第17話 光の魔力、白い闘技

 周りに注意しながら森の奥に進んで行くと開けた所に狼のような魔物が数匹いた。口から鋭い牙が出ていて噛みつかれたら痛いじゃ済まないだろう。


「あれはファングウルフですね。動きが速い上に群れで行動するので厄介な相手です」


 ルシアさんが敵の説明をしてくれる。俺はアンジェに目で合図すると小声で「マテリアライズ」と唱えて彼女を魔剣に変身させた。


『作戦はどうしますか?』


「突っ込んで行ってぶった斬ろうかと思います」


「それは作戦なんですか!?」


 作戦会議はほぼゼロ秒で終了。ルシアさんは少し呆れている様子だ。


「先手必勝で行く。全速で動き回って短時間で方をつけるぞ!」


『かしこまりました』


 作戦説明が終わると、俺は全力ダッシュして敵の群れの目の前に躍り出た。

 急に現れた俺に驚いてファングウルフ達は後ろに跳んで散開する。敵は密集せずばらけたのでどこから攻撃すればいいのか一瞬戸惑った。

 アンジェの言う通りに集団で活動しているだけあって見事な連携だ。

 しかし俺だって無策で戦おうとしているわけじゃない。この時の為に色々とイメージトレーニングをしてきたのだ。

 それに試してみたい技もある。


「確かこう、掌に魔力を集中するイメージで……」


『アラタ様、前方よりファングウルフが一頭接近しています』


 左手に魔力が集まり白く光る。アンジェの説明だと俺の魔力のオーラの色は白でそれに該当する系統は〝光〟。

 左手に集まった光属性の魔力を掌から光弾として発射した。


「吹き飛べぇぇぇぇぇ! 白零びゃくれいッ!!」


 白い光弾――白零は目の前まで迫っていたファングウルフに直撃するとそのまま敵を吹き飛ばしながら大木に直撃し爆散した。

 

「一体撃破。次は……そこか!」


 側面から回り込んでいた一体を振り向きざまに斬り倒す。それから俺は足底部に魔力を集中し爆発させるようにしながら駆ける。

 それにより一瞬で遠くにいたファングウルフの前に移動するとそのまま一刀両断した。

 残り一頭は他の個体より一際大きく牙も鋭い。多分この群れのリーダーだろう。

 俺は脚に魔力を集中してスピードを上げながら走り回るが、向こうの方がいくらか素早く追いつけない。


『敵はすれ違いざまに前足の爪で攻撃するか噛みつこうとするはずです。その瞬間に反撃を行うのが効果的と思いますが危険を伴います。私としては遠距離から魔術による攻撃か先程アラタ様が使用した白零での攻撃を推奨します』


「そうか……なら遠距離攻撃でいってみる。丁度試してみたい闘技があるんだ」


 そう言うと俺は魔力を練り上げてグランソラスへと送り込んでいく。これまでのアンジェの闇系統の魔力ではなく自分自身の光系統の魔力を刀身に集中させる。

 漆黒の刀身を白い光が覆っていく中、ファングウルフは正面から俺に向かってきた。


「敵は正面か……この一撃で決める。光の闘技――白牙びゃくがァァァァァァ!!」


 グランソラスの刀身に込めた光の魔力を斬撃波として斬り放つ。三日月に似た白い刃は巨大な牙のオオカミを一撃で斬り裂き葬り去った。

 それでも白牙は消滅せず大木を数本破壊して消滅した。


「やった! ……けど、こいつは使いどころを考えないといけないな」


 魔物を倒せたのはいいが周囲の被害が大きすぎる。白牙を使う時には周りに気を配る必要がありそうだ。


『アラタ様、今の白い斬撃波はもしかして……』


 どうやらアンジェは白牙の正体に気が付いたようだ。元々は彼女の技なのだから当然と言えば当然か。


「以前オークを倒した無影斬を光系統の魔力で放ってみたんだ。これだけの威力なら決め技として使えそうだ」


『試してみたい技とはこれの事だったのですね。確かにこれほどの威力であれば大抵の魔物はひとたまりもないはずです。――それにしても、この短期間で闘技の扱いをマスターしてしまったみたいですね。さすがです』


 魔闘士の技は大きく分けて二つの種類がある。

 一つ目は術式を組み込んだ魔法陣に魔力を充填し発動する〝魔術〟。

 二つ目は魔力を身体の一部分に集中したり武器に集中したりして放つ〝闘技〟。


魔術は魔法陣の術式が複雑化するほど発動に時間が掛かるが、効果範囲が広くなったり特殊な現象を引き起こすことが可能だ。

一方の闘技は、攻撃時に魔法陣を用いない事から発動が速い。

その攻撃内容は集中した魔力を斬撃波として放つなど単純なものが多いが、その分魔力次第で凄まじい威力になったりもする。


 ファングウルフの肉は固くてまずいため食用には使えないが、その体毛は色々と使い道があるらしく、毛皮を剥いでインベントリバッグにしまった。

 

 それからも次々に出て来るゴブリンなどの魔物を倒し経験を積んでいく。少しずつ暗くなってきたので拠点に戻ろうとした時、俺たちはそいつに遭遇した。

 見た目は牛に似ているようだが、あれは食べられるのだろうか。こっちが訊くよりも先にアンジェが嬉しそうに話しかけてくる。


「アラタ様、大当たりです。あれはブルセボーンという魔物で上質のお肉が味わえます。今夜はステーキに決定です」


「マジか! よーし、絶対に倒して見せる!!」


 ――それから約一時間後、俺たちは拠点へと戻っており夕飯の準備をしていた。

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