第10話 友情

騒動から1日経った今日も、クラスは何か騒がしい感じがした。山王さんを許さない大きな派閥ができたり、俺や真玲を擁護する派閥ができたり……


 そんな中、今日の授業は全然頭に入らないまま、時間だけが過ぎていった。放課後、山王さんと真玲がまた相まみえることで何が起きるのか。大きな不安の中に少し期待を抱いたりした。


 



 そんな中、帰りのホームルームが終わると、佐生や飯野がまた気を使ってくれたり、話したことのない女子からも話しかけられたりした。一躍時の人に。


「委員長! 今日俺、部活ないから帰ろうぜ」

 と飯野にも誘われたが、


「悪い。まだ昨日のことで忙しくてな」

 と少し濁して断った。まぁ、まだ真玲との関係も公にはしてないし。


「わかった、頑張れよ!」

 と飯野は明るく言ってくれた。いい奴だな。


 すると今度は篠崎さんが。


「昨日は大丈夫だった? ごめん何もできなくて……」

 

「大丈夫だよ。平気平気」

 クリーンヒットを貰った男が言うセリフではない気もするが。


「ほんと、助かった。えと、かっこよかったよ」

 と物凄くかわいかったが、


「いやいや、そんなことないよ」

 と、なんとか冷静さを保って返事できた、ボクエライ。てか、女性からのかっこいいは、容姿とかじゃなくて、行動をほめているときもあるから注意だぞ。


「えと、今日も何かあるの? 私も委員長だし手伝うよ」


「いやいや、大丈夫だよ」


「大丈夫だって、任せて」

 篠崎さんは昨日のことを引きづっているのかもしれない。それなら。


「ほんと大丈夫。今日は手伝ってくれる人他にいるし」

 俺は篠崎さんに真玲のことを伝えようと思った。篠崎さんなら、きっと大丈夫だろう。


「それって野山君? でも今日は先帰ってたけど」

 ちなみに太には事前に話していた。スマホのアプリで夜、メッセージでやり取りしてたけど、急に強キャラになってしまったでござる! 置いてかないでくれでござる! と怒涛のスタンプ連打にうんざりして途中で寝ちゃったけど。おかげで、朝なんか半ギレしてたし。


「いや、太じゃなくて桐峰さんが手伝ってくれるというか」

 と、今日あること、仲良くなったことを簡単に説明した。


「じゃ、私も行く!」

 はい?






「なんで三人になってるんだ?」

 平加先生もそりゃ質問するよね。


「いや、篠崎さんも話したら行きたいということになりまして」

 真玲のことを話して、今日は大丈夫って伝えようと思ったんだが。


 すると、真玲が

「私たちのこと話したの?」

 と俺だけに聞こえる声で言った。


「まぁ、篠崎さんなら大丈夫かなって。長くなるから、オタクの件とかは一旦省いたけど」


「いろんな女に手を出すなんて罪な男だね」


「うるせぇ」




「遅くなってもいかんし、行くぞ。早く乗れ」

 俺は車に詳しくないけど、平加先生の車は、綺麗で、かっこいい白の車だった。


 俺が助手席に座り、篠崎さんと真玲は後部座席に座る。なんか変な視線を感じたのは気のせいだろう。

「大丈夫かな」

 と真玲がぼそり。緊張しているのだろう。


「私がついているから大丈夫だ」


「かっこいいですね、先生」


「こら、茶化すな」

 平加先生ともだいぶ親交が深まった。


「まぁ、やまりょうもいるし大丈夫でしょ」


「いやいや真玲さん? あなた期待しすぎじゃないですか? 知り合ったばかりの男に」

 そんな俺をあてにしないでくれよ。


「やまりょうとはアイドルみたいな呼び方で面白いな。桐峰の考案か?」


「はい! いい呼び方ですよね、先生!」

 やめろ、その呼び方を拡散するな! なんか恥ずかしい!


「そうだな。私も今度からそう呼ぼうか」

 平加先生? 嘘でしょ?


「頼むからやめてください」

 ほんと頼むから。


「2人ってそんな仲良かったんですか……?」

 篠崎さんが疑問に満ちた顔で質問した。まぁ、不思議に思うよね。


「仲良くなったのはたまたまだし、最近だけどね」


「お前ら2人は何かバディというか、良いコンビだな」

 傍から見てもそう見えるのだろうか。


「流石、先生分かってる!」

 真玲はとてもうれしそうだった。



 そうこう雑談してる間に到着。山王さんの家は、とてつもない立派な家だった。もはや城。これではほんとに女王だ。


 ここから入ると思われる門の前に一人の女性が立っていた。

「真凛の母です。この度は本当に私の娘がご迷惑をかけて申し訳ありません」

 やはり、美人さん。ちゃんと遺伝受け継いでるな……


「いえ、問題があったのはこちらも一緒ですから。」

 こう見ると、やっぱり立派な大人だな、平加先生。


「ごめんなさい。元々は私が喧嘩を始めようとしたのが、問題なんです。それでもう1回、真凛と話したくて」

 真玲も謝る。


「この3人が娘の同級生なんですね。昨日話は伺いましたけど……私の娘の責任でもあるので、そんなに抱えこまないでください。それで、娘、真凛なんですけど、昨日の夜から部屋に閉じこもってるんです」


「え!? 大丈夫なんですか?」

 篠崎さんが質問する。


「部屋の前に置いておいたご飯も食べていたし、ドアの前から話すと、一応返事してはしてくれます。まぁとりあえず中に」

 一応どうやら元気らしい。そして中に入ると、


「いったい、何部屋あるんだこれ。本当に城だ」

 こんな豪邸、おらはじめてだぁ!


「真凛のお父さんが凄い経営者だからね。今は海外に単身赴任らしいよ」

 何度か来たことがある真玲が説明してくれる。


「ひえっ」

恐ろしや。






「この部屋です」 

と、山王さんの母親が案内してくれた。そして


「先生が話しかけるより、この子たちのほうが適任だと思います」

と俺たちの目を見て言った。


「でも、一度喧嘩を起こしています。それでも大丈夫なんでしょうか?」

平加先生が俺らの気持ちを代弁してくれる。


「大丈夫だと思います。根はしっかりしてますから」


「わかりました。ここは任せてもいいな?」

俺ら3人はうなずいた。


「じゃあ、先生はこちらでお話を。みんな、娘をよろしくお願いします」


「任せてください!」

 真玲は力強く、明るく答えた。


「さて、どうするか」


「私が行くしかないよね」

 確かに一番関りがあるのは真玲だ。でもまだ、昨日の1件もあったし不安だが、どうやら考えがあるらしい。


「真凛? いるんでしょ? 私だよ。」

 真玲は優しく、話しかけた。

 

「なんであんたがいるの」

 ドア越しではあるが、返事はしてくれる。コミュニケーションは取れるみたいだ。


「仲直りしたくてさ。とりあえず、部屋から出てきてくれない?」


「絶対に嫌」

 やはり、そう簡単にはいかないか。


「じゃ、私以外だったら開けてくれる?」


「私以外?」


「ここに2人の委員長がいます。先生ももちろん来てます。どうせ問題になるなら今のうちに開けておけばって話なのです」


「……なんで」

 俺らが来たのが意味が分からない様子。その声は、怒りなどではなく、違う感情が入ってるように思えた。


 ここで、俺はあることを思い出していた。真玲がこの前、

「真凛は家に時々誘ってくれるけど、大きい庭とか、リビングとかで遊んだり、話したりするだけなんだよね。あんまり、自分からは誘わないし、部屋とか絶対に入れてくれないの」


 まさか、相棒、やる気か? 強引に行くつもりなのか?


「わかった、わかった。出るから下に降りてて」

 先生がいたことや、自宅であることなども相まって観念したようだ。


「絶対だよ?」

 と言いながら、真玲は、俺らにこそっと言った。


「ドアが開いたら強引に行くから」





「しつこいな。そう言ってるじゃん」

 山王さんは気づいていない。そういって、俺たちは降りたふりをして静かにドアが開くのを待った。


 ガチャっと鍵が開いた音が聞こえると、真玲が素早く動いた。


「は!? ちょっ、まっ」

 流石に焦った山王さん。

 

「ゴリラだからね。力は負けないよん」

 昨日の皮肉を言いながら、強引に部屋に入った


 誰も見たことのない女王の部屋。その全貌は意外なものだった。


「はっはーん。これが理由ってわけね」

 一言で言えば、女子らしい部屋。けどこれって……


「くっ、見るな! やめて! やめて!」

 確かに、これは恥ずかしいかも。


「凄い少女漫画の数……」

 篠崎さんがボソッと呟く。


「すごいな」

 真玲の部屋も凄かったけど、この部屋も十分凄い。ありとあらゆる少女漫画が本棚にあった。


「あんた、オタクを馬鹿にしてた割には結構オタクじゃん」

 そういって煽る真玲。


「死にたいの?」


「まぁ、真玲の話を聞いてやってくれ、山王さん」

 真玲は喧嘩しにきたんじゃない、仲直りをしに来たんだ。


「は? 委員長、真玲と仲良いの?」

 ここの委員長は、俺のことだろう。流石に予想外だったみたいだ。


「つい最近ね。やまりょうは相棒なのよ」


「それで? 何が言いたいの?」


「真凛に私の秘密言うよ。あ、篠崎さんもはじめて聞くんだっけ。やまりょうも聞いてて」

 俺らにも向けて話すらしい。


「何よ」

 流石に、真玲もオタクだとは思わないよな。


「あのね、私ね、超絶ウルトラミラクルメガパーフェクトオタクなの」


「は? てか形容詞意味不明だし」


「真凛に黙ってたけどね。私オタクなの。過去のトラウマから言えなかったの。やまりょうとは偶然オタクがバレて仲良くなったんだけどね。少女漫画好きだったのか~いいよね、恋愛。私もラブコメ大好きなんだよね。なかなか、佐生君と付き合えないから夢見たり。わかるよ、その気持ち。二次元に求めちゃうよね」


「これは仲直りのための嘘とかじゃなくて、ほんとだ。あと真玲、めっちゃ絵上手いぞ」

 俺も補足する。


 すると山王さんの目に涙が。


「やまりょうとも話してたけど、やっぱオタクって言いづらいじゃん? でも、今決めた! 私、明日から何も隠さない!」


「え、マジか!? でも、まだ隠したいって」

 まだ怖いから、しばらくは隠したいと言っていたのに。


「うん、今も怖いよ。それで関係を持つ子もいれば、関係がなくなる子もいるかもしれない。でもさ、やまりょうがいるし。真凛だっているじゃん。しのざ……桜だっている」

 今は仲間がいるから大丈夫、ってことか。山王さんに、篠崎さんも一緒になって仲良くしようと提案する真玲。


「私が先陣を切るからさ、真凛も停学期間終わったら堂々と学校来なよ。私が守るからさ。あ、でも1回はちゃんと謝ってよ」


「うん、うん、うん!」


「あはは、真凛。子供みたいになってるよ」


「まだ高校生は子供でしょ、うるさい」

 どうやら仲直り大成功、みたいだな。





「オタクトークしようよ。真凛のおすすめも知りたいし」

 真玲、ラブコメ好きだもんな。俺も少女漫画は未履修だから気になるな。


「私も、あんまり詳しくないからおすすめ教えてください」

 篠崎さんも興味津々な様子。



「私、気づいたんた。人生楽しまなきゃ損だって。価値観が合う人もいれば、合わない人もいるって。私は一歩踏み出したい、そう思えた」

 この1件も踏まえ、勇気を出してみようと思った真玲。


「馬鹿にされないかな?」

 山王さんが心配して尋ねる


「もう馬鹿にされてもいいじゃん。たとえ、敵が増えてもさ、このグループがあるじゃんってさ。

もう怖くない。だから、改めて友達になろ?」

 真玲は吹っ切れたみたいだ


「本当にいいの?」


「うん、許す!」


 一件落着だな。



 その後、少し皆でオタクトークをしたり、メッセージのやり取りをするグループを作ったりした。


 帰り。


「私がいるまでもなかったみたいだな」

 平加先生は、優しく微笑みながら、安心した様子だった


「ほぼほぼ真玲が解決しちゃいましたけどね」

 俺、いらなかったのでは?


「まさか、皆がオタクだとは思わなかったです!」

 篠崎さんも何も知らなかったからね。こうして、オタク沼に引きずり成功。


「桜~ごめんよ~」

 やっぱり距離感の詰め方凄いな、真玲は。


「篠崎さん、めっちゃ驚いてたよ」


「私ももう友達なんですから、桜って呼んでください! 私は……涼君って呼ぶから」


「お、おう」

 俺こういうの慣れてないんだよ! 恥ずかしいんだよ!


「やまりょうってこういうの慣れてないよね、にひひ」


「うるせ。人見知りなんだよ」

 そこ、黙ってなさい。


「若者の悩みは難しいな、本当に」

 確かに先生と生徒って、考え方とか少しずれているから難しいのかもしれない。

 

「先生もまだ若いですよ」

 先生だって、アラサーぐらいだったから、まぁぎり若者? 定義的にどうなんだろうね、そこら辺。


「そうか、そうだよな! まだ若いか!」

あ、平加先生、気にしてたんですね……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る