第19話 どうしようもない?
卵の状態から岩のような殻を破り、頭部と手脚が現れた。火山島にいたヤドカリ型に形状は似ているが、まとっているオーラが全く違う。
『ギッギギイイイイイ』
黒い瘴気を放つ巨大ヤドカリが恐ろしい音を発した。ゆっくりと地上へ上がり黒い瘴気を放ちながら、海岸線を這いずっている。這いずった後は、黒い瘴気により腐っているようだ。
人々がたくさんいる街へ向かって一直線に進んでいる。襲う気だろうか。黒い瘴気を放つ巨大ヤドカリに気がついた人々が逃げ惑っている。軍隊の面々は、一生懸命に避難誘導を行っている。
この状況で僕らまで近づいたら、余計にパニックになりそうだ。
---------------倒した方がいいってことだけど、人間の避難が終わるまで見守るよ。
《はい。わかりました》
軽々に飛び出して暗黒ヤドカリを倒してたとしても、人間からしたら巨大生物が争っただけで被害拡大。人間が避難する前に戦って、僕らのせいで余計に人が死んでしまったら本末転倒だ。
それにしてもニノが緊張しているということは、相当ヤバいヤツなんだろう。孵化したばかりで、火山島で見た巨大ヤドカリよりは少し小さい気がするけれど、雰囲気が異様だし。黒い瘴気を身に纏って、まるで暗黒ヤドカリと言った様相だ。
僕らと同じ巨大生物である暗黒ヤドカリによって人間たちが凄く困っている。避難が終わるまで見守るだけでなく、僕らに何か出来ることはないのだろうか。
そこで僕は思いついた。僕らが暗黒ヤドカリの注意を引いて、浅瀬へ誘き出して人間をサポートするとしよう。
ここは僕らの十八番である挨拶の出番だろう。
---------------ニノ、挨拶するよ!
《えっ?! 今、挨拶ですか?》
---------------そう、暗黒ヤドカリの注意をひくんだ!
《はい!》
『ゴガォォン!』(こんにちは)
どうだ? こっちに来い! 同じ巨大生物だ、気になるだろう!
しかし、予想に反して暗黒ヤドカリは、こちらをチラリとも見ない。
《‥‥‥無視されましたね》
---------------そうだね。
くそう、今日は人間だけでなく、暗黒ヤドカリにも相手にされないのか。なんて日だ。
挨拶も虚しく、しばらく眺めていると、人間たちの攻撃が始まった。
頑張れ、人間。失礼なヤドカリ野郎を倒すんだ。
見慣れたミサイル攻撃、ソフトボールクラスの衝撃の攻撃だ。続いて爆撃も始まった。相変わらずもの凄い物量だ。容赦がない。
暗黒ヤドカリの周囲が爆煙に包まれる。やったか?!
爆煙が風に流され、暗黒ヤドカリの姿が見えてくる。無傷のようだ。再び人の多い街の方へと向かい進み始めた。
あれだけ爆撃したということは、あの周辺の人々の避難は完了したとみて良いだろう。ついに僕らの出番がきたようだ。
《そろそろ行きますか?》
---------------そうだね。倒すとしよう。
僕らは満を辞して、暗黒ヤドカリへ歩みを進める。
ジリジリと距離が詰まる。しかし、攻撃を開始するその前に。
『ゴガォォン!』(こんにちは)
まずは先ほど無視された挨拶からだ。怒りの二度目の挨拶だ。
『ギッギギイイイイイ!!!』
今度は反応した。この距離では無視できまい。
これで挨拶勝負はこちらの勝ちだ。
しかし、今の挨拶を威嚇と思われたのか、完全に敵として認識されたようだ。とても怖い。
暗黒ヤドカリは、怒り狂って足下の岩を蹴り上げ大地を揺るがし、突進してきた。そのままの勢いで体当たりを食らい、ゴロンゴロンと吹き飛ばされた。なんてパワーだ。
僕らが暗黒ヤドカリに吹き飛ばされた先は、軍隊の指揮所のような場所だった。もう一回転もしていたら、たくさんの軍人の皆さんを押し潰すところだ。
押し潰されそうになった軍人の皆さんが、こちらを睨みつけている。大変申し訳ない。
《挨拶の時によく見かけた人がいますよ。危なかったですね》
---------------本当だ。よく見つけたね。
海岸に挨拶をしに通っていた時、テキパキと作業をしている姿を何度も見かけた軍人のお姉さんがいる。
今も車に何か積み込んでいるようだけど、それよりも早く逃げて欲しい。
『ギッギギイイイイイ!!!』
僕らに向けて威嚇のつもりか、挨拶のお返しか、暗黒ヤドカリは雄叫びのような音を発して地面を蹴り上げた。
巨大な岩がいくつも蹴り上げられ、こちらへ向かって飛んでくる。そのうちの一つが軍人のお姉さんたちの車へ向かっている。
僕らは咄嗟に起き上がり、岩からお姉さんたちを庇おうと上半身を突き出した。ニノと共に全身に集中する。脚を踏ん張り身体をグッと伸ばす。間に合うか?!
ガンッ!!ガラガラッ!!
僕らの頭部に巨大な岩がぶつかった。なんとか間に合った!
見たところ、お姉さんたちに怪我は無さそうだ。前世では母娘を助けようとして失敗して死んだけど、今回はかすり傷の一つもない。
人間にとっては巨大な岩でも今の僕にとっては小石のようなもの。なんてたって巨大生物。
他の軍人の皆さんにも被害はなく、お姉さんたちは何かを言うと車を走らせ去っていった。何を言ったのかは分からないが、とにかく無事で何よりだ。
そして、僕らは再び暗黒ヤドカリと対峙する。先ほどの体当たりで思ったのだが、僕らに倒せるのだろうか。
--------------ところでニノ、最初に『倒さないと』って言ってたけど、僕らなら倒せるんだよね?
《勝ち負けは分かりません》
えっ?! そうなの?! 少し苦戦するけど倒せるぐらいの相手なのかと思ってた。
---------------ニノに何か作戦はあるのかな?
《ありません。お任せします》
そっかあ、ニノはいい子だな。自分の身はどうなっても、暗黒ヤドカリを倒す! そういう覚悟だったのか。
なるほど遅ればせながら、状況が理解できた。大ピンチだ。出来ることなら、暗黒ヤドカリを倒した上で僕らも助かりたい。
まずは尻尾で暗黒ヤドカリを叩きつけてみるが、効果なし。続いて尻尾の炎を浴びせてみる。これは表面が少し少し黒ずんだだけ。体当たりをしてみるが、びくともしない。
僕らは反対にハサミのついた巨大な腕でぶん殴られる。鈍器で殴られたような衝撃だ。僕らは暗黒ヤドカリの凄いプレッシャーにズルズルと後退りしてしまう。
これは強い。黒い瘴気は見た目だけのハッタリではないようだ。ニノにお任せされたが、どうしたらいい?
ツノで攻撃してみたいが、硬い殻に対しては効果が薄そうだ。相手の頭部を攻撃したいけど、下部にあるので届きそうもない。
考えているうちに、暗黒ヤドカリが突進してきた。今度は油断せず受け止めることができたが、ものすごい圧力だ。
暗黒ヤドカリは6本の脚でしっかりと踏ん張り、ハサミのついた巨大な両腕を使い、ベアハッグの要領で締め上げてくる。
身体がミシミシいっている。圧倒的なパワーで攻めてくる。
---------------ニノ、大丈夫?
《なんとか大丈夫ですけど、苦しいです》
ニノが見るからに辛そうな表情だ。この状態を長く続けてはいけない。
頭が下部にあるなら前蹴りはどうだろう。短い足だが、頑張って蹴ってみる。効いてくれ。
暗黒ヤドカリは僕らの蹴りを嫌がったのか、締め上げていた両腕の力が弱まった。もう一度、前蹴りを繰り出し、僕らは何とか暗黒ヤドカリの両腕を振り解く。
何とか振り解くことには成功したが、どうやらスピード、パワー共に相手が一枚上手のようだ。
《どうしましょうか?》
黒い瘴気をまとった暗黒ヤドカリ、強すぎる。孵化したばかりでこの強さとは、どうしようもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます