第16話 ABCな関係
ゴブリンを倒した後、ルシアさんはその亡骸に近づいて行った。
「アラタさんは倒した魔物の体内から魔石を回収したことはありますか?」
「いや、ないです。以前倒したオークは完全に消滅して、ヤツが最後にいた所に魔石が落ちていたのを回収したので」
「なるほど。――では、私が魔石回収のお手本を見せますからよく見ていてください」
ルシアさんは手に炎を灯すとゴブリンの左胸に触れてその部分を焼いていき体内の魔石を取り出した。
「こんな感じです。簡単ですよ」
「いやいやいやいや! 俺、炎の魔術なんて使えないですよ。それは多分ルシアさんのような炎の使い手じゃないと無理!」
気合いを入れていたルシアさんはハッとすると一気に赤面する。
「そう……ですよね。ごめんなさい、私ったら自分中心で考えてしまって。それなら道具屋で魔石取り出し用のナイフが売っているのでそれがお勧めですよ」
未だに顔を赤くしつつ笑顔で他の方法を教えてくれる。アンジェとは違ったタイプでこれまた可愛いなこのお姉さん。
そんな事を思っているといつの間にか俺の後ろいたアンジェがちょっと怒りながら俺の背中をつねった。
「あ痛ッ! ちょ、何すんのアンジェ。痛いじゃないか」
「私とAを飛ばしてBをしていながらいきなり浮気心を見せるとは、中々やるじゃないですかマスター。浮気をするならせめてCをやってからにして欲しいものです!」
「怒るとこそこ!? やっぱりアンジェの怒りポイントが分からないよ。ていうか、よくそんなABCのことなんて知ってるね」
多分今時の若者は知らないであろう男女の恋愛進展度を示すABC。俺は漫画で知ったのだが、アンジェはどうしてそれを知っているんだろうか?
あれ、待てよ。その漫画はアンジェがうちに来た時に押入れの奥に隠したエロ漫画だったはず。嫌な予感がするぞ。
「アンジェ……あのさ、俺の部屋の押入れの事なんだけどさ」
「存じております。中に入っていた数々の卑猥な書物は全て目を通させていただきました。実に興味深かったです。あれでアラタ様の性癖がだいたい把握できました」
「……ヤメロ。モウソレイジョウナニモイウナ」
やっぱりこのエロメイドは俺が隠していたエロ漫画及びエロ雑誌に目を通していたらしい。たった一晩の間に全て読み込むとは本当に恐ろしいメイドよ。
「巨乳」
「――う!」
「メイド服」
「――ぶふっ!」
「近所のちょっとエッチなお姉さん」
「――はうあっ!」
もうやめて……やめたげて……もうこれ以上俺の性癖を暴露するのはやめてよぉ。
「アラタさんって、巨乳でメイドでエッチなお姉さんが好みなんですか?」
「――ぶべらっ!!」
アンジェの攻撃が止まったらと思ったら思わぬ伏兵がいた。
暴露された俺の大好物をてんこ盛りにした夢の存在をルシアさんが口にする。アンジェはともかく、こんなまともな人に知られるとは胸が痛い。
きっとこの先ルシアさんの中で俺は巨乳メイドなお姉さんが好きなスケベ男というレッテルが貼られるのだろう。
……あれ? ちょっと待てよ。それはそれで何だか悪くないシチュエーションのような気がする。
また一つ新しい扉を開いたんじゃないの、これ?
「それってアンジェちゃんのような人じゃないですか? それにしてもアラタさんって結構エッチなんですね。ふふふふふふ!」
俺のどストライクがアンジェだと言う衝撃、ルシアさんにエッチだと言われて興奮を覚えた自分に対する衝撃、何しにここに来たのか忘れてしまいそうになるぐらい俺はおかしくなっていた。
アンジェの掌の上で踊らされ、ルシアさんにエッチ認定されつつ何やかんやで目的地に到着した。
近くには小さな滝つぼがあり綺麗な水が豊富にある。水源確保が安定したらこっちのものだ。後は落ち葉や木の枝を大量に集めれば焚き火が出来る。
「それじゃ、落ちてる枝とかを拾ってくるよ」
「「――え?」」
アンジェとルシアさんが不思議そうな顔をしていた。
「アラタ様、そのような物がなくても問題はありませんよ」
そう言いながらアンジェがインベントリバッグから取り出したのはコンロのような魔道具だった。
赤いエナジストが埋め込まれており、アンジェが魔力を流すとコンロに火がつく。
他にも魔物除けの障壁を発生させる呪符やテントなど充実したキャンプ生活が可能なアイテムが次々と出て来た。
「いや……だから、これのどこがサバイバルなん?」
「何を言ってるんですか、アラタさん。これら一式がなければ冒険者は安心してダンジョン攻略なんて出来ないですよ。魔物と戦った後は安全地帯を確保しゆっくりと休む。これが長時間ダンジョンに潜る秘訣です」
「なるほど」
確かに言われてみればそうかもしれない。ダンジョン攻略の目的は魔物の討伐とアイテムの回収だ。
サバイバルを楽しむために行くわけじゃない。休息する時はちゃんと休んで体力を回復する。そのための魔道具だということか。
さて、拠点は確保できたが日が沈むにはまだ時間がある。このまま休むには早いだろう。それに周囲には沢山の魔物の気配がある。
それらをある程度減らしてからの方が夜もゆっくり休めるはずだ。
「アンジェ、もう少し魔物を倒してみたいんだけどいいかな?」
「私も同じことを考えていました。それに食材を調達したいというのもありますし」
「食材ってもしかして魔物を食べるの?」
「はい。その全てではありませんが中には食べられるものもいます。主に四足獣タイプの魔物ですね。逆に二足歩行するタイプの魔物は肉は固くどのように調理しても美味しくならないので除外されます」
どうやらゴブリンやオークなどを食べなくて済みそうなのでホッとした。
そうなるとまだ会ったことの無い四足獣タイプの魔物を倒さなければならない。イメージするならヒョウやライオンのような感じだろうか。
だとしたら動きが素早い可能性が高いから注意が必要だろう。周囲に警戒しつつ今夜の晩御飯を求めて俺たちは再び探索に出るのであった。
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