第6話 探索する?
朝日が海面を照らし、水中も徐々に明るくなっていく。日の光を受け、目を覚ましたが、まだぼーっとしている。
なんだかんだで疲れていて、ぐっすりと眠っていたようだ。
ここどこだっけ? 周りを見渡し、掘った横穴で寝ていたことを思い出す。こんな場所でぐっすり眠れるとは、意外に僕は適応力があったのか。
◇
さて、今日からは周辺の探索をしたいと思う。
他の巨大生物も気になるけど、一番注意しないといけないのは人間かな。ニノによると、敵として認知されているらしいし。
見つかるとどうなるのかな。
---------------人間に見つかると、どうなるの?
《襲われます》
やっぱりそうなんだ。怖いな、人間。
---------------なんで襲われるようになっちゃったの?
《陸上を歩いていたら襲われました》
散歩でもしていたのかな。
先代の第一の脳の記憶は消えてしまったらしく分からない所もあるけれど、ニノと話をしている限り交戦的とは思えない。
ただ巨大過ぎて普通に生活してるつもりでも人類に対して相当な被害を出してしまうのだろう。
昨日、穴掘るだけでもアレだったし。あんなことを人間が住む街でやったら大惨事になること間違いなし。
--------------ちなみにどんな風に襲われるの?
《爆撃やミサイルが多いです》
えっ? 爆撃? ミサイル?
そんな激しいやつなのか、それは怖いな。
なんとなく中世ぐらいなのかと勝手に思っていたが、剣と魔法のファンタジー世界ではないようだ。聞いておいて良かった。
人間と仲良く出来ないか? なんて少し期待してしまったけれど、今の話を聞いてしまうと厳しく感じる。
人間に危害は加えたくないし、ひっそりと暮らした方が良さそうなのかな。とにかく人間と争わず平和に暮らしたい。
かと言ってこの穴にずっと引き篭もる気もないから、人間に気をつけて周囲を探索してみるとしよう。
せっかく良い感じの穴を掘ったことだし、ここを中心として考えようかな。まずはあっちの方の深くなっている方へ行ってみよう。太陽の位置からすると東になるのかな。
深海に人間はいないだろうから、他の巨大生物に注意した方が良さそうだ。
ちょっと怖いけど、危なそうなら退散しよう。方針は元日本人らしく専守防衛。
ニノに考えを伝えて準備完了、探索開始だ。
もっとも探索と言うほど大層なものではなく、実際にはこの世界の観光のようなもの。ニノは一度行ったところは、ほぼ正確に記憶しているとのことだ。既にこの周辺の海域については詳しいらしい。
なので目的地さえ伝えれば、そこへ行くことは簡単と言うわけだ。
だけど今の僕にはこの世界の知識がないので、目的地を伝えることが出来ない。ということで、僕が周辺地域を覚えて目的地を言えるようになることが、今回の探索の趣旨となる。
---------------ニノ、頼りにしてるよ
《任せて下さい。東の海はバッチリです》
---------------じゃあ、向こうの深い方へ出発!
《はい! 行きますよ》
グンッと身体を東へ向け、僕らは一気に加速した。
ニノと一緒に集中して身体を自在に動かす訓練も同時並行していこう。
少し東へ進むと切り立った崖になっている。その先は真っ暗闇だ。海溝だろうか、急激に水深が深くなっている。
---------------この暗闇には、巨大生物はいるのかな?
《そうですね。エビみたいのがよくいますね》
巨大エビか。遭遇したいような、したくないような。
気合を入れて崖の先の暗闇へ飛び込み、身体をくねらせグングンと底に向かって進んでいく。
随分と深くまで潜ったが、水圧にも負けず全く苦しさを感じない。結局、何の問題もなく海底に到達した。丈夫な身体だ。
僕らは視力検査をしたら10.0ぐらいはありそうな程に視力は良いのだが、ここは真っ暗闇なので周りの様子がわからない。
困っていたその時、ニノが話しかけてきた。
《よく見えないですよね。明るくしますか?》
---------------え? 明るくできるの?
《はい。真ん中のツノが光ります》
なんと! ツノが光る!
深海に来ることが出来るのに視界がないと困るからか。ツノが光るように進化するとはなかなかやるな。至れり尽くせりのこの身体に隙はないのか。
さっそくツノを光らせてみる。
ランタンのようにパーッと周囲を明るく照らし、辺りを見渡すことができるようになった。砂が堆積していて深海に砂浜が広がっているようだ。
しばらく海溝の底を散歩してみよう。底砂がふかふかした感触で歩くのも悪くない。のんびり歩いていると深海魚が明かりに惹かれて寄ってくる。ということは、この明かりを見つけた巨大生物が近寄ってくることもあるのだろうか。
とはいえ、真っ暗ではどうしようもないので、光を消すことはしたくない。近寄って来たら、それはその時に考えよう。
◇
しばらく何事もなく歩いていると、砂底が少なくなりゴツゴツとした岩場が増えてきた。
ガサッゴゴゴゴゴッ
大きな岩の影から不穏な音が聞こえてくる。慎重に音のする方を覗いてみると、そこには巨大な何かが動いていた。
ついに他の巨大生物に遭遇か。
---------------何がいるか分かる?
《よく分かりませんが、心配はいりませんよ》
ビビっているのは僕だけだった。
底砂が舞い見にくいので、もう少しだけ近寄ってみる。すると、巨大な爪のようなものが確認できた。
ニノの言っていたエビではなく、カニのような巨大生物だ。色は白っぽく片方の爪だけが異様に大きくシオマネキを巨大化させたような姿の生物だ。
しかし、よくよく見れば僕の体長の1/3以下で、全く脅威を感じない。それどころか少し美味しそうに思えてくる。大きなカニ爪フライに、脚はしゃぶしゃぶ、カニ味噌はあまり好きではないな、などと思っていた。
そこへ、もう一つ巨大な影が突然現れた。その影はカニ型の巨大生物を襲い始めた。
襲っているのは巨大なエビのような生物だ。色は真っ赤で髭が長く、特徴的な2本のとても長い腕があり先には鋭い爪がついている。
テナガエビを大きくしたような姿の巨大生物だ。カニ型の巨大生物より一回り大きい。
僕らは、少し距離をとって、2匹の争いを遠巻きに眺める。
----------どっちが勝つと思う?
《そうですね。赤い方が勝つと思います》
白い方ではなく赤い方か。
赤いエビ型の巨大生物は、長い腕を生かしロングレンジ攻撃。それに対して白いカニ型の巨大生物は大きなハサミで応戦している。
一進一退が続いたがエビ型が長い腕を素早く動かし、カニ型の大きなハサミを根元から刈り落とした。これで勝負あり。
その後はエビ型の一方的な攻撃によりカニ型の巨大生物は動けなくなり、エビ型の巨大生物が勝利した。
初めて見る巨大生物の争いはド迫力だなと思っていたその刹那。
巨大なタコが現れて、哀れエビ型の巨大生物は一瞬で押し潰された。なんてことだ。
そして結局、カニ型とエビ型ともにタコ型の巨大生物に食べられてしまった。諸行無常。これがこの世界の生態系か。
はっ! よく見ると、このタコも赤い。
まさかニノは赤いタコが勝つのを予知していた?!
---------------タコも赤いけど、もしかしてタコが勝つと分かっていた?!
《そんなわけありません。最初は白いカニと赤いエビしかいませんでしたよ》
そっか。そうだよね。
さすがに予知能力があるわけではなく、野生の勘でもなかった。
---------------それで僕らはあの大ダコより強いんだよね?
《余裕です。襲って食べますか?》
結構強そうに見えたけど、あのレベルでも余裕なのか。僕らはかなり生態系の上位のようだ。
試しに戦ってみるか少し迷ったが、今は空腹感もないし無駄な殺生はしたくないので、今回は見送ることにした。
カニ、エビ、タコと意外にも食べるのに抵抗の無い姿で助かった。この海域に来れば食事には困ることはなさそうだ。ここに来たのはかなりの収穫だった。
そんなこんなで目的地として、海鮮お食事処を手に入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます