第11話 殺すかも?
アルティア共和国、巨大生物防衛軍。海上には第二波攻撃を受け持ったミサイル巡洋艦など多数の艦艇が次の作戦行動に向け待機している。
さらにその後方には空母を中心に数隻の艦艇が控えていた。
◇
僕らは撤退すると見せかけて泳げる深度まで移動、そこから海中を全速力で泳ぎ艦隊中央を目指す。
途中、魚雷攻撃を仕掛けられるが、海中なら問題はない。余裕をもって回避する。
そして、艦隊中央の真下に移動したら、一気に浮上。浮上の際に艦艇に体当たりして、まず一隻目を撃沈する。続けて近くにいる艦艇を尻尾で叩きつけて2隻目を撃沈する。
敵は同士討ちを恐れて無闇な攻撃はしてこない。僕らはノーダメージだ。後は体当たりと尻尾で順番に撃沈していく。
……まあこんなところだろうか。
何隻いようが、海中にいる僕らに有効な攻撃手段はないだろう。
ニノの言う通りどれだけいても余裕だろうな。何隻いるのか正確には分からないが、それでも30分もあれば全滅させることが出来るだろう。
海岸まで移動を開始する。今日に限って海まで少し距離があるところにいる。
少しぼーっとするので頭を振った。僕らの状態を監視するかの様に飛行機が一機、上空を旋回している。攻撃はしてこないだろうか。とにかく海へ急ごう。
---------------ちょっと走ろうか。
《はい。急ぎましょう》
ドスウゥゥン! ドスウゥゥン!
足音だけは大きいが、走ったところで大して早いわけではない。
歩いても同じなのではと思うほど時間はかかったが、人間にとってはダメージがないように見えただろう。
幸いなことに攻撃は再開されず、腰が海水に浸かる深さまでたどり着いた。ここまでこれば泳ぐことが出来る。泳ぎ始めてしまえば、一気に艦隊の真下へ潜り込めるはず。
よしやるか。
いよいよ指示を出そうと思ったその瞬間、ニノが視界に入ってきた。
戦闘が始まった当初はいつも通り平然としていたはずなのに、今はキッとした目で艦隊を睨んでいる。
初めてみる表情だが、ニノも怒っているのだろうか。どうしたんだろう。珍しい。
いつもと違うニノに気を取られたことと、海に戻れた安心感で少しだけ周りをみる余裕が出来た。
僕は『ふう』と一呼吸つき、ニノと少し話をしてみることにした。
---------------怒っているの?
《はい。もちろんです》
やはり怒っていたのか。ニノが怒るとは珍しいけど、何も言わずにじっと堪えている。どんな状況になっても僕が指示をしない限り、ニノが勝手に攻撃することはない。
始めは平気そうだったのに、ニノは何に対して怒っているのか。
---------------なんで?
《頭ばかり攻撃してくるのは酷いです》
もしかして、第一の
---------------そっか。あの艦隊、沈めたい?
《第一の脳〈あるじ〉の指示に従います》
そうだった。僕は元人間で今は第一の脳。最善を思考して指示を出すのが僕の役目だ。殺意を向けられたことが怖くて、完全に思考が止まっていた。
僕が指示すればたくさんの人間が死ぬ。
僕はニノに指示するだけだと思って、人間を殺してしまうという気持ちが薄れていたのかもしれない。人間を殺すことをニノに押し付けようとしていたのかもしれない。
ここで僕が怒りにまかせて攻撃するのは違うと思う。僕らは人間と友好的に暮らしたいのだ。
そして、僕は自分自身へ言い聞かせるように言う。
--------------手を出したらダメだから。
《わかりました》
--------------こんなことになって、ごめんね。
《いえ、前に嫌われた私が悪いんです》
---------------戻ろうか。
《はい》
僕らは攻撃を踏みとどまった。
◇
僕らは洋上艦隊へ背を向け、深海へ向けて泳ぎ始めた。洋上艦隊が追跡してくる気配はない。人間も深追いはして来ないようだ。
それなら早くいつもの棲家へ戻るとしよう。
---------------さっきはニノのお陰で冷静になれたよ。
《そうなんですか》
---------------いや、本当に危なかった。
《それは良かったです???》
---------------モフモフたちは大丈夫かな?
《頑丈だし心配いりませんよ》
---------------それならいいけど。ニノも大丈夫だよね?
《はい。何も問題ありません》
◇
ニノとの話も程々に水中を全速力で泳ぎ、なんとか無事にいつもの棲家に到着した。
大変な目にあったが、ここに人間が現れることはないと思いたい。
---------------なんとか帰って来られたね。
《はい。一安心ですね》
今日は反省することも考えることも多い。しかし、さすがに疲れたので、さっさと寝たい。色々と考えるのは明日の仕事だ。
---------------ニノ、おやすみ。
《おやすみなさい》
◇
程なく眠りについたはずなのだが、僕はすぐに目が覚めてしまった。
大変なことがあったし、やはりまだ興奮状態なのか。ぐっすりとは眠れない。
《すぅ〜、すぅ〜》
あれれ?! ニノが寝ている!
ぐっすりと眠っている。初めて見た。これは貴重だ。横向きになって、少し丸くなって眠っている。
スヤァ
‥‥‥‥あー可愛い。
いかん、マジマジと眺めてしまった。しかし、この可愛さなら眺めてしまうのも仕方がない。そう、仕方がないのだ。
‥‥‥‥あー可愛い。
なんだか僕だけすっかり目が覚めてしまったな。
なんだ? これは、あれか。レム睡眠というやつだろうか。身体は寝ているけど、脳は覚醒しているという状態。いや、ニノも第二の脳だけど、身体担当で疲れたのかな。ゆっくりと休んで欲しい。
今日はニノに助けられた。今日だけではなく、いつも助けられているか。ニノが現れた時からずっと。
それにしても今日のことは反省しなければ。
危うく人間を攻撃して殺してしまうところだった。僕らだって生きるためにエビやタコなんかを襲っている訳だし、人間も生息圏を守るために攻撃してきているのだろう。
モフモフたちだけの時はあの島へ攻撃していないようだったから、無差別に攻撃をするような人たちではないはずだ。
僕らが人間にとって脅威と思われていることをなんとかすれば、攻撃されないのではないだろうか。
しかし、なんとかってなんだ? どんな方法がある?
《すぅ〜、すぅ〜》
ニノ、良く眠っているな。
この姿を見れば攻撃する人間なんていないと思う。といっても、この姿を見せることなど出来るわけない。この可愛い寝顔は僕だけの独り占め。
僕もそろそろ眠くなってきた。
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