第9話 相棒vs女王

授業を無難にこなし、問題の放課後。週が明けても、スムーズにはいかないメンバー決め。てか、平加先生どこ行ったの? ねぇ? どうやら今日はなんか他学校に行くかなんかの用事で学校に来てないらしい。メンバー決めたら、メンバー表提出しといてくれ 急用ごめん って押し付けるなぁ! てかほんとに用事だよね? 今日締め切りなのに、生徒忘れてない? サボってないよね? ねぇねぇ????????


「どうする……? 山王さんの言う通りにする?」

 女子の委員長の篠崎さんも流石にお手上げの様子だ。


「でも、他の皆が納得しないならダメだからなぁ。平加先生に言いに行くか。て、今日はいないんだった。」

 どうすりゃいいんだ、これ。


 女王様こと山王さんは、

「私は、自主的に出場するのは、生徒会種目だけでいいでしょ? ね、征四郎?」

 と変わらない様子。


「でも、真凛は運動できるし、他の競技も出場したらいいだろ?」

 押せ! 佐生! いけ、いくんだ、いくんだせいしろぉぉぉぉ


「は? じゃ私と一緒なのは嫌ってわけ?」

 女王様はご立腹。


「いや? そういうわけじゃなくてな……」

 なんてこったいオーマイガー。俺は心の中で、大きく失望した。俺なら、うん。 嫌だよ! って言うのによ。優しすぎだろ佐生様。もはや王子様だよ。でも女王とは結ばれない模様。まぁでも正直言うと、佐生の立場なら勇気出ないんだろうけどさ、俺は。


 すると、真玲が近づいてきて、ボソッと俺にだけ聞こえるように言った。


「ごめん。揉めるかもしれないけどよろしく、やまりょう」

 と、チラッと見えた顔は、前に見た俺になにか期待しているような――


「真凛? いい加減やめない? 真凛はただ佐生君と親交深めたいだけでしょ? もっと周りをみてみなよ、この単細胞生物」

 いやマジか!? 喧嘩するつもりか、真玲。


「あ? 私に歯向かうの? 調子乗んなよ、このゴリラ」


「煽り方もあほだね、単細胞」

 女王に恐れない真玲。私がやらないといけないと、強い意志を持った顔をしている


「これ以上言ったら殴るぞ?」


「おっと怖い。ただ私は提案するだけだよ?」


「提案?」

 流石に怪しむ山王さん。山王さんって呼び方にしても王入ってるから強そうだねとかどうでもいいことは置いておいて。


「私が代わりに生徒会種目出てやるから、好きに他の競技出ていいよっていう事。ね、それでいいっしょ委員長?」


「まぁそれでもいいなら……」

 ってここで俺に振るか真玲。なかなかの鬼畜だね、あんた。


「いいわけないでしょ? 何、征四郎狙ってるの?」

 山王さんは引き下がらない。


「あんたと一緒にすんなっての。そうだなぁ、委員長いいよね? 一緒に出場してくれない? クラス代表として」


「まぁ、別にいいよ」

 なるほど、そういう作戦か。


「ちょっと、何勝手に進めてるのよ?」

 未だ納得のいかない山王さん。


「真凛、考えてみて? クラスのために頑張る委員長2人。他の人も協力してるし、私も頑張ってる。それとどっちが偉い?」

 ここで真玲がトドメの一撃。


「なぁ、2人とも落ち着けって」

 見かねた佐生が止めにはいるも、


「征四郎は私の味方よね?」


「いや、俺はどっちかというと……桐峰さんの味方かな」


「!」

 その山王さんの顔は、苛立ちや悲しみなどいろんな感情が混ざった表情だった。止めに入ったのが逆効果に。


「もう知らない。私は体育祭参加しないから」


「逃げるの? ダサい女ね」

 真玲はまだ追撃する。


「このクソおんなぁぁぁあぁ!」

 といよいよ我慢できずに叫んだ山王さんは真凛に殴りかかろうとする。


「やばい!」

 と俺は咄嗟に止めにかかった。佐生や俺の前の席に座っていて少し仲良くなった飯野も止めにかかった。


 ただ、俺がクリーンヒットをくらったのは、ダサかった。うん。ここで止めるのがかっこよいのにね


「あいつ女子なのに強すぎだろ」

 と、クリーンヒットをいただきまして、鼻血が出たので保健室に。


「すまなかった」

 平加先生は、どうやらちゃんと急用だったらしい。普通に仕事しててよかった。


「私は、過去の経験から生徒が主導して動くことを大事にしていた。けど、今回は甘く見ていた、すまん」

 平加先生も先生の信念があるようだ。


「なんでそんなイケてるおじさん風の言い方なんすか。平加先生って男っぽいですよね」

 見た目は美人なんですけどね。


「教師をからかうな。お前、見た目に反して面白いやつだな」


「人見知りって、心開いた奴には凄い喋るんで」

 真玲とか、太とか。別にしゃべるのが嫌いじゃない。しゃべり出すのが怖いだけ。


「私はな、教師は出しゃばらず、サポートするものだと思う。これは昔、私が失敗して思ったことだ。けど、静観したり、放任しすぎるのは良くなかったな」

 あくまでも主役は生徒。そんな風に思っていてくれたのか……めっちゃいい先生だ。


「まぁでも、自分でどうにかしたいとも思ってたんで。そういや、あの後どうなりました?」

 俺は、真玲との出会いや、せっかく委員長になったならと自分を変えられた。今となっては充実している高校生活。


 そして、その後の話。クリーンヒットの後、俺は保健室に行った。保健室の先生が対応してくれて、無事に処置完了。篠崎さんが、職員室に行くと、ちょうど仕事を片付けてきた平加先生とバッタリ遭遇。教頭先生や平加先生に事情を説明し、急いで教室に戻ると、山王さんと真玲が殴り合い寸前で抑えられていた。その後の教頭の説教などもあり、山王さんは3日の停学。真玲は反省文となった。そして、平加先生と話してる今に至る


 とりあえず、帰るため保健室を出て、平加先生と話しながら正門に向かう。


「すまんな。せっかくの青春を壊してしまって」

 本当に生徒を思っていてくれているんだろう。


「山王さんが落ち着くといいですけどね。このままだと可能性ないですかね」

 気持ちが入れ替わる可能性は、流石にないか。


「家庭訪問で話してみるが、口を開いてくれるかは本人次第かもな。まぁ、教師の責任ってやつだ」


 すると、門の近くに1人。

「先生、私も行ってはダメでしょうか?」

 真玲がいた。


「桐峰か。まだ帰ってなかったのか」


「そこの委員長待ってたんでね。あはは……」

 と苦笑い


「おっと、すまない。彼氏を奪ってたか」


「付き合ってないですよ、先生」

 俺が釣り合うわけないだろ! やめろ! 彼女いない俺にダメージが!


「まぁ私たち、共通の趣味持った友達というか、相棒?」


「相棒か。響き良いな。てか、俺も行きたいです。委員長だし」

 相棒か。良いな。そして、真玲が行くなら俺も行きたい。力になれるかはは不明だけど。相棒が助けようとしてくれたからね


「うーんそうだな。私もいるし、大丈夫だ。お前ら2人なら何か変えてそうな気がする。明日の放課後、教室に残っておいてくれ。部活などは大丈夫か?」


「「帰宅部なんで」」


「部活はやらないのか?」


「「趣味で忙しいので」」

 真玲が帰宅部なのは知っていたが理由まで一緒だったのね。オタクは皆同じ。


「そうか。それもまた青春だな。とりあえず、今日は帰りなさい。あと、桐峰は反省文1枚でいいから、ちゃんと書いておけよ。本当は5枚だったんだからな」


「ありがとうございます!」

 平加先生の見方が変わった1日だった。


 帰り道。


「待ってたのかよ」


「まぁね相棒、ごめんね、解決できなかった」

 律儀な奴め。


「いやいや。空気を切り開いたのは凄いと思う」


「そういってくれて助かるよ、流石委員長」


「そういや真玲って電車通学だったっけ?」


「そうそう。家が遠いからね。最寄り駅ないと、この学校通えなかったよ。やまりょうは家近いよね。今度行っていい?」

 やっぱ距離感えげつないっす。


「でも、俺実質一人暮らしに近いからくそ汚いけど」

 整理整頓できない系男子。


「うわ、それは襲われそうだね」


「流石にまだ人の気持ち残ってるよ」

 興奮はしますけどね、それは許してよ女性諸君。


「そういや、やまりょう帰宅部だったんだね」


「それは真玲もだろ。答えまで一緒じゃん」

 シンクロ率インフィニティだったし。


「まぁ日々忙しいしな」

 オタクは日々忙しい。


「分かる」


「そういや、太知らない?」

 すっかり忘れてたぜ、マイフレンド。


「スマホにメッセージ来てるんじゃない?」


「あ、そうか。色々あって見てなかったわ」

 色々起こりすぎて、見てなかった。ちゃんとメッセージ来てたわ。


「なんて?」

 真玲がのぞき込んてくる。


「わしには手が負えないドン。今日はもう一人の相棒のほうが良さそうなので、先帰るでごわす。仲良く2人でイチャイチャするぴょんね……だってさ」

 やめろ! なんでも恋愛に結び付けるな! 勘違いするのマジで男子のトラウマなんだからな!


「語尾豊富過ぎない? てかイチャイチャて」


「俺らは相棒だっけか?」


「そーそ。なんかオタクを精通してる者同士? というか」


「いいな、相棒って。なんか憧れてたわ」

 いいよな、互いに支える感じ。どこぞの3年B組の先生もにっこり。


「分かりみが深い。真凛にも見せつけちゃお」


「山王さんに言うのか?」

 それは意外だった。


「確かに嫌な奴だし、私とは合わないかもしれない。元々私が偽の私を演じようとして絡んだだけだからね。でも、可愛いし、いいところもあると思うんだ私は」

 おそらく真玲も違う自分から気づいたこともあるのだろう。


「そうか、わかった」


「ついてきてくれてありがとう、相棒」

 真玲は、相棒らしいことしようぜと手をグーにして差し出してきた。


「お互い様だよ、助けてくれてありがとう、相棒」

 そういって、俺は相棒とグータッチを交わした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る