と仲良く暮らしたかったので、防衛隊の申し出がとても嬉しかった。

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