七月七日、七夕。今日は朝から雨雲が空を包んでいた。


 片付けはいつも通り、男たち。そして、初瀬もいた。

「キャプテンと初瀬さんって、最近、距離が近いですよね」部員の一人がそう言った。

 僕はドキッとしたが、初瀬はそうでもないのか?

「そう、正解」初瀬はニコッとして、片付けを続けた。可愛かった。


 誰もいないプール。僕と初瀬だけのプール。二人で縁に座って、話をしていた。

「今日は七夕だね」と初瀬。

「うん」

「雨だから会えなかったんだろうね」

「きっとそうだよ」

「でも、私が織姫だったら会いに来てほしい。だって、一年に一回よ!」初瀬は微笑んだ。

「僕が彦星なら会いに行くね。一年に一回だから」僕も微笑んだ。

「織姫も残念だね」初瀬は空を見上げた。

「でも、分からないじゃん。会ってるかもよ」

「だと良いね」


 しばらく沈黙していた。それは、嵐の前の静けさと言うか、叫びの前の一息と言うか。取り敢えず、何か大きいことが起ころうとしている前兆に思えた。心臓が、口内で舌を回すように鼓動した。


 突然、初瀬はプールに潜って対岸十二メートルまで行った。

浮き上がると、「私、村川くんのことが好き」と叫んだ。以前のように、髪を掻き上げた姿で、初瀬は告白したのだ。僕はどうすれば、どう言えば良いのか狼狽した。

「私の前にあるのは天の川。村川くんは彦星、私は織姫。さぁ、どうする?」初瀬は僕を導いた。

 プールサイドから、水面へ飛び込み、冷たい水の中、恐らく上には雨が降り続いている。そこで織姫が待っている。織姫の足が見えた。それに触れて、ゆっくり浮かび上がる。

「僕も、好きだ」

 

 僕と初瀬は、いつもみたいに帰った。しかし、その心身の距離は、見えて縮まっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

催涙雨 江坂 望秋 @higefusao_230

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ