にゃ王様、散歩。

青い空、白い雲。新緑の中に紫の花をちらす躑躅。


「行ってきまーす!」

「うむ、行ってくるがよい」


スクールバックを片手に家を出る命。それを確認した魔王様は窓に近付く。そして後ろ足で力強く蹴り出し跳んだ!

跳ぶとともに狙いを定めた前足が振り下ろされる。

カチャ、という軽い音とともに窓のロックが解除された。


「こんなもの我にしてみれば赤子の手を捻るようなものよ!」


「フハハハハ!」と魔王様の高笑いが響く。まぁ、実際にはにゃーと鳴いているのわけなのだが。

それはさておき見事に窓を開けた魔王様は家を囲う塀へ飛び降りた。

その姿は腐っても、猫になっても元魔王。曲芸師よりも軽やかだ。

そのまま塀の上を歩く。ときには途切れた道を飛び越え、進んでいく。

その歩みが揺らぐことはない。


「うーむ。あまり遠くまでは見えんな…」


周囲を見渡す魔王様。しかし余り遠くまでは見えなかった様子。

それも仕方ない。ここは住宅街のため家が景色を遮ってしまっている。体が小さくなってしまった魔王様には尚のことだろう。

溜息を一つこぼし腰を上げたとき視界の端で何かが動いた。それは蝶だった。

ひらひらと動くそれを認識した瞬間、眠っていた本能が呼び起こされた。


息を潜め、尻尾を振ってタイミングを測る。

全身の力を足に込め蝶を捕まえんと飛び出す。

蝶に向かって一直線に向かう。


「ぶにゃーっ!」


が、落ちた。

途中まではよかったが弧を描くようにしてそのまま落ちた。

そして現在、頭から茂みに刺さっている。

幸いなことに生い茂った葉がクッションとなり怪我はないようだがなんとダサいことか。

魔王様の尻の上では蝶が優雅に舞っている。これではまるでステージで踊らされるピエロではではないか。

なんとか脱出しようとする魔王様だがうまい具合に刺さったようで抜け出せない。


「ういしょっと」


しかしそのとき、変な掛け声と共にすぽんと救出された。


「お前さん大丈夫か?」

「むっ!おぉ、よくやった!褒めて遣わす!」

「ほーん、ニャンコロやったんか」

「誰が猫だ!」

「おーし、ニャンさんはどっからきたん?野良なんか?それとも飼い猫か?」


ブニャー!と威嚇をする魔王様。しかし青年は全く意に介さない。

その時、魔王様は閃いた。そう、今日の魔王様は一味違う。


「いや、まて。……ククク、フハハハハ!こやつを下僕 2号にしてやるわ!」

「?ニャンさん元気やね」


……どちらかと言うと残念な方で。

しかしながらそれが功を奏した。

大人しくなった魔王様を抱えた青年はしばらく悩んだ後歩き出しがすぐに足を止めることとなる。


「取り敢えずウチで体を洗おうか。汚れとるしね」

「て、ミコやんか。おーい、ミコー!」


青年が遠目に発見した人物に手を振る。

それに気付き手を振り返していたのは命だった。

近くへと行くと命は青年が抱えているものに気がついた。

そう、お宅の魔王様です。


「え?猫?いや、ドラ……だよな?」

「お、ニャンさんのこと知ってるん?」

「そいつ、うちで飼ってる猫もどきだ。……多分メイビーきっと」


胡乱げな目を魔王様に向ける命。

しかし魔王様のオリハルコンよりも固いハートはダメージを10割カット。


『命ー!お主は我の下僕なのになぜ我のことを覚忘れているのだ!』


空を眺める命。尻尾をパシリと叩きつける魔王様。ニコニコと笑っている青年。


混沌カオス。それに尽きる。




♢♢♢次回予告♢♢♢

魔王様を拾った“人間その2”はいったい何者なのか。命と知り合いのようだが……

魔王様ってば人間の言葉で話しちゃってるし!

って、一切動じない“青年”は何者だ⁉


next:にゃ王様、”青年”

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る