第17話 進化?
ふらふらと海流に流されて、かなり北の方まで来たようだ。
凄まじい威力のミサイルだったが、アザにムチウチといった程度のダメージで済んでいた。もっとも直撃していたら、どうなっていただろう。
どうやら身体中に力を入れると防御力が上がるのだが、その分ごっそりと体力が減ってしまった。それに炎を出すのも疲れるので、最大火力と併せて完全に体力が残っていない。早いところ体力を回復したいのだけれど、この辺りは食糧になる巨大生物が見つからない。仕方がないので、今は深海の底で休んで少しずつ体力を回復している。
---------------もう動けそう?
《はい。もう大丈夫です》
---------------凄いミサイルだったね。
《びっくりしました》
---------------まあでもそんなにダメージも無かったし良かったよ。
《そうですね。でも人類が強くなっている気がしました》
---------------科学は進歩するからね。いつか倒されちゃうかもしれないね。
《いえ、それは大丈夫ですよ。危なくなれば私たちも進化しますから》
---------------えっ?! なんだって?! 僕らって進化するの?!
久々に驚きの発言だ。さらっと凄いことを言った。まだまだ、この身体には秘密があるようだ。
---------------どんな風に?
《それは分かりません。前回は人類に困っていたら、新しい第一の脳〈あるじ〉が来ました》
なにーーー?! そうだったのか?!
今頃になって、そんなことを言い出すとは。想像もしなかったから、質問したことはないけども。
というとなんだ? 僕は対人類用の進化だったということなのか。
それで僕は役に立っているのだろうか?! いやいや、本当に信用できるのか、その進化機能は。
--------------なんで僕なの?
《分かりません。勝手に来ました》
ニノさん、もうちょっと言い方に気を遣って。
《進化したばかりなので、しばらくは進化しないと思いますよ》
---------------そうなんだ。まあ次にどんな進化をするのか楽しみにしておこう。
《はい。楽しみです》
進化するという驚きと共に『勝手に来た』という発言にショックを受けつつ、食事をしに東の海溝へ向かうことにした。
ニノの発言により、僕は巨大ミサイルのことなどすっかり忘れた。
◇
真っ暗な東の海溝。
万が一を考えて元の棲家には戻らず、海溝の底で過ごしていた。ここはカニやエビが食べ放題で体力が完全に戻るのに、それほど時間はかからなかった。
《私はもう元気ですよ。また挨拶しに行きますか?》
ニノは元気があり余っているようだ。
しかし。
---------------そうだねぇ。またそろそろ行こうかねぇ。
と言うだけで、完全に体力が回復しているのは分かっているのだが、グダグタしていた。
軍人のお姉さんたちに何も伝わっていないのが、ショックで少しやる気をなくしているのだ。とはいえ、最初から気長に進めるつもりだったので、こんにちは作戦を止めるつもりはなく、明日から本気を出す! と思ってはいるのだが、深海にいると真っ暗なので、いつまで経っても明日にならない。これではダメだ。
----------------ちょっと海面まで浮上しようか!
《はい。いいですね!》
海面に浮上するが、真っ暗な夜で大暴れの天候だった。
---------------真っ暗だし、豪雨だね。
《‥‥‥そうですね》
二人ともすっかりテンションが下がったが、本当に明日から本気を出そう。そう思って海溝の底には行かず、元の棲家に戻って寝ることにした。
◇
同じ頃、巨大生物防衛軍の情報部センター室にて。
モニターを眺めながら、ノックス中尉がファイン少尉へ話しかける。
「あれからパウンド現れないな。巨大生物用に開発していた新型のミサイルだったからな。あの威力、余程のバカじゃなければ忘れたりはしないだろうが」
「そうですね。あれから2週間ですか。でも死骸は見つかってないんですよね?」
「ああ、まだ見つかっていない。ファイン少尉はパウンドに生きていて欲しいのか?」
「そういうわけではないんですけど。変わった行動をする巨大生物だなと思って観察していたので」
「確かに少し変わっていたな。哨戒機から見ていても不思議に思っていた。結局、あれだけ頻繁に現れたのに被害はゼロだしな」
「そうなんですよ。人間を襲う気があるようには見えませんでした」
「じゃあ、何しに来てたんだ?」
「何かを伝えたいんじゃないかな、と」
「巨大生物がか? いやいや、それはないだろう」
「でも場面毎に鳴き声が違う気がして、音声データを分析していたんですよ。もう少しサンプルと時間があれば良かったんですけど」
「ベルーガ大佐へは報告したのか?」
「途中経過でしたが、もちろん報告しましたよ。あの新型ミサイル攻撃の前日に大佐も海岸まで確認に来てくれましたし」
「でも攻撃は止まらなかったか。まあ俺はあの攻撃が間違っていたとは思わんよ。結果、あれからパウンドは現れていないんだしな」
「私も仕方ないと思っています。あれだけ頻繁に街に近づくんですから、それだけで脅威ですよ」
「ははっ、ファイン少尉も仕方ないと思っていたのか。あの攻撃に怒っているのかと思っていたよ。巨大生物が大好きだからな」
「私だって国民を守る軍人ですよ」
「でも巨大生物を一番近くで観察出来るから、軍人になったんだろう?」
「あんまりからかわないで下さい。怒りますよ」
「悪い、悪い。お詫びに今度、バムダ諸島の調査についてくるか。毛玉のアルファ・スリー見たいだろう?」
「え! いいんですか! 絶対に行きます。大佐の許可、ちゃんと取って下さいよ」
「OK。約束するよ。やっぱり巨大生物が大好きじゃないか」
パウンド騒動がひと段落し、和やかな雰囲気のセンター室に新たな入電が届く。
『バージリアビーチに巨大な卵が漂着しました!』
「なんだと?!」
「え?! 卵?!」
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