第33話 気になる結果は?

 2回目の応援演説は、初回よりも南部にある海岸で行われる。

 今回も多くの観衆が集まってきた。


 今回は最後の『グルグガガアアン!』(やめなさい)が、3回に変更されている。少し煽り文句を入れるらしい。


 その効果もあってか凄い盛り上がりとなった。

 多くの観衆が拍手して、自然とウェーブがおこっている。

 ボワットモワ大統領の勢いを感じる。この波に乗るしかない。いつもより多めに尻尾を振ってみる。


 ---------------前回以上に盛り上がってるね。


《はい。何だか楽しいですね》


 両陣営の激しい選挙戦が続く中、僕らの応援演説の効果も多少はあるのか、支持率は40:60とボワットモワ大統領が差を縮めた。



 ◇



 最後の応援演説の舞台は、北部にある首都ワゼリンからほど近い海岸だ。

 海岸には大きなモニターが設置され、僕らと暗黒ヤドカリの戦闘が放映されている。そのVTRでは僕らが凄くカッコいい巨大生物として編集されていた。


 ---------------ちょっと照れるぐらいカッコいいね。ヒーローっぽいよ。


《はい。素敵ですね》


 応援演説が終わったらファイン少尉にモフモフ島でも同じVTRを観ることができるように頼んでみよう。


 VTRを眺めながら応援演説の開始を大人しく待っていると、もう一人の候補者トムベーク氏が現れた。敵陣営が視察にきた。

 トムベーク氏がこちらをジッと見ている。


 ---------------トムベーク氏、目力が凄いな。


《ただの人間なのに迫力ありますね》


 さすが大統領候補者、ボワットモワ大統領に負けず劣らず人間力が凄い。僕らの方が何倍も大きいのに戦ったら負けそうな気すらしてしまう。


 すると、ファイン少尉からトムベーク氏へ挨拶するように指示がきた。

 よし、それでは渾身の挨拶をしよう。


『ゴガォォン!』(こんにちは)


 トムベーク氏はもの凄い目力でこちらを見た後、軽く笑みを浮かべて去っていった。

 僕らをライバルとして見てくれたのだろうか。敵ではあるが、迫力のあるカッコいい人だった。


 続いて本日の主役ボワットモワ大統領が登場し、演説が始まった。


「「「「うおおおおおお!!!」」」」


 大統領演説が終わり、大歓声に包まれる。


 続いて僕らの出番がやってくる。

 今回の応援演説では、尻尾から炎を出すように言われている。

 ファイン少尉から合図がきた。よし、ここだ。


 ---------------尻尾の炎、弱!


《はい》


 ボワワワワっと観衆の皆さんが怖がらない程度の炎を出す。


「「「「おおおおおお!!!!」」」」


 炎という分かり易いパフォーマンスの受けは良かった。

 炎に併せて巨大生物好き政治家さんが暗黒ヤドカリ戦の話をして観衆を盛り上げている。

 僕らの出番これで終わりだ。まずまず上手くできたと思う。


 最後の首都圏での応援演説も大成功。

 あとは選挙結果を待つだけだ。



 ◇



 大統領選挙の投票が終わり、開票が始まった。

 僕らはモフモフ島に設置されたモニターで開票速報を視聴する。

 今までこれほど選挙を一生懸命に見たことはない。


 ---------------自分のことのようだね。どうなるかなぁ。


《ドキドキしますね》


 開票が進む。

 西海岸側は有利と予想されていたトムベーク氏がリードする。

 中央はボワットモワ大統領、トムベーク氏ともに互角。

 僕らが応援に行った東海岸側はボワットモワ大統領がリードする。


 全体としては互角の様相だ。


 ---------------頑張れ、ボワットモワ大統領!


《きっといけますよ》


 最後は首都ワゼリンがある地域だ。ここで勝利すればボワットモワ大統領の再選だ。


 ---------------おおお、首都ワゼリン地区でボワットモワ大統領が圧勝だ。


《わあ、良かった。嬉しいですね》


 これで巨大生物を殲滅するという政策はないだろう。


 翌日、ファイン少尉とノックス中尉から連絡がきた。

 今まで通りモフモフ島にいて大丈夫とのこと。

「巨大生物防衛軍の予算が減りそうだから相棒パウンド、頼むぞ!」と言いながらノックス中尉が笑っていた。

 期待に応えられるように頑張らないと。



 ◇



 大統領選挙が無事に終わり、僕らはモフモフ島でのんびりと過ごしていた。たまにファイン少尉から指令があり、大陸へ近づいてきたエビ型やカニ型などの巨大生物を追い払う任務をこなす。

 大統領選挙の期間中は不安も多かったが、やっと平和な日々が戻ってきた。


 ---------------平和だねぇ。任務がないとゴロゴロしてしまうね。


《ちょっとは動きましょうよ》


 ファイン少尉からの指令がないと、ついついダラダラしてしまう。

 そしてニノに注意される。

「腑抜けた旦那ですまんね」などと思うが、別にニノは嫁じゃない。

 だけど嫁だとしたら、影で支えてくれる出来た嫁だなと妄想をしていると、突然、島に警報が鳴り響く。


 慌ててモニターを見ると、険しい表情のファイン少尉が映し出される。

 何かあったのか。


「パウンドさん、聞いて下さい。同盟国であるジャピア王国の近海に黒い瘴気を纏った巨大生物が確認されました。洋上艦で案内するので向かってもらえますか?」


 なんだって?! また黒い瘴気を纏った巨大生物が現れたのか!

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