第18話 ダンジョンの夜
ブルセボーンはアンジェの手によって解体され、いくつもの上質な肉の塊になっていた。
分厚く切り分けられた肉をルシアさんが焼いている。彼女が用意したコンロ型魔道具にフライパンを置いて、炎の魔力を用いて強火で焼いていく。
「基本的な味付けは塩コショウだけで十分です。そこに森に生えていたハーブ類を加えて焼いていけば。――ハイ、出来ました。ブルセボーンの香草ステーキです」
「アラタ様、スープとサラダの方も出来上がりました」
インベントリバッグから取り出したテーブルに三人分の食事を並べていく。
こうして今夜の晩御飯はブルセボーンの香草ステーキをメインとしてサラダとスープが脇を固める素晴らしいものになった。
魔物が巣くうダンジョンのど真ん中でこんなご馳走にありつけるとは思わなかった。
「いただきます」
ステーキにナイフを入れると特に抵抗も無く切れてしまう。それだけで肉が柔らかい事が分かる。
一口サイズに切り分けて口の中に入れると噛むたびに上質の肉汁が口の中に広がっていく。
想像以上に肉は柔らかく大して咀嚼しない内に溶けて消える。こんな美味しいステーキは初めて食べた。
素材が良いので塩コショウによる最低限の味付けだけで十分だ。同時にハーブの爽やかな香りが良いアクセントになっている。
サラダはシャキシャキで食感が良く酸味の効いたドレッシングで口の中が爽やかになる。スープはコンソメ風味で味付けは薄めにしてあるみたいだ。
夕飯の主役であるステーキの味と喧嘩しないように味付けを調整しているのだろう。そのあたりを普通にやってしまうあたりアンジェの料理の腕は相当高いことが分かる。
ルシアさんのステーキの焼き加減も完璧だ。外側はしっかり焼かれていて中は適度に熱が入り非常にジューシーだ。
二人共料理が上手だからこそ実現した晩御飯だった。そのあまりの美味しさにあっという間に平らげてしまった。
「ご馳走様でした。とても美味しかったぁ。二人ならこれでお店出せるんじゃないかな。絶対人気が出ると思うんだけど」
「アラタ様、褒め過ぎです。でもそういうのも悪くはないかもしれませんね」
「お口に合ったみたいで良かったです。朝食には出来立てのパンを出しますから楽しみにしていてください」
パンと言えば宿屋の食事で出されていたパンは焼き立てで美味しかったのを思い出す。
「もしかして宿屋のパンはルシアさんが作ってたの?」
「はい、そうですよ。その他にも宿屋では焼き物系の食事は私が作っていました」
宿屋で提供された食事はどれも美味しかった。料理上手なアンジェも舌鼓を打っていたぐらいだ。
「ルシアは昔から料理上手でしたからね。特に焼き物に関しては絶品です。ルシアの遠赤外線効果は強力ですね」
「私……かまどじゃないんですけど……」
それから夕食の後片付けを終わらせるとシャワー型の魔道具で一日の汚れを落とし就寝する事となった。
快適なシャワーを浴びながら俺はもうサバイバルがどうのこうのと突っ込むのは止めにした。
冒険者御用達の大型のテントを設置し寝床は完成、その周囲には魔物除けの結界を発生させる護符を張り魔物が苦手とするお香を焚いて、数日間火を灯すランタンを設置し就寝の準備は整った。
この森に出て来る魔物程度ならこれだけの処置をしておけば十分安全なのと万が一魔物が近づいて来ても結界の効果で入ってこれない、または俺たちが態勢を整えるまでの時間稼ぎが可能とのことだった。
しかし、ここで新たな問題が発生する。
このテントは独り暮らしをしていた俺の部屋と同程度の広さがあるのだが、用意されていたのは一つだけなのだ。
つまりテントの中でアンジェとルシアさんと一緒に寝なければならない。
「……俺は外で寝ます」
「却下です。アラタ様にはしっかり休んでいただいて明日も頑張ってもらわなければなりません。ですから絶対にテントで寝てもらいます。そして私とルシアもテントで寝ます。これは決定事項です」
アンジェは有無を言わさず三人仲良くテントで寝ると主張している。こうなったら彼女はてこでも動かない。
胸元がやたら大きく開いたピンク色のネグリジェだ。何でこんなセクシーな恰好をしているんだこの人は。
「ルシアの寝間着が気になるのですか? それでしたらダンジョンに行く前の買い出しで私とお揃いで購入した物です」
アンジェがやたら得意げに話す。本当に何を考えているんだこのメイドは……。そう思いアンジェに視線を戻すと彼女もネグリジェに着替えていた。
ルシアさんが来ている物とデザインは同じだが色は水色だ。俺が視線を逸らした数秒の間にどうやって着替えたのだろう。
「明日もダンジョン探索で忙しくなりますからしっかり寝ましょう」
結局俺は二人に流されるままテントで寝ることにした。そして、三人で川の字になって横になったのだが何故か俺が真ん中に寝かされた。
右を見ると銀髪美女が左を見ると赤髪の美女がいる。しかも二人共かなりセクシーな寝間着姿になっているのだ。
「アラタさん、お休みなさい。明日も頑張りましょうね」
「アラタ様、私はいつでもいけますよ」
ルシアさんはともかく、アンジェは何を言っているんだ。この状況で何がいけると言うのだろうか。
――数分後、俺の両隣の女性二人はすぅすぅと寝息を立てていた。
そんな二人の心地よさそうな寝顔や胸の谷間を眺めながら夜が更けていく。童貞の俺には刺激が強すぎる光景だったのは言うまでもない。
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