第9話 駆除される?

 大陸にある超大国、アルティア共和国。

 その超大国の巨大生物防衛軍司令部が置かれた軍事施設に情報部センター室がある。

 その情報部センター室が一つの入電により緊迫した空気となった。


「哨戒機より入電。バムダ諸島にデルタ・ワン確認とのこと。上空からの映像が送られてきます」


 入電を聞いた情報部のノックス中尉は驚く。ノックス中尉は、まだ若いが兵学校卒業の優秀な軍人だ。


「何? デルタ・ワンだと。ドラゴン型のやつか。バムダ諸島といえば毛玉のアルファ・スリーがいるところだろう。何をしてるんだ?」


「送られてきた映像を見る限りアルファ・ツー、カニ型の残骸が見えます。争った後ではないでしょうか。炎を出して暴れたようです。現在も尻尾から炎を出しています」


「なんだと、やはりデルタ級は危険だな。引き続き哨戒機に情報を取集させろ。ヤツは目がいい。見つからないように注意しろよ。それからベルーガ大佐へ報告だ」





 巨大生物は、人類への影響度を基準にランク分けされている。

 そしてランク毎に発見した順番にワン、ツー、スリーと呼ばれている。


 アルファ級:影響度は小

 人類を避けるため被害はない。通常兵器で対処が可能。


 ベータ級:影響度は中

 人類の生活圏の進出はないが、接近した場合は危険性あり。通常兵器で対処が可能。


 ガンマ級:影響度は大

 人類の生活圏へ進出の危険性あり。通常兵器で対処が可能。


 デルタ級:影響度は特大

 人類の生活圏へ進出の可能性あり。通常兵器での対処が困難。





 一時間後、巨大生物防衛軍司令部の作戦室。

 巨大生物防衛軍の佐官が集まっている中、情報部ベルーガ大佐からバムダ諸島の状況が報告される。

 それを聞いた他の佐官たちは口々に呟いた。


「まさかまたヤツが現れるとは」

「さっそく炎を出して暴れるとはな」

「デルタ級とは厄介だな」


 緊張感の漂う中、司令部フォーリア長官がベルーガ大佐へ確認する。


「前回のデルタ・ワンと同一個体なのか?」


「はい。体格、皮膚の模様、ツノの形状がデルタ・ワンの中でも『パウンド』と呼称した個体と一致します。パウンドが最後に現れたのは約半年前、それ以来の出現となります。前回は東海岸から上陸し約60分間におよび地上で活動、地上部隊と航空部隊との交戦により動きが鈍くなり海へ撤退していきました」


「そうだったな。街への侵入を防ぎ被害は最小限で済んだ。しかし今回はどうなるか分からない。各セクションから何か報告はあるか」


 それぞれ陸上部隊、海上部隊、航空部隊、情報部から意見や懸念事項が述べられる。その結果、即時の攻撃は無謀と判断。

 本土へ上陸させないことを最優先とし防衛ラインを構築、パウンドの動向を確認した後に駆除作戦を行うこととなった。


「以上だな。司令部は情報部と連携し駆除作戦の立案を行うように。只今より第2種防衛体制に移行する」


 フォーリア長官が締めくくり会議は終了した。





 情報部センター室へベルーガ大佐が戻る。

 部屋には数十人の情報部所属の軍人が待機している。皆、愛国心のあるエリート軍人である。


「皆、聞いてくれ。知っての通りパウンドがバムダ諸島に現れた。これにより第2種防衛体制に移行、パウンドへの対処を優先事項とする。ノックス中尉、お前のチームは海上部隊および航空部隊と連携して哨戒任務へあたれ。情報を収集してこい」


「了解であります、大佐。あんな危険なヤツを野放しには出来ませんよ」


 ベルーガ大佐の指示を聞き、ノックス中尉が返事をする。

 続いて、情報部の分析官である若い女性、ファイン少尉へ向けてベルーガ大佐から指示が発せられる。


「ファイン少尉のチームは、パウンドの分析を最優先で頼む」


「了解しました。パウンドの分析を最優先で行います。大佐、しかし私はパウンドがあまり危険だとは思えないのですが」


 そこへノックス中尉が口を挟む。


「ファイン少尉は巨大生物が大好きだからな」


「ノックス中尉は黙ってて下さい」


 ノックス中尉の茶々が入ったが、ベルーガ大佐は落ち着いてファイン少尉へ回答する。


「確かに結果的に被害は少ないが、憶測で作戦は立てられんし、先入観は良くない。どうすれば上陸されないかだ。ファイン少尉の分析力には期待している」


「はい。ベルーガ大佐」


「当面、パウンドへの対処は、ノックス中尉とファイン少尉のチームを中心に行う。他の者は別命あるまで通常任務を継続。以上だ!」





 翌日早朝、高高度の上空からノックス中尉が搭乗する哨戒機がパウンドを監視していた。


「パウンドめ、呑気に寝ているな。人間など眼中にないか。ムカつく巨大生物ヤツめ。それにしてもなぜヤツは毛玉のアルファ・スリーに囲まれているんだ」


 パウンドが目を覚まし動き出す姿をノックス中尉は上空から確認する。


「動き始めたか。生意気にあくびなんかしやがって。む、海へ向かうぞ。まだ防衛体制が整っていない、間違っても大陸へは向かうなよ」


 パウンドは一旦、海に入った後、すぐに地上に戻ってきた。


「何だ今のは? おちょくっているのか。まあ大陸へ向かわなくて良かった。またアルファ・スリーに囲まれて動かなくなったぞ」


 しばらくすると、パウンドが再び動き出す。


「今度はカニ型のアルファ・ツーの残骸を集めて何をしてるんだ? 残骸を海へ引きずり込んだぞ。俺には全く理解できん。分析はファイン少尉に任せるしかないな」


 パウンドは悠々と深海へ潜っていく。


「海中へ移動したか。ソノブイ投下。出来る限り情報を収集するぞ」


 この後も哨戒チームによるパウンドの監視が続く。





 情報が収集されるにつけ、情報部を中心とした監視継続派と、地上部隊及び航空部隊を中心とした即時攻撃派が形勢されていった。

 どちらの言い分にも理はあるが、最終的な司令部の判断は即時攻撃となる。二つの派閥に分かれていたが、司令部の判断が下れば作戦に最善を尽くす優秀な軍隊だ。一斉に準備に取り掛かる。

 司令部による駆除作戦が立案される。


 パウンドの海中での最高スピードは80ノット以上あり攻撃が困難。

 そのため地上に現れた時に一斉攻撃を行う。

 パウンドは三日に一度、晴れの日のみバムダ諸島に上陸する。

 そこを狙って航空部隊から爆撃による第一波攻撃。

 続いて洋上艦隊からのミサイルによる第二波攻撃。

 前回上陸時の状況から頭部への攻撃が有効と推測。

 攻撃目標はパウンド頭部。

 第三波攻撃はパウンドのダメージ状況次第とする。

 殺処分が困難と判断した場合は本土への上陸阻止を優先する。


 駆除作戦を決行するという報告を聞いたノックス中尉は気合いを入れ直す。監視の継続を期待していたファイン少尉は残念そうである。





「パウンド駆除作戦、状況を開始する」


 フォーリア長官が命令を下し、パウンドの上陸が予測されるバムダ諸島へ向け、攻撃部隊が展開された。

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