第5話 出来るようになる?

 ニノによると、他にも巨大生物がいるとのことだった。

 少し気持ちを整理して落ち着きたかったけど、他にも巨大生物がいることが分かった以上、のんびりとはしていられない。

 万が一襲われたら怖いし、周辺の探索もしておきたいし、安心出来る棲家も見つけたい。やりたいことは色々あるが何をするにしても、もっと上手く身体を動かせるようになる必要がある。


 今は一つ一つの動きの間に妙な間が空いている。さっきのようにニノと会話してる間なんかはぴくりとも動かず無防備だし。

 動きながら思考できるようにならなければ、これから困ることになるだろう。ニノに細かな指示を出さなくても、日常の動作ぐらいは出来るようになっておきたい。


 やり方をニノに尋ねてみたところイマイチ要領を得ない説明だったが、一通りは教えてもらった。

 ニノにとっては当たり前なので、なぜ僕が出来ないのかわからず説明に困ったのだろう。ニノの説明を要約すると、ニノを含めて身体との一体感が大事になる。


 ニノと一体になるイメージで身体の隅々まで集中する。身体にニノを介さず僕自身が指示を出す。それを無意識にできるようになるまで反復する。人間の時の自分の身体のように。


 ニノと一体になり身体に集中。

 僕自身が指示を出す。

 無意識に。


 ニノ、集中、指示、無意識。


 腕がピクッと動いた。次は脚がピクピクと動いている。側から見れば巨大生物が何故か痙攣して悶えているように見えるに違いない。もし他の巨大生物が見たら絶好の攻撃チャンスだと思うだろう。


 たまに尻尾がブルンと動いたりもする。巨大なだけに大波が発生してしまう。周りの生き物たちにとっては迷惑極まりないだろう。


 周辺に迷惑をかけながらどのくらいの時間、続けたのだろうか。そろそろ集中力がなくなってきた。


--------------ふうううう、できねぇぇぇ。


 元々僕は天才肌じゃないし、運動神経は並だしね?

 コツコツやるタイプだし、努力型っていうの?

 いや、キレ気味に開き直ってる場合じゃない。ローマは1日にして成らず。身体は1日にして馴染まず。


《うまくいきませんね。難しいですか?》


 心配そうにニノが尋ねてきた。


--------------大丈夫。今日は日も暮れてきたし、また明日から頑張るよ。


《私ももっと一体化できるように頑張ります》





 ということで、今日は休むことにする。

 安心して休むために他の巨大生物に見つかり難いような物陰を探すが、意外にも見つからない。

 良さそうな窪みがある! と思っても大抵の場合は小さ過ぎる。自分の巨体が恨めしい。


 そこで。

 狭いなら拡げればいいじゃない! ということで穴を掘ってみようと思う。ちょうど身体を動かす練習にもなる。しかし、4本指の手が小さくて掘れる気がしない。

 ニノに相談してみる。


---------------身体を収めることができるような横穴を掘りたいんだけど、出来る?


《出来ますよ。ツノで掘れます》


 はい、そっちね。ツノを使うとか元人間の第一感では思いつかない。


《掘りますか?》


 もちろん掘るようにお願いした。気軽にお願いしてしまったが、すぐにそれは過ちだったと後悔した。


ガシッ! ガシッ! ドガガガガ!


 凄い勢いで頭部にある3本のツノを岩場にぶち込んでいく。


 ちょっと待って! 怖い! 怖い! 怖い!


 頭がグラグラする。比喩ではなく目の前に火花と星が舞っている。こんなことで第一の脳が頭部にあることを確信するとは。


 周りから見たら物凄い光景だったに違いない。巨大生物が身動き一つしない状態からの突然のヘッドバンキング。岩場へ頭部にあるツノをガンガンぶつけていく。

 一つが数メートルはある砕けた岩がいくつも周囲に飛び散り、海中に爆音が響いている。

 隠れるつもりが、目立ち過ぎている。しかし、この姿を見て襲おうなどと考える生物はいないと思うので、それは良い。

 ガシッ! ガシッ! とリズム良くヘッドバンキングを続け、みるみる穴が大きくなっていく。


 ツノも頭部も丈夫で痛くはないのだが、頭が揺れ過ぎて気持ち悪くなってきた頃、やっと動きが止まるのだった。


《穴掘り、終わりました》


 助かった。何とか穴掘りが完了したようだ。ニノを見ると表情一つ変えず、一仕事終えた感を出している。

 そして、目の前にはいい感じの穴が出来ている。


---------------あ、ありがとう。


 なんと言っていいのか考えることもできず、僕はお礼を言っていた。


《どういたしまして。穴掘りは得意です》


 ニノがなんとなく満足そうに見える。穴掘りが好きなのかな。

 それにしてもこれから先この行動に付いていかなければいけないのか。ニノと一体となり自在に身体を動かすことが出来る日は本当にくるのだろうか。一抹の不安を覚えるのだった。

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