第18話 災厄?
夜明け前のバージリアビーチに、巨大な卵が鎮座している。黒色でゴツゴツとした殻をしている巨大な卵が一つ、軍隊のライトに照らされ暗闇に浮かび上がっている。
卵と周辺とのスケール感が違い過ぎ、異様な光景である。
卵の周囲は立ち入り禁止区域に指定され、軍隊に囲まれ厳重に警備されていた。その警備の中にノックス中尉とファイン少尉など、情報部のメンバーも含まれていた。
「デカい卵だな。ファイン少尉、この卵はパウンドと関係はあるのか?」
「断定は出来ませんが、関係は無いと思います。質感が南海の火山帯に棲息するデルタ・スリーの殻にそっくりです」
「ああ、あのヤドカリ型のか」
「はい。一見しただけなので、まだ関係があるかは分かりませんが。司令部はどうするつもりなんでしょうか。ノックス中尉はご存知ですか?」
「卵が孵化する前に移動させたいようだが、これだけの質量ではな。すぐには難しいだろうよ。我々、情報部としてはどんな作戦にも対応出来るように、様々なデータを収集するだけだ」
「そうですね。後ほどベルーガ大佐もこちらへいらっしゃるようです」
「そうだったな。それまでに出来ることをやっておこう」
ノックス中尉、ファイン少尉それぞれのチームが作業に取り掛かる。
◇
巨大な卵が漂着した浜辺から数百キロも離れた海の中。
豪雨を降らせた低気圧は去り、朝日が昇り水中にも日の光が届いてくる。深海ではなく久しぶりに元の棲家で迎える朝だ。
---------------おはよう。今日は久々に人間に挨拶しに行こうか。
《おはようございます。挨拶、行きましょう》
時間がかかるため、さっそく大陸へ向かって泳ぎ始める。
---------------久しぶりだね。何日ぶりだろう?
《ずっと深海にいたので、分からなくなっちゃいましたね》
---------------今日は巨大ミサイル、来ないといいけど。
《そうですね。あれはちょっと嫌ですね》
---------------何があっても良いように、体力は温存していこう。
《はい。たくさん休んだので、体力は満タンですよ》
スイスイと泳いでいき、いつも潜水艦に探知されるポイントまで来たのだが、今日は何事も起きない。人間は僕らが巨大ミサイルで死んだと思っているのかな。ところがどっこい、こちらは元気いっぱいです。
何事も無いのは幸いと大陸へ向けて、僕らは軽快に進んで行く。結局、今まで一番楽に大陸付近へ到着した。
---------------今日は何事もなくて平和だね。
《そうですね。まだ全然疲れていませんよ》
フラグのようなことを言ってしまった。
◇
洋上艦が砂浜方面に多いので、その少し北側の浅瀬で上半身を起こし海上へ頭を出してみた。
陸上の様子を見てみると、砂浜の方に軍隊がいて、その他にもたくさんの人々が集まっている。それもそのはず、砂浜に巨大な卵が鎮座している!
---------------何あれ? でっかい卵?
《……はい。卵みたいですね》
---------------もしかして僕らの同族とか?
《たぶん違うと思います》
最初にニノが同族の卵があると言っていたから、そうなのかと思ったけど違うのか。
---------------何の卵かわかる?
《今まで見たことがないので、分かりません》
種族はわからないにしろ、巨大生物の卵には違いないだろう。
卵のことは気になるけど、よくよく思えば僕らには全然関係のないことだ。あまり注目されていないのは残念だけど、僕らとしては目的の挨拶をしなくては。
---------------注目されてないけど、挨拶しておこうか。
《はい。そうですね》
『ゴガォォン!』(こんにちは)
僕らの挨拶を聞いて、卵に夢中だった人間の皆さんが全員こちらを向いた。
《注目されましたね》
---------------注目というか、大パニックになっているね。
取り込み中に邪魔してしまったようで、申し訳ない。
人間にしたら卵だけでも厄介なのにもう一匹、巨大生物が現れたら、それは当然、困るよね。仕方なく尻尾を振って誤魔化してみる。
---------------なんか気まずいね。帰る?
《せっかく来たので、もう少し居たいです》
---------------そっか。じゃあ、珍しいし、卵でも眺めていようか。
所在なさげに、うろうろと歩きながら卵を眺めていた。
人間も混乱しているようで、僕らに攻撃をしてこない。
しばらく眺めていると、卵に変化が現れた。何やら、ブルッブルッと振動している。人間たちはそれを見て、卵の周囲から離れていく。
---------------もしかして生まれるのかな?
《そうかもしれませんね。初めて見ます》
---------------良いタイミングに来たね。
卵の下部の殻が少し割れ、頭部と手脚が出てきた。これは火山島で見たヤドカリ型?
なるほど、卵の殻がそのまま本来のヤドカリでいう貝殻部分の代わりになるということか。
しかし、火山島で見たものとは、どことなく雰囲気が違っている。
赤く光る眼、全身から発する黒い瘴気。
何か禍々しいオーラが伝わってくる。
---------------えっ? 何あいつ? 怖いんだけど。
《あれは悪いモノです。育ちきる前に倒さないと》
ニノの表情が険しくなった。
◇
卵から孵ったモノを見て、防衛軍にも動揺が広がっていた。
「どうしたファイン少尉?」
「ノックス中尉にも黒い瘴気が見えますか? あの目に見える程の黒い瘴気‥‥‥もしかしたら、オメガ級かもしれません」
「オメガ級だって? まさか過去に一度だけ現れたという災厄か」
「はい。中尉も知っての通り何十年も前のことで、私も軍のレポート以上のことは殆ど分かりませんが‥‥‥」
「その推測が当たっていたら、大惨事になるぞ」
◇
オメガ級:影響度は不明
通常の巨大生物とは一線を画す。人類を含め他の生物を殺戮する。
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