第38話 どっちが強い?

 ジャピア王国の誇る清流シイマト川。キラキラと水面が輝き、普段は多くの観光客で賑わう人気スポットだ。しかし、今日はその面影はなく無人の河川敷は2匹の巨大生物の決戦の場となる。



 ◇



 僕らは周囲に建物のない河川敷に陣取った。


 暗黒8本首は川沿いを這いずりながら、じりじりと近づいてきた。

 今までは土煙で分かり難かったが、どうやら暗黒8本首は僕らと同じぐらいの体格だ。

 体格は同じなのだが、8つの頭が全てこちらを向き16つの紅い瞳に睨まれる。これは怖い。蛇に睨まれた蛙の気持ちがよく分かる。

 相手の威圧感が圧倒的で全く余裕はないのだが、攻撃前のルーティンとしてやっておくことがある。


『グルグガガアアン!』(やめなさい)


 まずは遺憾の意を伝えておく。宣戦布告だ。

 僕らの声に反応して8本の首がウネウネと勢いよく動く。

 とても気持ちが悪い。


 ひとまず宣戦布告もしたので、さっそく攻撃しようと思ったその時だった。8つの頭部、そのうちの一つが大きな口を開け火球を吐いてきた。

 先ほど戦闘機を撃ち落としていた威力のある火球だ。


 近づいたとはいえ暗黒8本首とはまだ少し距離がある。そのため向かってくる火球を十分に視認できるのだが、陸上での動きが遅い僕らにはそれを避けることが出来ずに火球の直撃を食らってしまう。


 ボッシュウウウウウゥゥ!!!!

 ジュワワワワワァァ!!!!


 暗黒8本首の吐いた火球の威力は凄まじく、食らった箇所の皮膚が焼けただれた。


 ---------------熱っ! 皮膚が焼けた?!


《これは思った以上ですね》


 感想をのんびり話をしている猶予はない。暗黒8本首との距離を詰めなければ、火球攻撃によって一方的にやられてしまう。


---------------ニノ、暗黒8本首に向かって走るよ!


《はい!》


 全力で暗黒8本首に向かって走り出すと、暗黒8本首も全力でこちらに向かって這いずってきた。距離を取って戦おうなどとは考えていないようだ。

 知能が低くて助かった。頭が8つあろうが、所詮はデカいだけのヘビだった。


 暗黒8本首と真っ正面からぶつかりあう。僕らには極太の脚があるので有利かと思ったのだが、そんなことはなく吹っ飛ばされてしまう。


 これは強い!


 早くも前言撤回。知能が低くてもデカいだけで十分に強かった。所詮はヘビというレベルではない。

 ニノが勝てないかもと言うだけに、真っ正面から戦うのは厳しそうだ。

 そして、隙を突こうにも8つの頭部それぞれにある2つの目が文字通り四方八方を睨んでいる。全く隙がない。


 迷っていると、暗黒8本首は大きな口で噛みついてきた。僕らは咄嗟に頭部のツノを突き刺し応戦する。しかし、頭の数は1対8。不利すぎる。

 結局は8箇所を噛みつかれてしまい、僕らは身動きが取れなくなる。


 この状況をどう逃れるのか少し思案し、僕は尻尾の炎で攻撃することにした。僕らが尻尾から火炎を出すことは知らないだろう。


 ---------------ニノ、尻尾の炎いくよ!


《はい!》


 噛みついている暗黒8本首の頭部へ尻尾の先を向ける。

 そして。


 ----------------最大火力!


《いきます!》


 ボウッ! ゴアアアアアアアア!!


 暗黒8本首へ向けて尻尾の炎、最大火力だ。

 この攻撃でも全くの無傷ならお手上げだ。


 どうだ?!


『キッシャアアアアアア!!!!』


 暗黒8本首は噛みつきを解除して、苦しそうにもがいている。

 炎を浴びた頭部は皮膚が焼け焦げ、プスプスと煙が上がっている。


 かなりの効果だ。この攻撃ならいけそうだ。

 暗黒8本首の火球と違い、僕らの炎は少しの時間なら放出を続けることが出来る。これはアドバンテージになるだろう。


 ---------------ニノ、この攻撃で一気にいこう!


《はい!》


 暗黒8本首へ尻尾の炎で攻勢をかける。


『キッシャアアアアアア!!!!』


 炎を浴びて苦しそうなのだが、暗黒8本首も火球を吐いて応戦してくる。火球の直撃を食らって僕らも苦しい。


 そして、今度は暗黒8本首が長い首と胴体で絡みついてきた。ギリギリと身体を締め付けられる。身体中がミシミシと軋み、とても苦しい。

 締め付け攻撃を耐えていると、暗黒8本首の頭部が目の前に来た。チャンスとばかりに今度は僕らが逆に噛み付いた。

 暗黒8本首は僕らの噛みつきに驚き、締め付けを解く。全身を使っての締め付け攻撃により暗黒8本首も体力を消耗したのか追撃には来ない。


 暗黒8本首との戦いは、持久戦の様相になってきた。

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