第40話 倒れるニノ?

 黒焦げになった暗黒8本首の傍らで、僕らは横になって体力を回復していた。


 ---------------ふぅ、少し回復してきた気がするね。


《そうですね。やっぱり陸上だと回復が遅いですね》


 ---------------もう少し回復したら、暗黒オタマジャクシを倒しにいこう。


《はい、そうしましょう》


 そう言いながら周囲の状況を確認すると、ニノが異変に気がついた。


《黒いモヤが濃くなっている気がします》


 ---------------あれ、本当だ。確かにさっきより濃くなってる気がするね。


 暗黒8本首から黒いモヤがもうもうと発生している。

 これはマズイ気がする。死んでないのか。


 ---------------急いでもう一度攻撃しよう。


《はい》


 僕らは黒いモヤが濃くなった暗黒8本首を再度攻撃しようと起き上がる。しかし、少し遅かった。黒いモヤが一気に濃くなり黒い塊に変化していく。

 黒い塊はグネグネと形を変えて、中からツヤツヤとした新しい皮膚が露出してくる。先程までの黒焦げの皮膚を破り捨て、暗黒8本首が復活した。復活した暗黒8本首の姿を見てニノがあることに気がついた。


《顔が変わって身体が大きくなっています》


 ---------------本当だ! そんなことがあるの?!


 先程までの形状は、成獣ではなかったのだろうか。

 体格が一回り大きくなっている。更には元から大きな口が左右に裂けて、より大きくなっていた。その大きく真っ赤な口内には、巨大な牙がギラギラと輝いている。頭部にはツノが生えて、蛇というよりは龍のような見た目に変化している。


『キッシャアアアアアア!!!』


 生まれ変わった暗黒8本首は、僕らに向かって雄叫びを上げた。僕らに対して、怒りの感情を向けてくる。


 僕らは、まだ体力が回復していない。このまま戦って勝てるのだろうか。そんなことを考える間もなく、暗黒8本首は口を大きく開き、火球を吐いてきた。

 先ほどまでの倍はあろうかという巨大な火球が僕らへと向かってくる。しかも火球の色が、オレンジ色から青白い色に変わっている。

 僕らは慌てて身体を反転させるぐらいが精一杯で、巨大な青白い火球が背中に直撃した。


 ボッボッボワワワワアアア!!!

 ジュッワアアアアア!!!


 背中が消滅したかのような衝撃だ。


 ---------------痛ってぇぇぇぇぇぇ!!!


《んんんっ!!!!》


 これはダメだ。何度も食らったら間違いなく死んでしまう。

 僕らも反撃しようと暗黒8本首へ近づき尻尾の炎を出そうとするのだが、尻尾の先を8本首のうちの1つの口に噛みつかれてしまう。尻尾の炎での攻撃が封じられる。


 さらに続けて6つの大きな口に身体中を次々と噛まれて、僕らは身動きができなくなる。最後に残る1つの口が大きく開き、動けない僕らに向けて容赦なく火球を発射してきた。


 至近距離からの火球攻撃に僕らは黒焦げになり、吹き飛ばされる。

 噛みつかれていた箇所は引きちぎれ、身体中ズタズタだ。身体中が痛い。痛すぎる。


 僕らのピンチを見て、ジャピア王国の軍隊が暗黒8本首へ一斉に攻撃を仕掛けてくれた。戦車大隊の砲撃だ。

 砲弾は全て命中するものの、暗黒8本首へのダメージはなさそうだ。ただ暗黒8本首は攻撃されたことへの怒りで、戦車大隊の方へと向かって行った。


 僕らはひとまず助かったが、まともに動くことすら出来なくなっていた。その様子を見たノックス中尉が僕らへ撤退の合図を送ってくる。


「この先は俺たちが何とか食い止める。相棒パウンドは海へ引き返し、回復したらまた共闘してくれ」


【分かりました。ごめんなさい】


 僕らはツノモールス信号でノックス中尉へ返答する。


 その間に暗黒8本首は、8つの口から戦車大隊へ向けて火球を連発していた。戦車大隊は散開しつつ反撃しているが、徐々に損耗が増えていく。

 数分後、戦車大隊からの砲撃の音は聞こえなくなる。



 ◇



 戦車大隊を壊滅させた暗黒8本首は、息をつく間もなく僕らを追ってきた。僕らはまともに動けないながらも出来る限りの力で海へと向かう。何とか海まで到達できれば逃げ切ることも可能だし、海へ引き込めれば勝機がみえてくるかもしれない。


 ---------------ニノ、海まで頑張るよ!


《はい!》


 海まであと少しのところまで来たのだが、僕らは再び背中へ火球を食らってしまう。


《んんん!!!》


 ニノがうめき声をあげる。

 僕らの足は完全に止まり、暗黒8本首に追いつかれてしまう。


 暗黒8本首は火球を放つことはせずに噛みつきにきた。

 それならばと僕らは精一杯の力で8本首のうち1つの首へツノを突き立てる。


『キッシャアアアアアア!!!』


 ツノを突き刺した首が1本ダラリと垂れる。

 しかし、残る7本首の先にある大きな口に身体中を噛みつかれる。


 ---------------く、苦しい。


《はぁ、はぁ。もうダメです……》


 暗黒8本首は完全に動かなくなった僕らを確認して、満足そうに噛みつきを解除する。支えがなくなった僕らは自力で立つことが出来ずに倒れ込む。

 それを見て暗黒8本首は、僕らへ向かい全ての口から一斉に威力のある青白い火球を発射した。


 ボッボッボッボッワワワワアアア!!!!

 ドドドドッドォォォォォォン!!!!


 僕らは火球の衝撃で海の方へ向かい吹き飛ばされた。僕らは身体中ズタズタの真っ黒焦げで、片腕と尻尾の半分ほどが千切れてしまった。


 ---------------ニノ、大丈夫?


《‥‥‥》


 ニノからの返事がない。

 僕の視界にいたニノがガクンと膝から崩れ落ちた。

 倒れたまま全く動かない。


---------------ニノ、死んじゃダメだ!


 僕らは火球の衝撃により、浅瀬まで吹き飛ばされていた。僕はそこから最後の力を振り絞り、這いずりながら海中へと向かう。

 何とか海中へと逃れることはできたが、逃れた後の記憶はない。



 ◇



 パウンドの敗北後、住民のほとんどが南山島から避難することになる。無人となった南山島でジャピア王国及びアルティア共和国の連合軍と暗黒8本首、オタマジャクシ型の巨大生物との戦闘は激化した。


 その戦闘は数日間に及び続くことになる。必死の攻防を続ける連合軍だったが、最後は連合軍が南山島に一部の監視部隊を残して撤退する。連合軍は、戦闘の継続を断念して状況は終了した。


 南山島は8本首、オタマジャクシ型の巨大生物だけが生息する絶望の島となってしまった。

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