第4話 どんな生態?

 僕は第二の脳を〈ニノ〉と命名した。脳内イメージは、銀色の長い髪を持つ少女。端正に整った顔立ちで白い肌に青い瞳。小柄でシックな服をなびかせている。

 そんな少女であるニノが邪魔にならないように気遣いながら、視界の中に入ってくる。そのため僕は常にニノの存在を認識することが出来ている。

 始めは第一の脳である僕の想像でしかなかったのだけれど、銀髪の少女の姿がニノ自身にもすっかり定着したようだ。

 もう僕にもイメージの変更をすることは、簡単には出来そうもない。もっとも変更する気もないけれど。

 最初は『第一の脳〈あるじ〉の想像ですよ?』と素っ気なかったが、姿が定着したということはニノも気に入ってくれたということかな。

 それなら嬉しいのだけれど。


 それにしても最初にリアルな脳みそなんかを想像しなくて本当に良かった。常に視界の中に脳みそが浮かんでいたら嫌すぎる。

 美少女バンザイ。


 もっとも実際の僕らの姿は人間ではなく、全長100mを超えるであろう巨大生物なんだけれども。





 穏やかな海がどこまでも続いている。海鳥が空を舞っている。青い空に白い雲に強い日差し。

 しばらくの間、薄暗い海の底にいたので、とても眩しく感じる。だがそれが良い。


---------------ニノも日光は好き?


《はい。明るいのは好きです》


 巨大生物でも太陽の光は大事だな。ずっと暗闇にいたら憂鬱にもなる。

 巨大生物になってもそれは同じだ。日差しを浴びながら、のんびりとした時間が過ぎてゆく。

 日差しを浴びて気温もかなり高そうだが、特別に暑いとは感じない。熱中症とは無縁の身体だ。

 海面に顔を出してプカプカ浮いていると、気持ちが良くて眠ってしまいそうになる。


 眠くなるのは睡眠欲だったかな。人間の三大欲求といえば『睡眠欲、性欲、食欲』だ。正体不明の巨大生物にも同じようにあるのだろうか。


 今も眠くなっていることから『睡眠欲』はあると思う。

 むしろいくらでも眠れる気さえする。寝る子は育つ。実際にとっても大きく立派に育っている。


 次に『性欲』はどうなんだろう?

 今のところは全く感じる気配はないけれど、性別がないからないのかな。

 ニノに聞きたい気もするが、銀髪の美少女に『性欲ある?』と聞いてはダメだろう。確実に通報されて逮捕だよ。誰にだかわからないが。


 まあニノなら無表情で『性欲ありますよ』とか言うのかな。

 モジモジしながら『性欲ありますよ』これもいいな。

 ちょっと怒って『そんなこと聞かないで』

 イタズラっぽく笑って『わかんなーい』

 じっと見つめてきて『試してみる』


 色々なニノを見てみたい。無駄な思考が止まらなくなってきた。これはいけない。こんな妄想、ニノに伝わってはいないだろうな。そろそろ自重しなければ。

 性別がないのだから、性欲もないと思っておこう。


 最後に『食欲』はどうなんだ。

 ありそうな気はするけれど、今まで一度も空腹感を感じたことがない。こんなに大きな身体なんだから相当食べないと維持できない気がするのだが。なんらかのエネルギー補給は必要なはず。

 よし、これはニノに聞いてみよう。


---------------ずっと空腹感がないんだけど、食事しなくても大丈夫なのかな?


《たまに他の巨大生物を食べるだけで大丈夫です。たくさん動くとお腹空きますよ》


 他の巨大生物だって? サラッと不穏な単語が入っている。


---------------他にも巨大生物がいるの?


《色々いますよ》


 同族がいないだけで、他にも巨大生物はいるんだな。それを襲って食べないといけないのか。まさに弱肉強食。

 ちょっと、まて。それより僕らが襲われて食べられることもあるということか。


---------------僕らが襲われることもあるのかな?


《大丈夫です。今まで襲われたことはありません》


 セーーーフ! 強くて良かった。

 もしかして最初しばらく動けない時は危なかったのだろうか。今になって怖くなってきた。でも過ぎたことだからヨシとしよう。

 とにかくこれからもずっと襲われませんように。この言い方は良くないか。まるでフラグみたいだ。


 この辺りにも食べられる巨大生物とかいるのだろうか。空腹になった時のためにも確認しておかないと。どうせなら美味しいものが良いのだけれど。

 食べる気満々みたいで少しアグレッシブな質問になってしまうが、聞いてみよう。


---------------この辺りに美味しい巨大生物はいるの?


《この辺りだと大ダコです。柔らかいですよ》


 大タコがお勧めか。意外にまともだ。大ダコなら食べられそうな気がしてきた。vs大ダコに勝たないといけないが、ニノからすれば余裕なんだろう。僕が足を引っ張らなければ。


 食事はとても不安ではあるけれど、少しだけ楽しみだ。上手くいけば日々の生活に彩りが出てくるかも。空腹になったら対処しよう。

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