第14話 反応は?
今日も発声練習。優しく発音。
顔を合わせた時のご挨拶『ゴガォォン!』(こんにちは)
感謝の気持ち『ピヤアアアン!』(ありがとう)
遺憾の意『グルグガガアアン!』(やめなさい)
練習を繰り返し、だんだんと言い慣れてきた。とはいえ、この挨拶が簡単に伝わるとは思えないので、気長に頑張ることにする。
---------------人間はどこ行けばいるのかな? やっぱり西の大陸かな?
《そうですね。たくさんいると思います》
たくさん人がいるのか。人前で話をするの苦手だし緊張する。
もっとも話といっても『ゴガォォン!』だけれども。
◇
僕らの気持ちを伝えるために落ち着いて挨拶をしたいのだけれど、僕らが近づくと爆撃やミサイル攻撃をされるに違いない。その対策をしておこう。
---------------人間の攻撃を尻尾で防ごうと思うんだけど、出来るかな?
《たぶん出来ると思います》
---------------炎を使ったり、たたき落としたりして撃墜率50%を目標にしよう。
《わかりました。頑張りましょう》
ニノとの連携強化を目的として、イメージトレーニングを開始する。前回、攻撃された時のことを思い出す。
---------------上、爆撃!
《強火!》
--------------さらに爆弾二つ、頭上を守って!
《はい!》
---------------周囲からミサイル複数、頭を振ってかわす!
《はい!》
しかし、動きが遅いので避けられる気がしない。どうしても被弾するイメージが湧いてしまう。
---------------ミサイルがたくさん来たらどうしようもないね。
《そうですね。困りました》
---------------出来るだけ避けて、あとは尻尾で弾こうか。
《はい。分かりました》
---------------頭に連発を食らわないようにだけ気をつけよう。
《はい。頭をしっかり守ります》
---------------ニノも何か問題があったらすぐに伝えてね。
《わかりました》
---------------危なかったらすぐ撤退しよう。
《はい。安全第一ですよね》
---------------そうそう。
◇
発声練習完了!
イメージトレーニング完了!
いよいよ人間にご挨拶する時がきた。ご挨拶といっても怖い意味の方じゃない、本当に丁寧なご挨拶。本来なら菓子折りでも持って行きたいところなのだが、残念ながら準備はできない。仕方なく諦める。
---------------じゃあ行ってみようか。
《はい。大陸は遠いです。頑張りましょう》
大陸までは、かなり距離がある。行って帰るだけでも一日仕事だ。
途中にあるモフモフ島に寄ってモフモフたちの様子を確認したいが、グッと我慢して一直線に大陸へ向かう。
◇
モフモフ島よりさらに西までやって来た。大陸へはあと少し。
警戒されていると思うので慎重に進む、その時だった。
『ピキィーーーーン!』
人工的な音が聞こえた。これは探信音かな? 人間に見つかった気がする。
---------------気をつけよう。
《はい。変わった音でしたね》
警戒するが、何も見当たらないし攻撃もない。それならば、ここで引き返しても作戦が進展しないので、一気に加速して大陸へと向かう。
人工音が聞こえた後、しばらく泳ぐが人間の気配を感じない。いよいよ泳ぐことが出来ない深さになってきたので、状態を起こして立ち上がる。
海岸まであと1kmもないだろう。この世界に来て人間の住む場所までの再接近だ。緊張する。
都会に近づいてしまうと攻撃が激しそうなので、出来るだけ郊外が良いのだが、どうだろう? ジワジワと歩き陸地へ接近するが、上陸する気はないので立ち止まって周りを見渡す。幸い大きな都市は無さそうだ。
綺麗な景観、観光地だろうか。少し南に見える砂浜は海水浴場? たくさんの人がいる。
---------------めっちゃ人がいるね。
《こっちを見てますね》
上空に一つ機影も発見。これだけギャラリーがいれば十分だ。初回にして理想的な環境だ。
それでは挨拶してみよう。
『ゴガォォン!』(こんにちは)
浜辺の人間たちの反応はどうだ?!
もの凄く驚いている。一目散に逃げ出した。まあそうなるよね。
蜘蛛の子を散らすとは、まさにこのことか。
---------------皆、居なくなっちゃったね。
《なんででしょうね。残念です》
構わず尻尾を振ってみる。自分では可愛い子犬のように振っているつもりなのだが、どうだろうか。
◇
パウンドの上空を舞う哨戒機には、ノックス中尉が搭乗していた。
パウンドを発見したノックス中尉は、情報部センター室へ通信を行う。
「こちらノックス中尉だ。バージリアビーチ東北東、約1000mにパウンド発見。映像を送る」
「了解です。ノックス中尉」
哨戒機は引き続き監視をするため、上空を旋回している。
「潜水艦からの通信があって哨戒していたのに、こんなに大陸まで接近されてしまうとは。クソっ!」
「ゆっくり陸に向かっているが……マズイ! 上陸する気か。いや、立ち止まったぞ。ビーチの人間を見てやがる」
パウンドが雄叫びをあげる。
『ゴガォォン!』
「あいつめ、人間を見て威嚇しやがった。なんて荒っぽいヤツだ」
パウンドが尻尾を振る。
「尻尾まで振って煽ってやがる。ご自慢の炎で人間を襲う気か」
パウンドは尻尾を振ったまま、その場を動かない。
「……うん? 尻尾を振ったままその場から動かないな。今のうちだ。攻撃部隊、急いでくれ!」
ノックス中尉の報告を受け、最寄りのラングール基地から爆撃機がスクランブル発進した。
◇
『ゴガォォン!』(こんにちは)
尻尾をフリフリ。
よし、こんなところだろう。僕らが怖くないことが、人間に伝わったかな。良い挨拶ができたと思う。上出来だ。
---------------良い挨拶ができたね。
《はい。練習通りに出来ました》
---------------攻撃もないし、感謝の気持ちを伝えよう。
《はい。そうしましょう》
『ピヤアアアン!』(ありがとう)
そして尻尾を振る。バイバイという挨拶のつもりだ。
しかし、ご機嫌で帰ろうとしたところで上空に爆撃機を発見した。やはり来てしまったようだ。
前回同様、頭を目がけて爆弾が降ってくる。
---------------イメトレの成果を発揮するよ!
《はい!》
しかし、実際にやってみると距離感が難しい。ガンガン直撃し、さっぱり迎撃できていない。
---------------イメトレのようにはいかないね。当たると痛いし。
《思ったようにいきませんね。難しいです》
もっとも爆撃機の数も少なく前回ほどの総攻撃という感じではないので、ちょうど良い実戦練習だ。しばらく対応していると調子が出てきた。
《炎を出すタイミングが掴めてきました》
---------------うん、慣れてきたね。
そうだ、ここで爆撃に対して遺憾の意。
『グガオオオオン!」(やめなさい)
さらに尻尾を上下に叩きつける。
しかし当然、伝わる訳もなく爆撃は続く。再び遺憾の意。
『グガオオオオン!」(やめなさい)
遺憾の意を示しつつ、のそのそと歩き、胸まで海水に浸かる深さまで戻って来た。攻撃されているし、後は泳いで帰るとしよう。
◇
---------------挨拶、3つとも使えたね。
《はい。ばっちり上手く出来ました》
---------------緊張したし疲れたね。
《疲れましたけど、挨拶するの楽しかったですね》
---------------ん? 楽しかったの?
《はい。楽しくなかったですか?》
---------------楽しかった、かも。
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