にゃ王様、梅。

外から漂ってくる甘い香りにふすふすと鼻を動かす。

風が吹くたびにフルーティーなその香りが鼻腔をくすぐる。


『あれをとりに行くぞ!』

「あれって?」

『この香りの素にゃ』

「香り……ってもしかして梅のこと?」

『うめ?梅というのか、この香りは!』

「隣の家の庭に梅の木があるんだよね」

『早く取りに行くぞ!』 

「いやいやいや、人の家だからダメだって」

『我への献上を拒むのか』

「ダメなものはダメだって」


ぐぬぬ、と声を漏らす魔王様。その様を見た命は眉を下げて笑う。そしてそれに「でも……」と続けた。


「毎年お裾分けを貰ってるからもしかしたら今年もあるかもね」

『なに⁈本当か?』

「母さんに確認してみようか」

『行くぞ!』

「おー」


しょぼんとしていた姿はもうない。生き生きとした様子で大ジャンプをし開け放った扉の向こうで待つ魔王様。

その後を追いかけるように命もリビングへと行く。

そこにはダイニングテーブルで何か作業をしている香代子さんがいた。


「母さん、今年もお隣さんから梅って貰ったの?」

「えぇ、この間頂いたわよ。今梅干しと梅シロップを作ろうとしてたとろなの」

「よっしゃ」

「命も手伝って」

「はーい、ドラこれが梅な」

(『これが?あっちは緑だがこっちは黄色いぞ?』)

「んー、ねぇ母さんこっちの黄色い方が熟れたやつだよね。えーっとこれが梅干し用だっけ?」

「そうよ。緑の方が青梅で梅シロップ用ね」

「梅って生じゃ食べれなかったっけ?」

「うーん、完熟梅は生でも食べれるけど青梅は毒があるから無理ね」

(『お前たちは毒を喰らうのか⁈』)


コソコソと命に話しかける魔王様はソワソワと梅を食べたそうにしていた。

それに気付いた命は少しばかり悪戯心が沸き梅に毒があると魔王様に聞かせた。聞かされた魔王様は目が飛びでんばかりに驚いている。

その一方で命はスマホで何やら検索を掛けていた。


「そっかぁ。お、出て来た。へー猫も梅干しなら食べれるんだ」

「あら?そうなの?」

「うん、なんか塩分の取り過ぎに注意すればイケるらしい」

「あらら、お父さんといっしょね」

「まだ去年のって残ってたっけ?」

「それはもうないけど市販のやつならあるわよ」

「少しだけドラにあげてもいい?」

「いいわよ」

「よっしゃ、ドラー梅食うか?」


その言葉に「ニャーー‼︎」と瞬時に反応する。

目の前に置かれた皿には小さく切り取られた梅が置いてある。

魔王様はそれをそのままパクりと口に入れた。

その矢先、絶叫が響いた。


「フニャーー!」

「あらあら、そんなに酸っぱかったかしら」


魔王様は何も付着していない手で“うめ”と書くとパタリと倒れた。



♢♢♢次回予告♢♢♢

魔王様、そんな倒れるだなんて大袈裟な……

っえ?今度は高速で移動する鉄の塊が気になる?

車のことでしょうか?


next:魔王様、車。

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