第15話 先は長い?

 大陸は遠い。棲家に戻るとすっかり夜だ。


---------------疲れたね。


《……はい。久々にたくさん泳いで、とても疲れました》


 棲家についてホッとしたのか、見るからにニノが疲れている。泳いでいる時は元気そうに見えたのに。


---------------大丈夫?


《寝たいです》


 遠足にでも行った子供か? と思わなくもないが、全力を出し切ってくれた結果だ。感謝しかない。

 というわけで、今日はもう寝ることにする。


---------------おやすみ。


《おやすみなさい》


 すぐに眠りについたはずなのだが。あれ? 目が覚めてしまった?

 ニノを見ると。


《すぅ〜、すぅ〜》


 レム睡眠きたーーーー!!!

 ニノ、凄く疲れていたからな。僕も疲れてはいたけど、それ以上に人間に会って興奮していたし。これはレム睡眠のパターン。


 失礼ながらマジマジと眺めてしまう。可愛いが過ぎる。もちろん起きている時も可愛いのだが、寝ているニノはレアだからな。眺めているだけでも全然、飽きない。


 そういえばニノは「楽しかった」と言っていた。

 僕は楽しかったとは正確に言うと少し違う気もするけれど、初めての人間とのコミュニケーション。ビーチの人々には逃げられて、その上に爆撃されただけなのだが、目的を持って行動した充実感は確かにある。

 こんにちは作戦が上手くいくとは限らないし不安も多いけど、ニノと一緒なら大丈夫、そんな気がする。


 そして、こんにちは作戦を実行するとレム睡眠、つまりニノの寝姿というご褒美が待っている。ニノは楽しいと言っているし、僕にはご褒美が。

 この作戦は、たとえ失敗したとしても誰も損をしないのではないか。想定外に素晴らしい作戦だ。


 どうでも良いことを考えていたら眠くなってきた。ニノの寝顔を眺めて幸せな気分で眠るとしよう。





 水平線から朝日が顔を出し、優しい日差しが海面を照らす。一日が始まる時間、初めて挨拶をしに行ってから四日後の朝。

 今日もニノが先に起きている。


---------------おはよう。


《起きましたね。おはようございます》


---------------疲れは取れた?


《はい。ばっちりです》


 すっかり体力も戻ったし、ニノも元気そうだ。


 今日は再び人間のところへ挨拶しに行こうと思っている。毎日、大陸との往復は困難なので、数日に一度ということにした。大陸へ往復すると凄く疲れるので、行った翌日は食事を摂る。さらに1日、2日のんびり休養してから再び挨拶に行く。こんな予定だ。

 前回は初回ということもあり、2日間の休養を取った。


 大陸は遠いので、朝早くに出発する。体力を温存するために程々のスピードを維持して泳ぎ続ける。


 おおよそ中間地点となるモフモフ島付近を通過する。ここから先は特に人間に注意しなければ。


『ピキィーーーーン!』


 さっそく前回と同様に人工的な音が聞こえてきた。

 人工的な音に続いて。


ドシュッ! ドシュッ! ゴボオオオオオォォォ!!


 前回には無かった音が聞こえてきた。

 何かを発射したような音だ。遠いし暗くて見えないが、状況的には魚雷だろうか。今まで一度も見かけたことはないけど、潜水艦がいても不思議ではない。


---------------周囲に注意して。


《はい》


 少し迷った末、どうせ見つかっているんだと思いツノを点灯する。

 周囲が明るくなり、前方に水泡が見えた。魚雷のようだ。地上でのミサイルに比べたら随分と遅い。

 その上、僕らは水中でなら素早く動ける。向かってくる魚雷を颯爽とかわす。遠方で再び発射音がし、魚雷が迫ってくるが、僕らは余裕で回避する。


---------------やはり水中だと人間の攻撃も怖くないね。


《余裕ですね》


 潜水艦も諦めたのか、それ以上の攻撃はしてこなかった。引き際の判断が早い。





 初回と同じ場所へ向かったのだが、今回は大艦隊に待ち伏せされていた。

 僕らは大量の魚雷と爆雷に襲われる。水中に爆音が響き爆圧で水面が激しく波立つが、水中なら脅威ではない。

 多少は被弾してしまうが、適当にスイスイ泳いでいるだけでも大抵の攻撃は回避できる。それに被弾したところでピンポン玉が当たった程度のダメージだ。


 攻撃をかわしつつ、艦隊から距離を取り、南側の海岸へと向かう。

 砂浜が続く海岸線。前回と違い観光客の姿が全く見えない。緊急事態宣言でも出ているのだろうか。夏の書き入れ時なのに申し訳ない。


 ザバアアアア! と波しぶきをあげ上半身を起こし、浅瀬に立つ。

 今日は人が少ないけども仕方ない。まずは渾身の挨拶だ。


『ゴガォォン!』(こんにちは)


 しかし。

 上空からは爆撃機が爆弾をばら撒かれる。艦隊からはミサイルが飛来してくる。挨拶など伝わるわけもなく、猛攻撃を受けてしまう。イメトレ通りに出来る限り尻尾で防御をしつつ、遺憾の意。


『グガオオオオン!」(やめなさい)


 お構いなしにミサイル攻撃、爆撃が続いている。前回より数倍激しい攻撃だ。


《なんだか今日は攻撃が激しいですね》


---------------そうだね。帰ろっか?


《はい。帰りましょう》


 人間たちは待ち構えて攻撃を仕掛けてきた。頑張って泳いできたけど、本日は早々に撤収することにする。

 こんにちは作戦、先は長そうだ。





 ちなみに。

 この日の夜も早めに眠ったのだが、レム睡眠は発生しなかった。一度の遠征でスタミナ配分を覚えたようだ。さすがはニノ。

 しかし、寝姿が眺められないなどと残念がってはいけない。ニノの負荷が減ったことを喜ばなくては。


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